第173話 ウィンターカップ予選④

「今日の試合は疲れたー!」


 今日の試合は一試合のみだ。明日は準決勝と決勝の二試合がある。

 今の時間は既に時間は夜だ。

 食事も済ませ、風呂に入り、俺と翠はいつものように、俺の部屋でゴロゴロしていた。


「宗介、マッサージしてあげるよ」

「おう、頼む」


 俺はベッドに俯せになると、翠は俺に跨って背中を揉み始めた。

 今日の試合は兎に角疲れた。


 ——— 気持ちいい。揉まれているところも気持ちいいが、翠のお尻と太ももの感触が一番気持ちいい。

 このまま理性を飛ばしたいが、今日は体力的に勘弁だ。


「今日の試合は苦労してたね」

「デカいだけで、かなりハンデを感じるからな」

「しかし、よくあれだけボール扱えるよね」

「必死だからな」

「ドリブル中、どうすればあんなにフェイント入れられるの?」

「うーん……相手の足の位置とか目線とか……あと体重のかかり具合とか見て次の動きを考えてる……って言うか、反射的に動いてる感じかな?」

「あの一瞬で?」

「そう」

「凄いなぁ……そう言えば、宗介、目が逝ってたよ」

「マジ?」

「うん、バスケの試合じゃ無ければ、ただのヤバい人だった」

「あはは、まぁ面白かったな」

「でもカッコ良かったよ」


 一通りマッサージが終わった。体はかなり楽になった。

 

「ありがと。かなり解れたよ」

「ふふーん……上手いっしょ? 今度は宗介が私にやってね」

「俺からやると、違う方向に行っちゃうけどそれで良ければ」

「」

「痛て!」


 翠はクッションを俺の後頭部に投げつけてきた。

 振り返ると顔は照れ怒りな感じだ。可愛い。

 マッサージは十分満足したが、なんとなく、俺の中の翠成分が足りなくて、追加で一つお願いした。


「な、背中に抱きついてくれるか?」

「ったくしょうがないな」


 翠は、俺の背中にまたがったまま抱きついてきた。

 背中に当たる、翠の全てが柔らかくて気持ちいい。

 これ、温もりがあるから、気持ちいいんだろうな。

 ほんのり香る翠の匂い。あー…癒やされる。

 翠は、俺の首筋に付近に顔を付けている。

 触れる鼻の感触も気持ちよければ、首筋に当てている唇の感触も柔らかくて気持ちいい。

 一度、翠にどいて貰って、仰向けに姿勢を直し、「おいで」と両手を広げると、翠は俺の上に寝そべった。


 心地よい重さが身体の疲れを癒やしてくれる——— 。



 ※  ※  ※



 ——— 気付いたら朝だった。

 朝チュンってやつだ。

 二人でそのまま寝てしまったらしい。

 身体には毛布が掛けられていた。誰が掛けたんだろう?

