第163話 クラスマッチで〇〇〇現る③

「お前、皆に話しちゃったの?」

「うん。だって隠す意味無いでしょ?」

「まぁ……今までお前が注目されないのが目的だったからな」

「そ、注目されても関係無い今、普通に公言しても問題ない訳だ」

「深川さん、今の翠に付いていけないって困ってたぞ」

「あはは、ちょっと後で謝んないとね」



 ※  ※  ※



 ——— 球技大会二日目。


 今日は男子バスケの試合がある。

 ―――俺は、やる気満々……ではない。


 自分で言うのも何だが、全力を出せば、当然、勝負にはならないので、そこそこに手を抜かなくてはならない。

 しかし、学校行事のとはいえ、まかりなりにも「勝負事」だ。手を抜くのは些か抵抗がある。

 俺は、極力出場しない方向で頼むと、流星にお願いした。



 ※  ※  ※



 ――― 第一回戦。


 流星は第2と第3クォーターに出た。

 相手のゴール下に居座って、次々得点を重ねている。

 体育レベルの試合で190㎝は反則だ。

 相手から不満の声が上がったが、学年、クラスによってはそれなりに長身はいる。なのでお構いなしだ。

 第4クォーターから出場した俺は、自陣のスリーポイントラインから相手のスリーポイントライン付近を、ボールと共に往復した。


 ―――そして、一回もボールに触ること無く終了した。勝った。



 ※  ※  ※



 ―――今日も、体育館の片隅で、俺と翠は二人きりで座っている。昨日翠が目立ったせいで少し目線を集めている。


「お疲れ様」

「残念だが疲れてない」

「一回もボール触んなかったね」

「あれでいいよ。周りも楽しんでるし」

「でも活躍するところ見たいな」

「善処します」



 ※  ※  ※



 ――― 第二回戦。


 俺は、第3第4クォーターに出た。

 この試合ではパス受けるが、ドリブルすること無くパスをする。

 これを繰り返した。

 チームメイトは右に左に動いている。

 中々いい動きだ。


 ――― 勝っている。点差もそれなりにある。


 そして終盤、時間ギリギリでスリーポイントラインの外にいる俺のところにパスが来た。

 ただ、今までの俺の活躍ぶりから周りにマークは全く居ない。最高のシチュエーションだ。 

 ……いや、色々語ったところでこれからの行動には全て言い訳にしかならない。


 ———


 思わずスリーポイントシュートを放ってしまった。


 ――― “パサッ„


 高い放物線を描いたボールはリングに触れること無く、リング中央を通過した。


 ――― “ト———ントーントントントトtt ———„


 体育館はシンと静まり、ボールが転がる音だけが響いた。

 ―――そして、ゲーム終了の笛が鳴った。


「お―――!」

「なんかカッケ――――!」


 体育館は騒つく感じで静かに盛り上がっている。

 俺はそのまま翠の元へ行き、隣に座った。

 騒つきも一時的なものだ。すぐに収まった。


「最後カッコよかったぁ」

「あー……まぁな」

「宗介が打つ外からのシュートってなんかセクシーだよね」

「何その表現」

「内に攻める時は華麗だし」


 翠はキラキラした目で俺を見ている。

 多分側から見たらバカップルに見えてるような気がした。



 ※  ※  ※



 ――― 昼休みだ。

 俺達は、東屋でお昼ご飯を食べていた。


「真壁君、最後カッコよかったよ。凄く綺麗だった」

「宗介は中からも外からも攻めるオールラウンダーのスモールフォワードだったからな。スリーポイントもお手の物だ」

「単に器用貧乏なだけだよ」

「謙遜、謙遜 ♪」


 翠は自分が褒められたかのように上機嫌になっている。

 口元が可愛らしくニコニコしていた。


 

