第188話 ウィンターカップ④
―――大会4日目準々決勝。
男子はこの準決勝からメインコートで一試合ずつの試合になる。
対戦相手は、ブッチのチーム「野々白工業」。
既に第2クォーター中盤で、得点は「72 対 73」だ。
「思ったとおり、互いにディフェンスが機能してないな」
「相手はブッチだ。ゾーンもマンツーマンもへったくれもねぇな」
「昨日、お前らが言わんとした事が分かったよ。お前らも分かってないんだな」
――― 野々白ボール。
ボールはブッチが持っている。
「さっきから、こいつのフェイクが……くそっ! 反応したく無いのに体が勝手に反応してしまう」
「スリー来るぞ!」
「先輩違う! それはパスだ!」
――― そして、新山も……。
「7番来るぞ!」
「次は4番マーク! ……何! 7番後ろから……だと!」
―――“パサッ„
宗介のスリーが決まる。
野々白のメンバーも、宗介と柳生君のプレーを称賛している。
「7番、本当に万能プレーヤーだな」
「4番もキツイな。7番ほどじゃ無いが、確実に今大会、屈指のレベルだ」
お互い相手オフェンスの攻略が無いまま、第2クォーターが終了した。
得点は「89 対 89」だ。
試合はまだ半分。なのにこの点数って、どれだけ双方のディフェンスが機能していないのか。
「あっちの5番。癖が凄すぎるな」
「あいつは、先入観とか概念とか全てぶっ壊してくるんで」
「さっきなんて、ゴール下でバレーのトス上げてたな」
「空手の肘打ちでパスしてたし」
「しかも型が決まってたな」
「レッグスルーとバックスイッチなんて、空振りしたと思ったらパスだもんな」
「フェイクもフェイクになってないのに釣られて反応してしまうし」
「スリーの軌道も宗介並み……いや、それ以上に高いな」
「実は俺のスリー、実は彼の真似ですからね」
「マジか! お前が模範するなんて……」
オフェンスに対する攻略の糸口は無いまま、第3クォーター入った。
野々白ボールからだ。
――― そして、宗介とブッチがマッチアップだ。
「テクニシャンの新山7番と、トリッキーの野々白5番がマッチアップだ! これは見物だぞ!」
「二人とも動けない。先に動いた方がやられるってやつか?!」
ブッチが繰り出す、相変わらずのリズム感の無いドリブルに、リズム感の塊とも言える宗介は、凄くやりにくそうだ。
※ ※ ※
「お前リズム感どうなってんだ?」
「俺の右手は器用だからな。そして左手は不器用だ」
「言ってたな」
「ただな、最近思ったんだよ。不器用な左手の結局は俺の手だって。そう思ったら左手も使えるようになったぞ!」
そう言ってブッチはレッグスルーからのドライブに入る体勢に入った!
「行かせるか!」
俺はブッチに合わせてマークに付いて行く。
——— マジか! 半年足らずで左手の不器用さを克服……え?
俺は目を疑った。ブッチに合わせて俺はマークを外さず一緒に動いていたのだが、ブッチはボールを持っていない。何処だ? ボールは……。
「ハハッ、ボールを持たない俺をブロックとは……さて、ボールは何処でしょう?」
「―――!」
ブッチの手にはボールが既に無かった。
俺はボールを見失った。
「――― ボールはどこだ⁈」
振り向くと、なんと、ブッチが元いた場所にボールが置かれていた。
あり得ないぞ! その場にボールを置くなんて。
そして、まるで申し合わせていたかのようなタイミングで、野々白の4番が、すかさずボールを拾いそのままシュートした。
——— 信じられるか? 思いついても、普通、誰もやらないぞ!
ボールをその場に置いて来るなんて、街の大通りのド真ん中に財布置いて放置するような行為だ。
それを難なくやってのけるブッチ……。
悔しいが、試合じゃなければ「そこにシビれる!あこがれるゥ!」を、確実に大声で叫びたい。
しかし、何か手はないものか―――。ゲームは拮抗。攻めれば必ず点が入る。攻められれば確実に点を入れられる……。
すると今度は信じられない光景が! ここに来て奥の手を出して来た。
なんと! スリーポイントラインからシュートがしか入らないはずのブッチがミドルレンジからシュートを決めた。しかしボールの起動は異常なほど高かった。
俺は元より流星が一番驚いている。
「お前……スリー以外……」
「気付いたんだよ。力加減が出来ないなら高さで調整すればいいって」
——— 互いに得点が進む中、今度はセンターライン付近からシュートを決める。
——— そうか! ブッチの軌道は元々高い。なら軌道を低くすれば同じ力加減で後ろからでも決められるって理屈か……角度の調整が難しいだろ! いや、俺が普段やってる力加減の調整と同じか?
