第189話 あれから一年経つわけで①

 奈々菜です。

 お兄ちゃんと翠ちゃんがバスケの全国大会に行ってる間に私達はクリスマス楽しんだんだけど……ちょっと『来年のトラブル』な予感がしてならない出来事があった。

 

 クリスマスは翔馬と藍達の四人でクリスマスマパーティーだ。一応、六花も誘ったんだけど、カップルズの中には入れないって断られた。

 ついでに蘭華ちゃんは彼氏ができて今年はそっちで楽しむのかと思ったら、お兄ちゃんからの紹介はバスケ部員だ。残念ながら全国大会に行ってるから会えないって泣いていた。

 因みに普段の蘭華ちゃんは藍が家に遊びに来るから、出来るだけ彼氏の家に出向いてるそうだ。


 ——— そして今年のクリスマスは去年と同じく滝沢家でやったんだけど、冒頭に話した『トラブルな予感』がが発生する。


 私と藍は翔馬達の家の最寄駅を出て二人で廉斗君の家に向かう。

 駅に近いのは廉斗君の家だ。さらにその先に翔馬の家がある。

 廉斗君の家に着くと、藍だけが入って私は一人翔馬の家に向かう。そして翔馬と二人で廉斗君の家向かう。ほんの数分の事だけど、この時間が私は大好きだ。

 因みに私達はここまでの道中、キャスケットで顔は隠している。


 今、私はいつものように翔馬と手を繋いで歩いていた。当然恋人繋ぎだ。

 

 ——— “カン♪ カン♪ カン♪ カン♪ ……„


 今日はタイミング、踏み切りの遮断機が降り私達の行き先を阻む……二人でこうしている時間が一秒でも長く取れるから遮断機君は私の味方♡ こういう障害は大歓迎だ。

 電車がけたたましい音を立てて通り過ぎて行く。

 電車が通過すると向こう側に女の子が一人立っていた。

 その女の子は私達に気付くと『何かに気付いたような表情』をした。


 ——— 翔馬かな?


 何となく『翔馬に気付いた』ように思えて翔馬の顔を見ると翔馬は何となく気不味そうな表情をしている。

 遮断機が上がり私達は当然踏み切りを渡る。

 目の前の女の子も当然こっちに向かって歩いてくる。

 女の子は明らかに私と翔馬の繋がれた手を見て、そして、私の顔を見て翔馬の顔を見る。私は彼女から目が見えないように俯き加減で歩いた。

 当然私の視界は足元しか見えないわけで、私の行き先は完全に翔馬に委ねる。

 すると足元しか見えない視界にその女の子の足が入って来た。彼女は私達の前に立ち塞がり話しかけてきた。


「翔馬じゃん! 久しぶり」

「よぉ……」

「何? 彼女出来たの?」

「ん? いや」

「隠さなくてもいいじゃん。手なんか繋いで彼女じゃ無いならなんなの? 紹介してよ」

「紹介しなくても良いじゃん。急いでっからじゃあな」


 私は彼女の顔を見る事なく翔馬に連れられこの場を離れた。

 翔馬の顔を見ると気不味そうな表情で私を見た。

 当然私は疑問に思うわけで、


「……誰?」

「あぁ、小学校の同級生」


 とだけ教えてくれた。

 翔馬の表情を見ると嫌そうな顔をしていた。気不味そうじゃないから、私に対する後ろめたさじゃ無いからいいんだけどね。

 一応、私を見て微笑むが明らかに顔が引き攣っている。何その顔……ちょっと面白いんだけど……。

 

 私は何となく後ろを振り返り、帽子のツバからそっと彼女の姿を覗き見ると、彼女はコートポケットに手を突っ込み、こっちを見ていた。

 チラッとだけ見えたその容姿は極普通の女の子だ。髪は肩より少し長めで身長は私と同じくらい。佇まいからちょっとボーイッシュな印象を受けた。

 ただ、翔馬に向けられている表情は、「良いもの見ちゃった」って感じの、ちょっと悪巧みを感じさせる表情だった。

 

 ——— なんだろう……私達の行き先を阻んできそうな存在感とでもいうのだろうか? 