 ※  ※  ※



 ―――決勝戦が始まった。


 相手は2— G、Hクラスだ。

 俺達2—C、Dが体育館の隅に集まっていると、後ろから声がした。


「――― なんだ? 相手はエリート様かぁ?」

「―――――― ⁈」


 祭りで会ったあの三人が対戦相手のようだ。

 ここでも突っかかって来るのか。


「はぁ! 自分は実力不足だから周りに頼って決勝まで来たってか?」

「さすがエリート様は周りにいる奴も優秀だねぇ」

「せいぜい、周りの足を引っ張らないようにな」


 そう言って自分のクラスのところに去って行った。

 クラスの奴らが流星に声を掛ける。俺は終始黙って見ていた。


「何だあいつら? いきなり何つっかかってきてんだ? バカだろ?」

「悪りぃ、あれ俺に対する当てつけだ。関係無いのに巻き込んじまった」

「あー、よく分んねーけど突っかかって来た奴が悪い。気にすんな」

「何あいつら?」

「こいつ、バスケ部でレギュラーなんだけど、あいつらベンチなもんで妬んでんだよ。だから何時もこいつにちょっかい掛けて来てるんだ」

「小せぇ奴らだな。どうせ下手なんだろ」

「それが結構上手いんだ。だから尚の事妬ましいんだろ」


 正直あいつら三人の態度は不快だ。

 矛先を流星だけに向けるならまだしも、周りに居る奴らにまで絡んで来る。

 もっとも流星だけに矛先を向けても、不快である事に変わりは無いんだがな。

 ―――祭りの時もそうだった。

 あの場にいた俺達にまで絡んで来やがった。翠を怖がらせた事は今思い出しても怒りが湧いてくる。



 ※  ※  ※



 ―――決勝が始まった。


 第1クォーターは、流星が出て俺はベンチだ。

 相手は、例の三人のうち二人が出ている。バスケ部員はこの三人だけだ。部員の一人は常にコートにいるようだ。


 流星は相変わらずゴール下に居るが、例の三人の身長は流星と負けず劣らずで大きい。そのうちの一人はゴール下の流星に執拗にチェックをかける。


 動きを見るに、本職のパワーフォワードPFだ。


「——— これは妬まれるな」


 相手ゴールの下、流星は全然リバウンドが取れずにいた。


「流星く〜ん。退部届の出し方教えるからさ〜、いい加減バスケ辞めちゃいなよ〜」

「リバウンドの取り方知らないの〜? そっかぁ〜周りが全部やってくれるもんね〜」


 事ある毎に煽ってくる。不快だ。兎に角不快だ。聞いて居て反吐が出る。

 友人だからとかじゃ無く、あいつらの人間性に不快感を覚える。


 ―――第1クォーターが終了した。


「しかし煽るだけあって上手いな」

「一応、全国中学大会出場はしてんだよ。食中毒で初戦不戦敗だったけどな」

「なんだそりゃ?」

「今、負けているとはいえ点差はそれ程じゃない。女子が優勝したんだ。男子も優勝して思い出に錦を飾ろう!」


「「「うっし!!」」」


 気合いが入った。



 ※  ※  ※



 ――― そして、第2クォーター終了。

 点数は14点差で負けている。


 あいつらの煽りは相変わらず酷く、だんだんチーム全体を揶揄する様な内容に変わって来ている。チーム全員が怒っていた。

 相手チームも、そのヤジに少し困惑するような表情を見せている。


「俺は未経験者なんだ、シュート入んないからと言ってあの言いようは無いだろ!」

「後ろから掴んで膝で蹴ってきやがった。学校行事のお遊び大会だぞ。そこまでやるか普通」

「あいつらヤジとラフプレーが無いとバスケ出来ねーのか?」


 既に「楽しむ」の範疇から外れている。

 皆、興奮しているのか、怒りが先に来てしまっていた。


 ――― そんな中、第3クォーターが始まった。

 俺と流星が出場している。


 第3クォーター中盤。点差は既に20点。

 今はマイボールだ。暫くパスを回していると、相手の一人が大きな声で言った。


「流星よぉ〜、お前、中学の時全国優勝したらしいけど、チーム全員お前みたいに腑抜けな奴等ばっかりだったんだろ〜な〜」


 体育館が静まり返る―――。


 その一言に、俺は頭に来た。

 あの時の俺との試合は腑抜けとかそんな言葉は存在しない。その言葉はあの時負けた俺達をも侮辱する言葉だ!

 それをコイツらは ———


 俺は全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。

 今の俺は怒りで周りが見えなくなっている。キレる寸前だ。

 すると甲高い声で俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。


「宗介ぇぇぇ―――!」


 その声の主は翠だ。翠が発した一声が、静まった体育館に大きく響いた。

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