第171話 ウィンターカップ予選②

 俺と流星がトイレから戻ると、デカい奴らが三人、立ちはだかり、背中の壁があった。


「すんません。通して頂けますか?」

「あ、これは失礼しました」

「ところで……どうかしたんですか?」

「単にご挨拶です。うちキャプテンとそちらの部長さんが仲良しらしくて」

「なる程……凄く仲が良いみたいですね」


 目の前で、部長ともう一人がお互い胸ぐら掴んで睨み合ってた。


「どういう関係なんですか?」

「中学時代にレギュラー競ってた仲だそうです。結局、どっちもレギュラーになれなかったらしいんですが……」

「ん? なんかライバルにする相手、間違ってない?」

「やっぱ、そう思います? 普通、そのレギュラーになった人を目の敵に、二人に友情が芽生えて、今日ここで『お互いチームを牽引するまでになったな』って固く握手するシーンだと思うんですが……」


 俺は目を閉じて、一連のシーンを思い浮かべた。


「そっちの方が、全然スポ根のノリでカッコいいな……」

「ところで、あなたにしがみ付いてるその物体はなんですか?」

「まぁ……彼女です。気にしないで下さい」

「えへへ」



 ※  ※  ※



 ボス同士の挨拶も終わり、俺達選手はセンターサークルに整列していた。

 部長と相手のキャプテンは、身体をくっつけて睨み合っている。

 観客席からは「おぉ———!」という声が上がった。


「こらっ、そこ離れて!」


 審判に注意された。

 これって、ファールにカウントされる?


 しかし、目の前に立たれるとみんなデカい。

 身長180㎝の俺が凄く小さく感じる。


 ジャンプボールは流星が飛ぶが流石にマイボールには出来なかった。


 今回のうちのディフェンスはマンツーマンだ。

 兎に角、動きを封じる事が目的だ。

 しかし、無理だ。大きさで負ける。

 相手は全員ダンクが打てる。

 相手のジャンプシュートはブロックもままならない。


 ——— さて、どうしたものか……。



 ※  ※  ※



 第1クォーターが終了し、皆ベンチに集合している。今戻ってきたメンバーはベンチに腰掛け水分補給をする。点差は17点だ。

 かなり厳しい展開だ。

 こちらも攻め倦ねてはいるが、決して得点出来ないわけではない。


 柳生君が提案してきた。


「相手の高さになんとか勝てるのは、俺(190㎝)と部長(187㎝)だけだ。但し、相手のデカいのは200㎝を超えている。流石に俺と部長が対応しても、高さで負けてしまう。だからここは……」


 試合が再開した瞬間、会場が響めいた。

 柳生君と部長のマークは、相手の一番小さい選手(と言っても185㎝はある。)を当て、なんと! 宗介のマークは一番身長の高い200㎝を超えている選手に付けた。

 身長差20㎝以上! ミスマッチもいいところだ。


 しかし、この作戦がズバリはまった。

 相手の得点の勢いが止まったのだ。

 

 各自、ジャンプシュートはなんとか邪魔をしてシュート精度を落とす。

 ここまではいい。

 問題はリバウンドだ。


 ——— リバウンドを制する者、ゲームを制する。


 誰かが言った言葉だ。

 ゲームが再開されてから、コート場では信じられない光景が繰り広げられていた。

 なんと! 第2クォーター開始から、今に至るまで、2m超えの選手がリバウンドを一度も取れないでいたのだ。

 

 ——— 宗介だ!


