第164話 クラスマッチで〇〇〇現る④
「宗介ぇぇぇ―――!」
私は宗介の名を叫んだ。このままでは宗介が殴りに行きかねない。そんな空気が手に取るように伝わってきた。
静まり返る体育館に私の声だけが響いた。
アイツの一言は、あの大会に出場した者全員に対する侮辱だ。腑抜けが優勝する程スポーツは甘く無い。
親友である柳生君を侮辱し、強いては自分もその周りの人達をも侮辱したんだ。
「流星!」
宗介は柳生君からパスを貰うと、すぐスリーポイントラインからシュートを放った。
――― “スパッ„
ボールは大きな弧を描きリングに触れる事なくゴールする。
「お―――!」
会場が湧く。
――― 相手ボールで、ゲームが再開された。
すると、チームメイトがすぐ相手ボールをスティールし、再びマイボールになった。
「ボール!」
少しドスの効いた宗介の声が体育館に響く。
ボールを手にした宗介は再びスリーを放った。
――― “スパッ„
大きな弧を描いたボールはリングへ吸い込まれる。
「スゲ―――! まただぞ!」
再びゲームは再開し、
そしてスリーを放つ。
――― “スパッ„
「は―――⁈ なんだあいつ!」
流石に三度目ともなると歓声ではなく
――― 四度目。
――― “スパッ„
「マジかよ……」
場内は信じられないといった雰囲気に変わっていた。
――― 五度目。
――― “スパッ„
「―――あいつ、なんなんだ……何
五回も連続でスリーポイントを決めると、流石に試合そのものが異様な雰囲気に包まれた。
点差は一気に五点差まで詰め寄り、第3クォーターが終了となった。
――― 皆ベンチに引き返して来た。
私は皆が集まるベンチへ向かった。
「――― 宗介、いいのか?」
「いい!」
私は柳生君と宗介の会話に割り込んだ。
Dクラスの人達は私を見て「誰?」って顔をしている。
Cクラスの人達も私の行動に少し驚いていた。
「大体あんな事言われて黙ってる奴を、彼氏に持った覚えは無い!」
「――― え? 桜木さんの彼氏なの?」
「そう」
「真壁君って……何者?」
色んな情報が錯綜して、会話が交通渋滞を起こしている。
Cクラスの人達は、宗介が私の彼氏という事に驚いているようだ。というか私に彼氏がいた事に驚いてもいる……いや、私がこの場にいる事そのものに驚いているのか?
Dクラスの人達は、真壁は「柳生と仲がいい」「頭が良い」という情報しか持っていない。新しい情報を得ようとしている。
「――― いいか?」
柳生君は宗介に、説明していいかと同意を求めた。宗介は黙って頷いた。
「こいつ中学の時、バスケ部だったんだよ。で、全国大会の決勝戦で俺と試合してんだ。その時の大会得点王……最優秀選手に選ばれた」
「―――え? マジ? ……それじゃあ、あの煽りに頭くるのは当然だわな」
「てか、今までの体育とかで、そんな素振り全然無かったじゃん」
「色々訳があるんだよ」
「……宗介?」
私は宗介の顔を覗き込んだ。宗介はまだ怒っている。目が怖い。こんな宗介初めて見た。
――― そして、第4クォーターが始まった。
ボールは柳生君が持っている。しばらくパスを回して、切り込む様子を伺っている。
―――すると例の三人のうちの一人が、大きな声で煽ってきた。
「なんだ柳生! 結局、お前自身得点出来ねーから、素人のまぐれに期待して点数稼いで貰ったのか! 相変わらず腑抜けだな〜! 野々白の後輩連中も、その意思しっかり引き継いで、腑抜けになてればいいな〜! そうなんだろ? 優勝もどうせマグレなんだろーからよ!」
――― あ、……… 宗介キレた。
完全にキレてる。
立ち姿がキレてる。
上から見下す感じでアイツを睨んでる。
柳生君もだ。
宗介と同じようにキレている。
二人でキレた。
この上なくキレた。
ダメだ……二人ともアイツに殴りかかる!
そう勘違いする程、怒気を放ちまくっている。
そういう私も怒っている。
珍しく芹葉も怒っていた。
なんで後輩まで煽る?
こいつ人間腐ってない?
自分らの意思を引き継いだ後輩達まで侮辱されたら、キレる以外に何がある!
私だって……私達だって、その意思を引き継ぐところに立ち会ってきたんだ。
そりゃキレるさ。
すると柳生君は物凄い勢いで宗介にパスを出した。いや、投げた。怒り任せに力の限り投げつけた。
――― “バチン!„
凄い音がした。柳生君の怒りを宗介は片手で受け止めた。
宗介と柳生君は睨み合っている……いや、目で会話している。そして、互いが頷いたように見えた。
二人の怒りを合わせて、宗介はこれから何かをするようだ。私の怒りも乗せて欲しい。
”―――ダム、ダム、ダム、ダム……“
宗介はボールを突きながらゆっくり煽った相手の前に立った。ボールを突く音が静まり返った体育館に、無機質に響く。
そして、宗介と煽った男の会話を、みんな耳を澄ませ聞いている。ただ、ボールが床を突く音でよく聞き取れない。
「――― なぁ、お前……全国大会で食中毒に当たったらしいな?」
「あぁ、あれのおかげで柳生は優勝出来たんだ。感謝して欲しいぜ」
「おかげ?」
「俺らの初戦は柳生の学校とだったんだ。やってりゃ間違いなく俺ら勝ってそのまま優勝だったんだよ。なんせ、今のアイツより俺の方が断然上手いんだからな」
「――― ネットで試合中継見てたんだろ?」
「あん? だったら何だ?」
「そんな悔しがってんだ、当然、決勝戦も見たんだろ?」
「あぁ、アイツらの負けるところをしっかり見てやろうと思ってな!」
「そん時の流星の対戦相手覚えてるか?」
「対戦相手? 何の関係あんだ? 雑魚だろ雑魚……そういや何かやたらとカッコいいっ奴がいたな…… ——— そう言えば祭りの時のあのイケメン……」
「ハハッ! 思い出したか?
――― それ、俺だ」
その言葉が聞こえた瞬間、宗介は激しくフロントチェンジを繰り返し、突然バックチェンジをしたかと思ったら、ロールターンで相手を交わし、フリースローラインを一歩越えたあたりでジャンプした!
――― “ガゴンッ……ギッシ、ギッシ„
……あーあ、ダンクやっちゃった! 宗介はリングにぶら下がる。
場内はシン……と静まり返っている中、リングから静かに降り、手首に付けていた髪留めのゴムを外し、髪を後ろに束ねながら、敵陣のエンドライン付近座る私の所に歩いて来た。
皆、宗介の動きを目で追う。
私は宗介を立って出迎えた。そして宗介は私の前に立つ。
「ごめん……それとヘアバンド貸して」
「はい」
私はヘアバンドを頭から外して宗介に渡すと、宗介はヘアバンドを一度首までスッポリ被ってそして前髪と共にオデコで留めた。
私の近くにいた子達が「え?」っと驚き、そして恍惚とした表情に変わる。
そして宗介は振り向くと場内が一斉にどよめいた。
「―――はぁ!」
「真壁……お前……」
「カッコいい……」
「おい、アイツって……」
色んな声が聞こえてきた。『写真の男』と気づいた人も居るようだ。
宗介はコートの中央に軽い駆け足で戻るが、煽った男の前でゆっくり歩く。そして通り過ぎる時、一言呟いて、見下すように舌を出した。
「悪りぃな、腑抜けたプレーだった」
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