ブッチのウィークポイントの一つだったシュート位置の制限が無くなった。
——— シュートレンジの欠点も補って来た。フェイクはトリッキーな発想も相まってフェイクなのかも判断に迷う。
以前にも増して型破りにも程があるぞ。あいつの後ろに一人居ないと、見えないところで何をやってくるか……後ろに一人……一人―――!
「流星! ダブルだ! ブッチにダブルチームで当たるぞ!」
「――― そうか! ディフェンスは機能していないなら、居ても居なくても同じだ! ダブルじゃ甘い! トリプルだ!」
※ ※ ※
柳生君の叫びと共に、なんと! ブッチ一人に三人のマークが ――― !
「トリプルチームだ! 野々白の5番にトリプルチームを張ったぞ!」
既に新山のディフェンスは死んでいる。なら、全てを捨ててブッチに当たるのは得策と言える。
「ははっ! 俺ごときにトリプルチープとは光栄だね」
「『ごとき』だと? 自分を過小評価しすぎだよ」
流石のブッチも、三人いると何も出来ない。
「――― これは流石にお手上げだよ」
流石に三人のマークにパスコースは閉じられた。
ブッチはジャンプショットを放つも、宗介達ディフェンスとの距離が稼げていない。高い軌道が売りのショットも、あえなくボールは柳生君に叩き落とされた。
「カウンタ―――――ッ!」
部長がボールをキープ。そして、宗介が相手ゴールに向かってダッシュする。追いかける野々白の選手達。
野々白の選手達が部長のドリブルに追い付く瞬間、部長がゴール前にボールを放った。
―――“ガジャンッ!„
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ——————!」
「アーリー決めやがったぞ!」
「7番スゲ―――!」
両チームのディフェンスが機能していなかった中、今まで「攻撃=得点」だった方程式が崩れた瞬間だった。
宗介のプレーを賞賛する中、ブッチを賞賛する声も聞こえてきた。
「野々白の5番もとんでもねーな。」
「三人でやっと止まるのかよ」
「新川の7番と4番が入って、やっと三人で押さえられるんだよ。普通のチームだったら五人で押さえても無理じゃ無い?」
「五人で押さえたら、他の4人がフリーになるからな。フリーの四人でボール回せばいいわけじゃん」
「確かに」
――― プレーは再開され、野々白ボールだ。
新山は、3-2のゾーンで守っている。ブッチには俺がマークに付きつつボールを持ち次第、トップの二人が更にチェックに入る態勢だ。なのでシュートも打てない状態だ。
ブッチにパスが回った。
しかし、ブッチにボールが回ると、ブッチはノータイムでパスを回す。ブッチは殆どボールを持てなくなってしまった。
「ブッチがボールを持たなければ、どうと言う事は無い!」
——— 第3クォーターが終了した。
点数は「110 対 102」。
ついに均衡が崩れた。
8点差……普通の試合であれば簡単にひっくり返る点差だが、このゲームにおいての8点差はかなり大きい。
※ ※ ※
―――そして、第4クォーター。野々白は、新川のオフェンスを攻略する事が出来ず、ゲームは新川ペースで進み、結果、「132 対 112」で新川が勝利した。
「おっしゃ――――――っ!」
センターサークルで試合終了の挨拶をし、ベンチに戻ると、両チーム、互いの健闘を称え合った。
「ブ)いやー、二人ならともかく、流石に三人に付かれたら手も足も出ないよ」
「流)やっぱり二人じゃ足りなかったか」
「宗)俺は二人で行けると思ったんだけどな」
「部)「しかし、終始、出鱈目なプレーだったよ。柳生と真壁が一目置くだけの事はあった」
「流)この試合が、実質『決勝戦だった』と、最後のインタビューで言いたいね」
「ブ)おいおい。優勝する気満々じゃないか」
「宗)当然! やるからには優勝目指さないと面白くないだろ」
「流)当然だ」
「部)ちょっと待て。優勝が目標だったの? 俺、メインコート立つのが目標だったから、もう満足越えてんだけど……」
「宗)高校最後の最高の思い出プレゼントしますよ」
「流)俺達に足向けて寝れなくしてやります」
「部)頼もしいことこの上ないな」
俺達は、互いの健闘を称え合った後、会場を後にした。
――― 去り際、ブッチがボソッと呟いた。
「―――この大会で、新山に敵うチームはもう居ないよ」
※ ※ ※
――― そして、女子は圧倒的実力差で優勝。男子もブッチが言ったとおり、準決勝、決勝の全てをダブルスコアで勝利し、今大会は「新山学園の独壇場」でウィンターカップの幕が閉じた。
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