第165話 クラスマッチで幻の男現る⑤
私は、柳生君の元へ行く宗介の背中を見ていた。
「翠、大丈夫なの?」
隣で芹葉が私の心配をしている。
「うん。もう本当はバラしても全然いいんだけど、もう少しだけ……私の事は秘密のままでいたいかな? ちょっと風当たり強くなりそうだけどね」
私は髪を縛り、惜しげも無く出している宗介の顔を見た。どことなく晴れ晴れとした表情をしている。
コートの外では『写真の男』だと気付いて、騒つきが大きくなっている。スマートフォンに画像を出し、見比べている人もいた。
コートでは皆宗介の元に集まるがすぐ解散した。
その時の会話は「後で話す」の一言だけだったそうだ。
―――会場が異様な雰囲気の中、プレーが再開された。
コートの選手は、何とか試合になるように動いてはいるものの、動きに戸惑いの色が出て、プレーに支障をきたしている。
――― そして試合は第4クォーターとは言え、ワンサイドゲームになってしまった。
柳生君は野々白で見た時のプレイスタイルになっていた。態々『煽った奴』が戸惑うようなパスばかり送っている。
宗介はパスを受ければ一々『煽った奴』の目の前に行き、プレーで煽ってから抜き去る。
他のチームメイトも同じだ。柳生君のパスは、そのレベル、経験関係なくチーム全体を引き上げているようだった。コートにいるチームメイトは楽しそうだ。
「流星君、野々白でやった時みたく、凄く楽しそう。最近、いつも苦しそうな顔で練習してたから、バスケ嫌いになるんじゃないかって思ってた」
芹葉ちゃんは嬉しそうな顔で柳生君を見ている。
「宗介もやっと枷がとれたね。あとは私だな……」
終了間際、宗介がダンクでゴールを決めた。
――― ゲームが終わり、宗介は少し息を切らせながら私の元へ来た。流石に疲れたようだ。
「お疲れ様」
そう言って、私はタオルを手渡す。
「バンドサンキュ」
宗介はヘアバンドを私に返して、留めてたゴムも解き、再びボサボサヘアーに戻した。
「あれ? 顔隠すの?」
「ダメか?」
「もういいんじゃ無い? って思ってたんだけど」
「いや、こっちであればそうそう見惚れられないからな」
「なるほどね」
私と宗介が話しをしていると、話しに割って入って来た子達がいた。
「――― あの……真壁……君?」
「ん?」
私と宗介は声のする方を向く。
そこには女の子が三人立っていた。
「もし良かったら……メッセのID交換しない?」
話しかけて来た子達は、みんな片手にスマホを持っていた。私は彼女達に誇示するように、無言で宗介の腕にしがみついた。
宗介は、そんな私を見ると、優しく微笑んで彼女達にこう言った。
「ゴメン。俺の彼女……ヤキモチ妬くから……行こ」
私は宗介の腕にしがみついたまま、二人並んで体育館を後にした。
※ ※ ※
私は宗介と更衣室に向かいながら、今後の事について少し話しをした。
「で、翠はどうするんだ?」
「このままだよ。宗介もボサボサのままでしょ?」
「まぁ、普段はそうしようかと……お前は大丈夫なのか? 暫くチクチク言われそうな気がするけど」
「大丈夫。昔の私じゃないし」
「ちょっと心配だな」
「大丈夫。芹葉も来羅もいるし、なんかあったら直ぐ連絡出来るし。ね」
「だな」
そして、それぞれに更衣室に入る。
※ ※ ※
——— 男子更衣室だ。
更衣室では既に何人かが着替えをしていた。
結構、早めに来たと思ったんだがそうでも無かったようだ。
俺が更衣室に入ると、体育館に居た奴なんだろう。俺の顔をマジマジ見てくる。脱いでる時にマジマジ見るのはやめて欲しい。俺はそっちの気は無い。
更衣室にはクラスの奴も数人いた。
クラスの奴が俺に話しかけてきた。
「真壁……お前……何で隠してた?」
「色々面倒だったからな」
「面倒って……俺だったら隠さずにハーレムライフを満喫するけどな」
「あー、例えばな、容姿も性格も全く好みじゃ無い女が四六時中、興味のない話を延々としてくる……耐えられるか?」
「……無理だな」
「そう言う事だよ」
そう言うとそいつは黙ったが、今度は違う奴が話しかけてきた。
「それはそうと、あのダンク凄かった……って言うか、お前バスケ部入んないのは勿体無いな。そっちは完全に宝の持ち腐れだろ」
「あぁ、そっちに関しては正直やりたいな。もう遠慮も要らないしな。ありがと。バスケ部の件はちょっと考えたい」
俺は着替えを済ませると、俺を知る奴らは「え?」って顔で俺を見た。
「なんかしたか?」
「いや、結局顔隠すんだ?」
「この方が落ち着かね?」
「まぁ……だな」
「フフ、んじゃお先」
廊下に出た。翠はまだ出て来て無かった。ただ、十秒もしないうちに翠達が出てきた。
※ ※ ※
私が更衣室に入ると、既に何人かが着替えをしていた。体育館での出来事を見ていた人は私を横目に見て来る。
失敗した。やっぱり芹葉達と一緒に来るべきだった。何を話しかけられるか分らない。ちょっと面倒に
なる予感もしたが、クラスのカースト女子は居ないようでちょっと安堵する。
ふと見ると、『
「桜木さんの彼氏……カッコいいって言ってたけど、ホントに格好良かったんだね。ビックリしたよ」
「えへへ。でしょ? 私の彼氏はカッコいいの。外見だけじゃ無く中身もね」
「羨ましいな。でも桜木さん、よく付き合ってられるね。私だったらあんなにカッコいい彼氏、怖じ気づいて一緒に居られないよ」
「うーん……慣れ? 家も近いしね」
「そういうもんなのかな? いいな、私も彼氏欲しいな。」
そんな話しをしながら着替えを済ませ、一緒に更衣室を出ると、宗介が廊下で待っていた。
「お待たせ」
「大丈夫。今出たところだ」
滝沢さんは宗介をジッと見ている。何時ものボサボサヘアーだからか、顔が見えなくて確認したい雰囲気を出してる。
「滝沢さん、宗介取っちゃ駄目だよ」
私の声に、滝沢さんは「はっ!」っと我に返った。
そして宗介も「!」って反応をした。どうやら彼女が廉斗君のお姉さんって気付いたようだ。
「と、取らないよ……てか、取れないよ」
「へへへ、冗談だよ。で、彼氏の真壁宗介。こっちは滝沢蘭華さん」
「宜しく」
「滝沢です。宜しくお願いします」
三人で廊下を歩いていると、目の前から芹葉と来羅が来た。着替えに行くようだ。
「翠、一人で教室行って大丈夫?」
「うーん、多分、大丈夫かな?」
「直ぐ行くから、何かあっても耐えててね」
「分った。耐えてみせるよ」
そう言って、彼女たちは更衣室へ急いだ。
「桜木さん……皆から色々聞かれそうだね」
「うん。でも、宗介の事で隠す事は何も無いから、聞かれたら素直に答えるよ」
「変な事まで言いふらすなよ」
「大丈夫、寝る時、私の変わりと言って、ぬいぐるみ抱っこして寝てる事は言わないから」
「おい!」
「え? 真壁さん、そんな事してるんですか?」
「もう、寂しがり屋さんだから♡」
「おいおい!」
「なんか……可愛いですね」
「おいおいおい!」
―――そんな話しをしながら、教室前まで来た。
そして、私達は宗介と別れて教室へ入った。
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