第13話

そう言うと二村先輩はニコッと白い歯をのぞかせて笑った。



その笑顔にはエクボができて、思っていた以上に可愛らしい。



あたしの心臓がドクンッと跳ねた。



「どういたしまして」



「あの、二村先輩は大丈夫ですか?」



二村先輩はあたしを守ったせいで背中にボールが当たったはずだ。



「これくらい全然平気だよ。鍛えてるからね」



そう言って力拳を作って見せる。



こうして会話してみると、結構話やすい人かもしれない。



少なくても1年生の大田君よりもずっとマシだ。



「あの、あたし2年1組の天宮朱里って言います」



「俺は3年の二村」



「知ってます。あの、また見に来てもいいですか?」



「もちろん」



その言葉に天にも上る気持ちになる。



女子生徒たちはみんなあたしを見て、羨ましがっているのがわかった。



やっと見つけた!



あたしの、本物の王子様!



あたしはそう思いスキップをしながら教室へと戻って行ったのだった。



教室へ戻ると仏頂面の佐恵子が待っていた。



昼休憩に入ると同時に、なにも言わずに教室を飛び出したのが原因みたいだ。



「ちょっと朱里、今までどこに行ってたの? もうお弁当食べちゃったよ?」



「ごめんごめん。ちょっと用事があったの」



そう言ってそそくさとお弁当を取り出す。



昼休憩が終るまであと10分ほどしかない。



早く食べないと。



「また用事? 今日はそんなに用事ばっかりあるの?」



佐恵子はそう言ってあたしの机の前で仁王立ちをした。



さすがに、なんでもかんでも信じてくれるわけじゃなさそうだ。



「ごめんって。でも、今回はちゃんと見つけてきたから」



「見つけてきたってなにを?」



「運命の王子様」



そう言い、あたしは左小指の赤い糸を佐恵子へ見せた。



もちろん、この糸が見えていないことは知っている。



「運命の王子様って、大田君じゃなかったの?」



大田君の名前にあたしは大きくため息を吐き出した。



「違ったんだよ。大田君じゃなかったの」



「なにそれ。あんなに仲良くしてたのに、ちょっとヒドクない?」



佐恵子の言葉にあたしは瞬きを繰り返した。



佐恵子から見れば、あたしが複数の男の子にいい顔をしているように見えるのだろう。



でも違う。



これは運命の相手を探すために必要なことなんだ。



「大丈夫だよ。大田君も理解してくれてるから」



糸を切った時点で、大田君はあたしに興味を失っている。



現に、毎日来ていたメッセージは送られてきていない。



「じゃあ、次の人は誰?」



「サッカー部の二村先輩」



あたしは佐恵子にだけ聞こえるよう、小さな声でそう言った。



佐恵子はあたしの言葉に目を見開いている。



「二村先輩って、人気者の?」



「そうだよ。だいたい、あたしはイケメンが好きなんだもん。二村先輩くらいが相手じゃなきゃねぇ」



そんなあたしに佐恵子が呆れ顔になった。



「でも、そんなにうまく行く? 二村先輩は本当に人気者だからライバルも多いでしょ」



「心配しないで佐恵子。二村先輩とは絶対に仲良くなれるから」



それはこの赤い糸が証明していることだった。



あたしと二村先輩は切っても切れない糸で結ばれているのだ。



あ、あたしが切れば切れちゃうか。



まぁいっかそんなこと。



切らなければいいだけだもんね!


☆☆☆


放課後になると、あたしは3年生の下駄箱までやってきていた。



次々と先輩たちが出てくる中、あたしは二村先輩ただ1人だった。



これからサッカー部の練習があるだろうけれど、1度はここを通るハズだった。



「ちょっとあんた」



後方からそんな声が聞こえてきて振り向くと、見知らぬ女子生徒が3人立っていた。



なにやら腹を立てているようで、あたしは睨み付けられている状態だ。



「なに?」



何年生か知らないけれど、初対面の人に睨まれる筋合いはない。



あたしは低い声でそう言って3人を睨み返した。



「今日の昼間グラウンドにいたでしょ」



ポニーテールをしている1人にそう言われて、あの時見学していた女性との1人だとわかった。



「いたけど、なに?」



おおよそ二村先輩のファンか何かだろう。



「二村先輩に近づくのやめてくれる?」



『先輩』と呼ぶということは、2年か1年の子みたいだ。



それなら遠慮することはなかった。



「ちょっとやめてよ!!」



あたしはわざと大声でそう言った。



出て来た先輩たちが何事かと視線を向けて来る。



「あたしなにもしてないじゃん!」



騒ぎ立てるあたしに女子3人組はおろおろし始めている。



先輩たちが見ている前だし、手出しはできないはずだ。



「なに? どうかした?」



下駄箱の方からそんな声がしたので振り向くと、二村先輩が出て来たところだった。



ナイスタイミング!



女子3人がサッと青ざめるのを見た。



あたしはそんな3人を放置して、二村先輩へ駆け寄った。

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