第162話 クラスマッチで〇〇〇現る②

 ——— バレーの試合、俺は現役バレー部エースのスパイクをブロックしてしまった。

 相手のスパイカーは俺を「何コイツ?」って顔で唖然と見る。俺は気不味く目を逸らすが振り向いてもクラスメイトが「何コイツ?」って顔で俺を見る。


 ——— 体育館に静寂が走りかけたその瞬間、どこからとも無く「うぇ〜い! ブロックうぇ〜い!」と言う声と共に、手を叩き合う音が聞こえた。

 ——— 流星だ。

 するとその周りで騒ぎ始め、体育館内が「うぇ〜い」なノリの歓声に包まれた。


 何とか誤魔化せたか?



 ※  ※  ※



 ——— 体育館の隅で翠と二人で座っていた。


「一瞬『素』が出たね」

「ああ、思わず熱くなってしまった」

「やっぱ、あそこまで接戦で白熱すると血が騒ぐよね?」

「負けず嫌いな顔が出ちまうな。こうなるとバスケの試合……抑えられるか?」

「無意識にダンクしちゃったりして♪」

「おいおい。怖いこと言うな……フラグか?」

「フラグだな」


 ——— “キーンコーンカーンコーン……♪„


「――― あ、お昼休みだ。いつもの場所いこ」


 俺達は、いつもの東屋で流星達と昼飯を食った。


「お前、バレー、やらかしてて笑っちまったぞ」

「まぁ、あそこまで接戦になったら素が出ちまうって。尤も、お前の『うぇ~い』で誤魔化せたけどな……多分」

「しかし、えらい高さだったな。あっちのスパイカー、目が点になってたぞ」

「やっぱ、宗介が飛んでるの見ると気持ちいいね。滞空時間が長いから、一瞬、時間が止まって見える」

「そう言えば深川さんは何に出たの?」

「私はテニス。一回戦負けだったけどね」

「流星の卓球はどうだったんだ?」

「一回戦負けだよ。そもそも台低いって!」

「何で卓球選んだ?」



 ※  ※  ※



 ――― 午後、体育館で女子のバスケを見ていた。

 翠はまだ出場していない。いつ出るんだろうか?


「来たな宗介」

「もちろん。深川さんやっぱ上手いな。ありゃ反則だろ。スリー、バンバン決めてるぞ」

「自称『スナイパー』だからな」

「そうだったな」

 

 しかし、あの細い腕でよく打てるもんだ。


 ゲームは五分×4だ。第3クォーターで翠が出てきた。


「桜木普通にやってるな」

「しかも余裕が……あ、本気のドライブ」

「アイツも大概だな」


 現役を離れているとは言え、ストバスで普通に体は慣らしてる。動きは現役バスケ部員と変わらない。いや、それ以上だ。

 中に切れ込んでは綺麗なレイアップを決め、場内からは「おおおおぉぉぉぉー」と感嘆の声が上がる。


「あのゴーグル伊達じゃねぇな」

「何、彼女ってバスケ部なの?」

「知らない子だよ。最近深川さんと仲良さげにしてるのは見たけど……」

「なんか動きが偶にとんでも無いよね?」

「あの子、カッケーな」


 シュートはミドルレンジ、インサイド、ボールを持てば確実に決める。

 周りの口からは「スゲー」の声だが、俺と流星はその声とは裏腹に、

 