 自陣ゴールのリバウンドを制していたのは、身長180㎝の真壁宗介だった。

 宗介がリバウンドのボールを全てキープしていた。


「リバン!」

「くそっ! 何で飛べないんだ! 何で取れない!」


 宗介のマークマンマークの対象は凄くやりにくそうだ。

 そして、宗介が幾度となくリバウンドをキープすると、会場から歓声が上がった。


「さっきからすげーぞ!」

「なんであの小さいのがボールを取れるんだ!」

「しかも、滞空時間長くないか?」


 宗介は相手の懐に入り、しゃがむ動作を満足にさせない。

 あの野々白で真名さんがやった技をやっていた。

 ただ、この技は言う程簡単では無い。

 タイミングは相手がしゃがむ一瞬だ。

 呼吸を合わせ、相手がしゃがむ一瞬を邪魔をする。

 常に懐に入っていると、相手は身を躱してから踏切り動作に入る事が出来る。

 やってみて技の難しさが良く分る。

 しかも、真名さんの場合は、が、宗介の場合は、相手の邪魔をした後、


 ただ、宗介のジャンプは、踏切動作から飛び上がるまでのスピードは異常な程速い。そして、対空時間が長い。

 自陣のリバウンドは制した。


「流星!」


 宗介は柳生君にパスを出し、全力で相手ゴールに向かって走った。

 柳生君は味方SGへ「スリーを打て!」と意思を込めたパスを出す。

 敵の戻りも速い。

 味方のスリーはブロックの指に僅かに触れた。


 ボールはリングに弾かれた瞬間


 ——— ”ガゴンッ!”


 既にゴールまで駆け込んでいた宗介が、ボールを収まるべき場所へ、ダンクで叩き戻した。


「おおおおおぉぉぉぉぉぉ——— !」


 会場が沸く。


「なんだ、あの7番! 異次元過ぎるだろ!」

「なんであんなに飛べるんだ!」

「しかもイケメンだぞ!」


 ここで第2クォーターが終了した。

 第2クォーターが終わって、点差は6点差だ。


「さて、宗介のお陰で自陣のリバウンドは制することが出来た。後は攻撃だけなんだが……」

「相手のゾーンディフェンスのベースは『2-3』だ。中に切れ込むのは難しい。『2-3』の弱点は外からのシュートだ。ただ、あいつらの対応は早い」


 宗介が何か考えている。


「宗介、なんかあるか?」

「ない! 兎に角攻める。それだけだ」

「お前の運動能力に期待するしか無いか……」


 ——— 第3クォーター開始だ。


 相手ボールからの始まる。

 相手の攻撃は既に封じた…わけでは無い。

 ジャンプシュート時のブロックで、ゴールの精度を落とし、ゴールを外した時、始めてリバウンド対策が機能する。

 先取点は一水が取った。

 そして、新山ボールで始まる。

 ゆっくり柳生君がボールを運ぶ。そして自ら切り込もうとするが……


「だめだ……」


 柳生君のドリブルは正直宗介とまでは行かないがチーム内では一、二を争う程上手い。それでも中に入れない。

 柳生君のドリブルは一水のゾーンに阻まれ、ボールは一度SGへパスする。

 一水は「2-3」のゾーンだ。このフォーメーションは、外からのシュートには弱い。

 しかし、相手の反応は早い。

 外からシュートを打とうとすると、即座にマークに付く。

 SGは、シュートフェイクを入れ、宗介にパスを出した。

 宗介は、ボールを受け取るとスリーポイントラインに下がり、シュートを放った。

 シュートは、宗介独特の高い弧を描きリングへ向かっている。

 相手のブロックは、その軌道の高さから手に触れる事は出来ない。


 ——— ”パシャッ„


 ボールはネットを擦る音だけを残してリングを通過した。



 ——— スティール!再びボールは、新山ボールになった。


「宗介に回せ!」


 ボールは宗介の元へ。そして再び、宗介はスリーを放った。ボールは高い放物線を描き……



 ——— ”パシャッ„



 そして再びリングを通過した。


 ——— プレイ再開。

 巡り巡って、ボールは宗介の元へ。



 ——— ”パシャッ„



「おい……3連続スリーだぞ」

「ゾーンでもマークは付くだろ」

「7番のシュート、異常に軌道が高い。あの長身の一水のブロックが全然触れられないな」


 会場が騒つき始めている。

 あのクラスマッチと全く同じだ。

 宗介は異常に高い放物線のシュートを連続で次々決めていく。



 ※  ※  ※



 そして、第3クォーター最後のシュート……



  ——— ”パシャッ„



 会場のギャラリーは、宗介の連続スリーポイントのゴールに、既に声を失っていた。

 そして、最終的に宗介は、8連続でスリーを決め、第3クォーターを終了した。

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