第11話
☆☆☆
学校の近くにあるファミレスへやってきたあたしたちは、それぞれにドリンクだけ注文した。
それほど長居はしないだろうと思ったのだ。
「あの、どうして先輩は1年の階にいたんですか?」
そう聞かれて、あたしは「う~ん」と、頭をひねった。
まさか、赤い糸の相手を探していてたどり着いた。
なんて、言えるはずがない。
言ったとしても、信じてもらえないだろう。
「新入生代表の子って、どんな子かなぁと思って」
今誤魔化すなら、この話題しかなかった。
だって、あたしと大田君の接点なんてなにもないのだから。
「そうなんですね」
大田君はあたしの言葉を信じて、嬉しそうにほほ笑んでいる。
純粋で素直な子みたいだ。
「ねぇ、あたしのことが噂になってるって本当?」
そう訊ねてみると、大田君はうんうんと大きく2度頷いた。
「そうですよ。2年生に可愛い子がいるって」
「そうなんだ」
そう言われると悪い気はしなかった。
運ばれてきたミルクティーをひと口飲んで、口元に笑みを浮かべる。
「俺、ちょっと前に天宮先輩のことを食堂で見かけたんですよ」
「え……」
それは前回の赤い糸の相手を探していたときのことだろう。
あたしはいつもお弁当を持参しているから、食堂へは滅多に行かないから。
「あの時、体調悪そうでしたよね?」
「あぁ、うん……。でも大丈夫だよ。もうすっかり元気」
あたしはそう言って笑った。
高原が相手だとわかったあげく、カオルと葉子先輩の関係まで知ってしまってシュックだったからだ。
カオルのことを思い出すとまだ胸が痛むけれど、高原の問題は片付いたからもう大丈夫だ。
「そうですか、それならよかった」
大田君はそう言い、本当に安心したようにため息を吐き出した。
他人のことを自分のことのように考えられるのかもしれない。
うん、悪くない。
「ねぇ、よかったら番号交換しない?」
あたしはそう言い、スマホを取り出したのだった。
この糸をもう1度切ったら、今度は誰と結ばれるんだろう?
お風呂の中でふとそんな考えが過った。
1度糸を切ったら、別の人と糸が繋がった。
しかも、高原はあたしのことなんて忘れてしまったかのように感心がなくなっている。
その半面、あたしと繋がった大田君は接点なんて全くないあたしに感心を寄せて
くれている。
「そういう糸なのかなぁ……」
あたしは自分の小指を見つめて呟いた。
この糸で繋がった相手とは仲良くなりやすくて、切れば感心がなくなる。
「それなら、別に大田君じゃなくてもいいのかも」
また切れば、大田君よりももっといい人と繋がる事ができるかもしれない。
「なんてね。そんな都合のいい糸なわけないか」
☆☆☆
翌日から、あたしは大田君とメッセージのやりとりを始めた。
内容は他愛のない日常会話だったけれど、大田君の頭の良さを伺うことができた。
「朱里、最近大田君と仲いいね」
学校の昼休憩中、佐恵子がそう言って来た。
「うん。まぁ、悪くはないかな?」
校内で見かければお互いに声を掛け合うし、この前みたいに放課後に一緒にファミレスへ行くこともあった。
順調な関係だと思う。
「もう付き合ってるの?」
そう聞かれたのであたしは「まだだよ」と、返事をした。
しかし、その返事に佐恵子が目を輝かせる。
「まだってことは、いつかはって思ってる?」
そう聞かれると、返事が出来なかった。
確かに、あたしと大田君は赤い糸で結ばれているし、一緒にいて嫌だとは感じない。
けれど、一緒にいて楽しいかと聞かれたら疑問を感じる。
好きな相手なら一緒にいて楽しいし、ドキドキするだろうけれど、そういうことは一切なかった。
「どうだろうな……よくわからないかも」
あたしはそう言ってスマホを机に置いた。
丁度大田君から放課後の誘いのメッセージが来ていたから、返事をしようとしていたところだった。
「なにそれ。気になるから声をかけに行ったんだよね?」
あたしの返事に佐恵子は混乱している。
気になったのは大田君じゃなくて、赤い糸の相手の方だ。
その相手が偶然大田君だったから、声をかけただけ。
そう思うと、自分の心がどこにあるのかわからなくなってきてしまった。
「好きじゃないかも」
「え? なにそれ」
佐恵子は瞬きをしてあたしを見る。
でも佐恵子のおかげで自分の気持ちがしっかりと理解できた。
あたしは別に大田君のことが好きじゃないんだ。
だから、付き合うこともないだろう。
これから先好きになることもあるかもしれないけれど、それがいつになるかなんてわからない。
「きっと、大田君もあたしの運命の人じゃなかったんだよ」
「なに言ってるの? こんなに仲良くなったのに……」
「仲良くはなったけどさ、会話が止まるときが多いんだよね」
あたしは大田君と一緒にいるときのことを思い出してそう言った。
何度かファミレスで会話をしたけれど、1時間の内半分くらいは沈黙していることが多い。
大田君が緊張しているのと、共通の話題が少ないのが原因だと思った。
学年が違うと流行っているものも違うし、共通の友達もいない。
毎回テレビ番組の話なんかになって、結局会話が途切れてしまうのだ。
「会話が止るのは最初の頃は仕方ないんじゃない?」
「そうかなぁ?」
佐恵子の言いたいことは理解できた。
最初から気さくに、なんでも会話できるような相手なんてそうそう見つからないだろう。
だけど、運命の相手ってきっとそういう人のことを言うんじゃないかな?
あたしはスマホ画面を見つめた。
今日の誘いをオッケーしようと思っていたのだけれど、その文章を消して打ち直して行く。
《朱里:ごめん。今日は予定があるから早く帰るね》
そんな嘘のメッセージを大田君へ送る。
「ちょっと朱里、いいの?」
それを見ていた佐恵子が慌てて聞いて来た。
「大丈夫大丈夫。王子様はもっと他にいるんだから」
例えば……草山くんとかね?
あたしはそう思い、教室内で友人と談笑しながらお弁当を食べている草山くんに視線を向けたのだった。
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