第176話 学園祭 その2②

 私は病気が治った頃に思った事があった。


 ——— カーストランク付けしている奴らの『価値観を壊してやりたい』と。


 私が素顔を出す事で、アイツらの価値観が崩れるんじゃないか?

 単純にそう考えた事があった。勿論、自信過剰な考えだと自覚してる。

 でも、私が素顔を出すだけで崩れるか? まず無理だろう。寧ろ普通に顔を曝け出したら、アイツら私を取り込もうと絡んでくるのは明白だ。それは絶対阻止したい。

 だから、芹葉と来羅との絶対的な絆を見せつけて、付け入る隙が無い事をアピールしなきゃならない。

 それは最近出来ているとは思っているけど……ちょっと自信ないな。

 あとは、私が素顔を出すタイミング、時期、場所だ。

 ただ出しても何にもならない。

 一時的に驚かれるだけだ。

 相手のプライドも壊さないと意味がない。

 そんな事を考えてた矢先、私が素顔を出すタイミングを決める出来事があった。


 ——— 芹葉がいない時の教室での出来事だ。

 ギャル子数人で私を囲ってきた。

 周りにいる人は傍観してる。

 滝沢さんは心配そうにこっちを見ている。


「ねえ、桜木、最近なんか目立って無い?」

「まぁ、目立ってる自覚はあるね。ハハ」

「自覚あんならモブは黙って引っ込んでろよ」

「引っ込むって例えば?」

「なんで、あんたが真壁君の彼女なんだ?」


 論点は「モブは宗介と付き合ってはならない」かな?


「それは、好きって言ったし言われたし」

「そんなわけねーだろ! なんで真壁君がお前みたいな奴、好きになるんだって」

「うーん……宗介に聞いて欲しいかな?」

「意味分んねーよ。私は桜木に聞いてんだっつーの」


 ——— でた、必殺『意味分んねー』。


「宗介は私を好きって言ってるって、今答えたよね?」

「お前それ、真壁君に言わせてるだけだろ」

「なんで言わせなきゃならない?」

「んなこた知らねーよ。てめーが言わせてんだろ! なんで私がそんなこと知ってんだっつーの!」


 うーん……凄いね……この子の事、言葉に出来ない……いや、言っちゃうけどこいつバカだ。よくこの高校入れたな。


「それから深川さんと江藤さん。お前、真壁君と柳生君通して、あの二人と知り合っただけだろ。何勘違いして呼び捨てで名前呼び合ってんだっつーの」

「親友だから?」


 人と人が知り合う切っ掛けとしては、誰かのツテなんて普通な流れだと思うんだけど……この切っ掛けに何が不満なの?


「なんでお前みてーな奴と親友なんだよ。意味分んねーよ」

「一緒に色んな事する仲だし。勉強なんかも一緒にするね」

「だからなんで一緒に勉強したら親友なんだよ。全然意味分んねーよ」

「逆だよ逆、親友だから一緒に勉強もするんだよ」

「余計わかんねーよ。だいたいお前みたいなブスが、あの二人と仲良く出来る分けねーんだよ」


 あーあ。ブスって言っちゃった。


「あんた達、また翠に絡んでんの?」


 芹葉が教室に戻ってきた。


「なんか『ブス』って聞こえたけど……」

「なんで深川さんはこんな奴と連んでんだ」

「前に他の人にも言ったけど、私は自分を成長させてくれる人と関わりたいの」

「深川さんは、こんな見た目の奴と連むべき人じゃ無い。連むなら私達みたいなのと連むべきなんだ」

「ん? 見た目の話し? だったら尚のこと、貴女達とは連めないよ」

「意味分かんないんだけど」

「だってあなた達のファッションセンスって私の趣味じゃ無いし……それに翠が一番可愛いんだもの……」

「どこが? こんな髪の毛ボサボサで、最近メガネ変えた程度でオシャレ気取った奴の何処が可愛いっていうんだ」

「何盛り上がってんの?」


 来羅が教室に入って来た。


「声、廊下まで聞こえてたから何事かと思えば、また翠に絡んでんの? 飽きないねぇ」


 来羅は私の頭を抱えて頭にキスする。この子結構キス魔だ。


「もうさ、オーディエンスに決めて貰ったら?」

「オーディエンス?」


 来羅は私を見て、ニコッとした笑顔で「どう?」って顔をしている。

 なんだろう?


「学園祭のに『ミス新山学園』あるじゃない? それで勝負したら? 皆に決めて貰えば文句も言えないっしょ?」

「え! ちょ、来羅、何言ってんの!」

「良いんじゃ無い? 何でしょ? 学校中、皆、翠の事知ってるし……ね?」


 芹葉も乗ってきてる。

 確かにそうだ。どうせならインパクト与えたいし、こいつらちょと黙らせたい。

 タイミング、シチュエーション、文句無しか……。

 ギャル子は来羅にも聞いてきた。


「こいつが出るなら、江藤さんも出るんでしょ? 深川さんはもう出る権利無いし」

「えー……冗談! 私が出ても、翠のお膳立てにもならないからパス」

「そうだね。流石の来羅も翠が相手じゃ……道化もいいとこだね」

「何言ってんの! 江藤さん出たら、間違いなくクィーンでしょ!」

「無理無理、絶対出ない。出たら大恥掻くだけ。だったら此処で土下座して恥掻いた方が全然マシ。御免なさい。私をミスコンに出させないで下さい」


 すると来羅は床に膝を付けた。

 

「マジ?」


 皆驚く。私もビックリだ。「来羅それはダメだって」と、思わず来羅の行動を止めた。

 芹葉は何食わぬ顔で見ているのがちょっと意外だ。来羅の行動は当たり前って思ってる感じだ。

 そんな来羅を見てギャル子が声を上げる。


「そんな土下座なんて大袈裟なこと言っても騙されないよ」


 芹葉が来羅をジッと見ている。すると芹葉は珍しく悪ノリな提案をして来た。


「来羅の代わりにあなた達は出て。そんで翠に勝ったら私達の親友として迎えて上げるよ……そうだ! クィーンになったら私ん家でお祝いしよう!」


 相当頭に来てるみたいだ。ブラック芹葉が顔を出した。いつぞやのトイレの芹葉だ。

 この子からこういう提案とか聞くと、この子が普段肌で感じている、政治的な黒い部分ってこんな感じ? って思えて、人の潰し方に遠慮が無いように思える……ちょっと加減が見えないんだけど……。


「芹葉いいねぇ。それじゃ、優勝した人、芹葉ん家でお祝いパーティーね。友達も是非誘ってね」


 あーあ、来羅もノって来た。ダメだこいつら。


「マジ! それなら私、出る出る」

「じゃあ、私も出よっかな」

「コイツには余裕で勝てるっしょ。勝ち確で親友決定!」


 なんか、話しがとんでもない方向に行ったな……でもいっか、ちょっと大舞台な感じだけど、時期もタイミングも良さそうだ。

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