「なんか『中途半端感』覚えちゃって見てて逆にもどかしいな」

「普段の全力プレー見てるだけにな……勿体無い」

「思いっきりプレーさせてぇな」

「ま、ここで本気……マジか! 現役バスケ部員ダブルクラッチで交わしたぞ!」

「ハハハ、もう隠す気ゼロだな」


 余裕で勝ち、決勝戦に駒を進めた。



 ※  ※  ※



 ――― 再び、体育館の片隅で、俺と翠は2人きりで座っている。

 翠はかなり注目を浴びている。


「決勝進出おめでとう」

「ありがと」

「目立まくりで思わず笑っちまった。何だ最後のダブルクラッチ。キレが男子顔負けだったぞ」

「宗介の見てるとイメージがね。ダンク以外なら宗介の技、全部コピー出来そうだね」

「頭、蒸れは大丈夫なのか?」

「結構しんどい。でも、次で終わりだし……シャワールーム借りれば大丈夫」

「予備持ってきてんの?」

「一応ね」


 ―――女子バスケ決勝戦は三年生と当たった。

 深川さんと本気モードの翠の前にバスケ部員も太刀打ち出来るわけも無く、結果、2-C、Dチームが優勝した。


「優勝おめでとう。なんか反則的な強さだったな」

「へへへ。みんなが頑張ったからだよ」


 ―――今日の競技は全て終了した。



 ※  ※  ※


 

 教室に戻るとバスケが優勝した事より、翠の活躍ぶりに女子の皆が驚いていた。

 一応、体育は一緒にやっている。全く知らない関係では無い。


「桜木さん、決勝、なんか凄くなかった?」

「うん、バスケ部員普通に躱してたよね?」

「なんか、動き見えなかったんだけど……体育で手抜いてたの?」

「体育でも江藤さんと深川さんとも普通にお話ししてたし……江藤さん、最近仲良いみたいだけどなんか知ってる?」

「あー……うん、まあ……ね。ゴメン、内緒って訳じゃ無いと思うんだけど、私からは『あれが本当の彼女』としか言えないわ」


 流石の江藤さんも返事に困ってる。


「柳生君もなんか知らない? 彼女、深川さんとも仲良いし……」

「悪りぃな。俺も『あれが素の桜木』としか言えねぇな。まぁ……あそこまで明白あからさますぎると意外……でも無いか?」

「そう言えば真壁君、桜木さんと体育館で並んで座ってたけど……友達なの?」

「まぁ……想像に任せる」


 流石に注目浴びてたか……付き合ってる事がバレてももう関係無い。内緒にしてたのは翠の病気があったからだ。今はもう目立ち捲ってる。一応、公表するにも翠の確認は欲しいな。


 ——— “ピコン♪„


 スマートフォンが一音鳴った。

 メッセージだ。俺はスマートフォンを取り出して中を見る。

 珍しく深川さんからだ。一応、グループで送信されている。そのグループには妹達も彼氏ーズも含まれていた。

 メッセージにはこう記されていた。


[翠、真壁君との関係皆に教えちゃった]



 ※  ※  ※



 翠は今、廉斗君のお姉さんの滝沢さんとお話しをしていた。その周りを皆囲っている。そんな状況だ。一応、私も傍で話を聞いている。


「桜木さん凄いよ。何で今まで隠してたの?」

「えへへ、ちょっと病気してて……最近治って色々出来るようにね」

「病気って、病み上がりであれなの?」

「あー、うん、病気って言っても体よりは心の方? 体は毎日鍛えてるから体力はあるよ」

「そうだったんだ……深川さんは知ってたの?」

「え? 私?」

 

 突然話を振られてちょっと慌てた。

 私は何処までお話ししていいか分からず、翠の顔を見た。翠は笑顔で頷いた。


「うん、一応。ちょっとデリケートな事だったから人には言えなかったんだけど……」


 私は正直、翠の変化について行けてない。

 教室内を見渡すと、明らかに睨む目でこっちに視線を送る子達がいた。翠と来羅に教えて貰ってたカーストグループだ。


「そう言えば体育館で男子と二人きりで座ってたけど、あの人って柳生君と仲良い人だよね? もしかして彼氏だったりするの?」

「うん。そだよ」

「えー! いがーい! ビックリ! なんかボサボサ髪で……正直二人似てるね」

「えへへ、よく言われるね。でもね……カッコいいんだよ」


 ——— え?


 翠はあっさり彼氏と認めた。

 私はその出来事を念の為皆にメッセージで知らせた。

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