 この手の『私達の行き先を阻む』は当然忌避きひしたいところだ。



 ※  ※  ※



 ——— 久々だけど嫌な女に会った。

 アイツにだけは奈々菜といるのを見られたく無かった。

 あの女は小学校の時の同級生である意味『悪友』だ。

 アイツは俺を振り回す自己中心的で煩い奴だ。俺に取っては疫病神だ。アイツは気にしてないようだが俺にとっては相性が悪い。

 アイツのせいで一時期クラス内で孤立したこともあった。

 まさかとは思うが来年学園に……ヤベッ、これはフラグを立てたかな?


 ——— ま、仮にあの女が学園に入学して来ても、奈々菜さえ俺を信じててくれれば……。

 


 ※  ※  ※



 ——— 奈々菜は翔馬君を迎えに行ってる間、私は廉斗君と部屋で二人でイチャイチャしていた。勿論、家には蘭華ちゃんも帆奈ちゃんもいる。

 人前だとそれなりに距離は取る私達だが、誰も見てないところではかなりイチャイチャしている。

 抱っこは普通だし、キスだってそれなりにする。偶に服の上からおっぱいを揉まれる時もある……いや、揉ませてんのかな? そこは大事じゃなく、そこから先はまだしていない。流石に中学生だ。ちょっと躊躇うところではある。

 ついでにファーストキスは修学旅行から帰ってきて、ちゃんと廉斗君と付き合うって決まってからだ。

 場所はこの部屋。

 驚く事に廉斗君からのリードだ。

 偶に私を強引にリードする時がある。その時は私を『藍』って呼び捨て呼ぶ。

 この時の廉斗君はちょっとSぽくてすんごく好き♡ ギャップ萌え何だろうか? 結構ワイルドなところを見せるからドキドキさせられる。

 

 一通りのイチャ付きも終わって、私は翔馬君に来年の部活について相談していた。というのも、高等部も同じ部活を続ける子はそのまま参加しているが、私と奈々菜、そして廉斗君達二人も部活に参加せずに居たのだ。

 周りからも、あれだけやる気に満ちてて全国大会も優勝して、そのまま高校でも続けるものだと思われている。当然周りは『どうしたんだ?』って思う訳で、直接『何があった?』とも聞かれてもいる。理由は単純だ。


 ——— モチベーションが上がって来ないのだ。


 『燃え尽き症候群』ってやつなのか、全然やる気が出て来ない。こんな事は初めてだ。

 奈々菜も同じだって言ってた。

 高校に入ってから強い相手と……って思う事すら億劫になっている。


「廉斗君は高校入っても部活続けるの?」

「……正直ちょっと悩んでた」


 彼もまたモチベーションが上がらずにいた。


「翔馬も悩んでるみたいだね」

「やっぱり?」

「実はさ……ちょっと前から思ってた事あって……」

「何?」

「高校入ったらバスケやろうかなって」

「バスケ?」


 意外な単語が出てきた。確かに3×3での廉斗君は生き生きした感じがしていたけど……。


アークバスケのスリーから決めた時、リングに触れずにボールが通ると滅茶苦茶気持ち良くてさ……」

「…………あはははは」

「え? 何?」

「背中に電気走ったんだ?」

「ハハ、分かっちゃった?」

「分かるよ。私も同じだもん。あれ程気持ちいい瞬間ないよね」

「うん」

「しかもマーク交わしてからのシュートで “スパッ„ と行くと、滅茶苦茶気持ちいいよね」

「そうそう。でさ、流星君からのパスがまたそのお膳立てな感じで一連の動きがハマった時がテニスの時とは比べ物にならない程の気持ち良さでさ……」

「分かるぅ♪ なんか悩みが一気の飛んだよ。廉斗君も同じだったんだ。じゃあ決まりだね」


 ハッキリ口にしなくてもお互い来年はバスケ部に入る事で決定した。

 奈々菜と翔馬君はどうするんだろ?

 この後、話を聞こうと思ったけど、そんな空気にもならず、今日は結局聞けずじまいでいた。

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