 ついでに翠の左手は、俺のTシャツの中に突っ込まれている。

 サラサラした掌の感触が、朝から気持ちいい。


 時間は朝六時だ。

 今日は学校集合が八時だ。ちょっと早いがそろそろ準備をする必要がある。

 俺は翠を残してリビングに行くと、日曜なのに奈々菜が既に起きていた。


「おはよ。お兄ちゃんと翠ちゃん、昨夜、疲れてたんだね。起こそうと思ったけど、お母さんが、面白いからそのまま寝かせてやれって」


「そうか……お袋の『面白いから』の意味が分らんが、毛布……有り難う。ところで、おじさんとおばさん、なんか言って無かった?」

「おじさんも、おばさんも、翠ちゃんこっちに嫁いだつもりでいるから、泊まるのは全然問題無いって言うか、寧ろ帰ってくるなって、普段から言ってるから大丈夫だよ」

「………そうか」


 あんまり信用されるのも考えもんだな。

 俺は部屋に戻り、翠に声を掛ける。


「翠、起きて」


 翠がゆっくり目を開けた。


「おはよ」


 そう言って、顔半分を毛布で隠す。


「そろそろ準備だ」


 俺がそう言うと、翠は寝起きの顔で笑顔になり、無言で両手を広げ、抱っこをアピールしてきた。

 俺は翠を包むように抱っこをして、おでこにキスして、唇にキスをした。


 ——— いい……こういう朝……いい。


 そのまま翠の身体を起こして、もう一回抱き直す。

 互いに成分補給をすると、もう一度キスしてベッドから出た。改めて言う。






 ——— いい……こういう朝……いい。






 正直、俺はもう試合に勝った気分でいた。こんな朝を迎える高校生がこの世に何人いる? しかも相手は超絶美少女だ。俺に勝てる奴ぁいねぇ! 俺が優勝だ!

 

 翠は準備をしに家に戻った。

 俺も朝食を食べ、準備をして家を出た。


 いつもにようにマンションの通路で翠と待ち合わせると、二人で学校へ向かった。



 ※  ※  ※



 今日は準決勝と決勝がある。


 女子バスも順調に勝ち進んでる。

 私は今回エントリーしていないので出場できない。そもそも練習に出てないからね。

 

「宗介、随分ご機嫌だな? なんかいい事あったか?」

「それなりにな」


 私とので、宗介は調子が良いみたいだ。


「で、準決勝の相手は何処だ?」

「白尻川だ。ここは攻守のバランスが取れたチームだ。うちと相性いいんじゃないか?」

「どうだろうな。ハマれば最高の相手。外れりゃ最悪な相性だな」


 新川は本来、ディフェンス重視のチームカラーだったが、今年から方針を変え、更に宗介の加入で攻守のバランスが良くなった。

 ただ、宗介はリバウンドは難なく対応するんだけど、守備がちょっと苦手だったりする。

 だから宗介、守備の描写が無いんだよね。

 新川の試合は第二試合だ。

 まずは準決勝の第一試合を観戦だ。



 ※  ※  ※



「おいおいおいおい」

「出たな。おいおい星人」

「洒落になんねーぞ。宗介、どうだ?」

「どうだって言われても、やってみないと分かんないな」

「そう言う割には顔が笑ってるぞ」

「そうか?」


 みんなが動揺している。

 今、観戦中の試合に、なんと! 宗介がいるのだ。

 正確には、宗介と同じような動きをするプレーヤーがコート上にいた。


「俺って、あんな動きしてんの?」

「だいたい、あんな感じだな」

「俺ってスゲーんだな」


 宗介、他人事のように話してる。

 自分の事って意外に分んないよね。



 ※  ※  ※



 新川の準決勝は、129対41 のトリプルスコアで新川が圧勝だった。

 女子も無事決勝進出だ。

 正直、前回の試合の方が凄く手こずった。 

 準決勝は相手のプレースタイルが新川と相性が良すぎた。全てが出来すぎだった。

 宗介のプレーだけでは無く、全員のプレーが最高のパフォーマンスを発揮したようだ。


 部長からの一言だ。


「準決勝は出来過ぎだったが、良いイメージで試合が終了できたと思う。このイメージを決勝まで持って行こう」


 決勝の相手は、「市之倉いちのくら工業」だ。

 この地区の、全国出場常連校である。

 さっきの試合の印象から、目立っていた7番のワンマンチームっぽい印象を受けた。

 「今年はチーム力を感じない」と三年生は口々に言っていた。


 決勝は午後二時からだ。開始まで二時間ある。

 私達はいつもの四人で、外のベンチで食事しながら談話していた。


「そう言えば、蘭華ちゃんから、彼氏紹介してって頼まれてたんだよ。誰かいない?」

「年下でも良いなら、飢えた野獣が沢山いるぞ」

「三年生も結構飢えてるな」

「しかし、試合前だって言うのになんて緊張感の無い会話だ」

「いいのいいの。緊張したって勝てないんだから」

「そりゃそうだ」


 すると後ろから不意に「ちわーっす」と、男が突然声を掛けてきた。

 皆で一斉に振り向く。するとそこには一人の男が立っていた。

 ジャージには「市之倉」と書かれている。次の対戦相手だ。

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