第172話 ウィンターカップ予選③

 ——— 間も無く第4クォーターが始まる。


 点差は逆転して新川リードで4点差。

 全然、安心出来ない点差だ。


「宗介が8連続スリーを決めたから、次は外からの攻めを警戒してくるはずだ」


 宗介から作戦の提案が出た。


「1-2-2のゾーンプレスか、マンツーマンに変えてきたら、中に入ります。SGは外からのシュートを積極的にお願いします。外したらリバウンド、叩き込みますんで。あと、流星もガンガン中に切れ込んで行けよ。」


 バスケットボールのポジションは、「その選手はそのポジションが」と言う意味合いが強く、厳密に「そのポジションの役割をしなくてはならない」と言うものではない。

 例えば、オフェンスではSGだが、守備ではCセンターが得意な人、PGとPWの両方が出来る人など、人のよっては全部出来る人なんかもいる。

 戦略として、五人全員SGにしても問題は無い。

 宗介は多分、全部出来ちゃう人だ。

 柳生君は、PWの経験が増えた。宗介はそれを期待しているんだと思う。

 試合の流れから、ここでSGを一人追加で投入したいようだが、新川に遠距離砲スリーが打てる選手は、SG先輩一人と宗介の二人だけだ。なんなら、芹葉呼んでこようか?


 スリーポイントは少し高めの放物線を描く必要があるので距離感を捉えるのが難しい。結構センスが必要だ。

 宗介のスリーが描く放物線は、異常に高い。

 本人曰く、


「丸の中に物を入れる時、角度が無い横から通すより真上から通せば、リングに触れる部分が減るだろ」


 という事らしい。

 上に向けて投げるので、ブロックもされにくいというわけだ。

 しかし、ボールは上に角度が付けば付く程、距離感が難しくなる。


 ——— 第4クォーターが始まった。

 新川ボールでスタートだ。


 一水のディフェンスは、スリーを警戒した1-2-2のゾーンディフェンスだ。

 柳生君は中に切れ込むが、ディフェンスに阻まれ、PWにパスを出す。

 そして、そのままレイアップを決めた。

 

 一水ディフェンスの攻略はまだ出来ていない。

 新川の攻撃はまだ、波に乗れていない感じだ。

 一水の攻撃に対しては、第2クォーターのパターンがそのまま機能している。


 宗介がボールを持った。

 目の前にはディフェンスが手を広げ、侵入を拒んでいる。

 宗介は周りを見渡し、パスフェイクを入れたと思ったら、シュート……フェイクだ!

 そのままクロスオーバーでドライブドリブルでディフェンスを抜いてゴールに向かうし、今度はレイアップに入った。

 しかし、ディフェンスが一人合わせて飛んでいる。

 宗介は、ダブルクラッチでブロックを躱して、シュートを決めた。


「7番、速いぞ!」

「内も行けるのかよ!」

「伊達にイケメンじゃねー!」


 宗介の目がギラつき始めた。

 この困難な状況を楽しみ始めたようだ。

 互いにゴールは決めていて、点差は新川リードで6点差だ。

 宗介がボールをキープする。

 徐々に、観客も宗介がボールを持つと、そのプレーを期待し始めている。


「7番にボールが渡ったぞ!」

「今度は何をするつもりだ」

「ダンク見てーなー」


 色んな期待の声が聞こえてくる。

 女の子も沢山見ているが、プレーに魅了されて声も出ないらしい。

 宗介は周りを見渡し、スリーポイントラインからのシュート…はフェイク。ドリブル…もフェイク。ん?フェイクじゃ無い! そのままドライブだ!


「7番を止めろ——— !」


 一水の選手が叫んだ!

 宗介はスキップステップからのレッグスルー、インサイドアウトからロールターンしてバックチェンジ……もう何がなんだか分らない程、素早い動きで一水ディフェンスを翻弄している。


「おおおおおぉぉぉぉぉぉ——— !」

「なんだあの動きは!」

「ボールが踊ってる! いや、踊りながらドリブルしてる!」


 一水のディフェンスの意識が宗介に集まったのを見計らって、最後に柳生君にパスを出した。

 柳生君はボールを掴むとそのままダンクを決めた。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ——— !」

 ”ドドドドドドドドドドドドドドドド…”


 体育館に地響きのような音が響き渡った。

 二階に座る観客が興奮して、その場で足踏みをしているのだ。

 高校生の大会では珍しい光景だ。


 宗介の集中力が高まっているのが分る。

 目が飛んでいる。バスケの試合じゃ無ければただのヤバい奴だ。


 宗介がボールを持つ度、一水ディフェンスを翻弄し、自らが決めるか、パスを出して誰かが決める。


 試合は完全に新川のペース……いや、宗介のペースになっていた。

 そして、時間は残り十数秒。

 自陣からのカウンターだ!


 柳生君がドリブルで運び、宗介はその後ろを走っている。一水も一斉に戻り始めている。

 しかし、一水の追走むなしく、柳生君はゴールに向けてボールを放り投げると、宗介がそれを空中で掴み、そのままダンクを決めた。


 アーリーウープだ!


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ—————— !」

「7番、最後に魅せやがった!」

「高校生がアーリーできんのかよ!」

「今、フリースローラインからジャンプしてなかったか?」


 試合が終了し、センターサークルへみんな並んだ。

 結果は、74対58だ。


 一礼して握手をし、全員ベンチへ引っ込んだと思ったら、部長と一水のキャプテンがセンターサークルへ戻ってきた。

 すると、一水のキャプテンがうつぶせで寝そべり、部長がその背中に片足を乗せ、両手をガッツポーズを決め「おおおおお!」って雄叫びを上げた。


 ——— この人達、何やってんだろ?


 一水のキャプテンは笑いながら立ち上がり、部長とガッチリ握手をしている。

 この二人、やっぱり仲良かったんだ。

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