第161話 クラスマッチで〇〇〇現る①

 ――― ホームルームだ。


「再来週、球技大会クラスマッチがあります。今日で役員やら出場競技やら全部決めたいと思います。まずは実行委員から決めましょう」


 九月はクラスマッチがある。期間は二日間だ。去年、俺はバスケとバレーに出た。


「実行委員の立候補いる?」


 先生は声を掛け、周りを探るように目を配る。誰も手を挙げない。こういうのって率先してやる奴なんてほぼいない。


「それじゃ俺やるわ」


 何と! 手を挙げたのは流星だ。

 普段、周りに悪態付くような態度を取りがちだが、リーダーシップはある。

 クラス委員長は向かないんだろうが、こ手のイベント事だと流星向きに見えるから不思議だ。


「もう一人は女子から。誰か立候補いますか?」

「はーい、私やりまーす」


 手を挙げたのは意外にも江藤さんだ。珍しい。

 ただ、江藤さんもリーダー格の女子だ。色々と陰ながらのサポート役を熟しているのは皆が知るところだ。


「それじゃ二人前に出て。司会よろしくね」


 二人が教壇に立った。

 不思議な絵面だ。深川さんを通してこの二人が仲がいいと言うのは皆知ってる。

 ただ、ツーショットっていうのは見たことが無い。

 ちょっと写真に収めたいが、一応授業中だ。この状況を深川さんに伝える手段は無いようだ。


「委員になった柳生だ。よろしく」

「江藤です」


 二人は軽く礼をする。場慣れした感じに安心感を覚える。

 流星と江藤さんは先生から手渡された紙にササッと目を通す。

 出場に関するルールは去年と同じはずだ。なので『理解』と言うよりは『確認』と言う作業になる。

 そして、流星は江藤さんを差し置き率先して説明を始めた。


「今から出場する競技を決めて行くが―――、まず、知ってのとおり、うちは隣のクラス、Cクラスと合同のチームになる。それぞれ、サッカーなら11人。野球なら9人と、一クラスで競技の参加人数に合わせた人数を選出して、Cクラスと合わせてチーム作りをするわけだ。ここまで質問あるか?」


 一人の生徒が手を挙げた。


「一人が参加出来る競技は何個までだっけ?」

「一人二つだ。――― 他には? 無いなら続けるぞ。その競技に所属している部員は出場枠の制限があるから注意な。あと、競技日程、時間の重複もあったりするから、時間と競技を上手く見極めて参加種目を選んでくれ。――― ま、そのためにクラス合同にして、人数多くして重複しても大丈夫なようにしているらしいがな」


 俺は「身長がでかい」という理由だけで、今年も『バレー』と『バスケ』に選ばれた。

 バスケは流星の誘導だ。



 ※  ※  ※



「まもなくクラスマッチだな」

「そだね。同じチームだね。宗介はバスケにでるの?」

「去年と一緒。バスケとバレーだ」

「宗介のバスケちょっと楽しみだな。同じチームだから堂々と応援出来るね」

「ははは、そうだな。でも皆には申し訳ないけど、全力は出せないよ」

「そうだね。全力出したら反則だよね。でも楽しみ。手、抜きながら勝っちゃうんでしょ?」

「『手を抜く』ってのが相手に失礼な気がして凄く気が引ける」

「ま、楽しめればいいんじゃない? ところで、バレーはなんで選んだの?」

「去年と一緒。身長あるから勝手に決められた」

「翠は何に出るの?」

「私もバレーとバスケ」

「ほう、バレーは去年数合わせだったよな? で、バスケか……翠は本気出しちゃうの?」

「うーん……ちょっと悩んでる。最近、体育でもゴーグル付けてちょっと本気出し気味だし……全力出すと頭蒸れて嫌だからあんまり本気は出したくないんだけど……もう外しちゃおっかな?」



 ※  ※  ※



 競技が決まり、放課後は競技別にミーティングだ。

 今日はバスケだ。出場者はC、Dクラス合わせて十人だ。

 このミーティングは、バスケ部員の流星が仕切っている。


「バスケに出るバスケ部はCクラスは二人、Dクラスは俺一人だ。一応聞くがバスケ経験者いるか?」

「「はーい」」


 と二人が手を挙げた。


「あくまでお遊びだ。勝っても負けても何も出ないし、成績に影響もない。経験が無い人はバスケが楽しいと思ってくれれば嬉しいよ。なので、勝ち負け拘らずに楽しもう」


 その一言に、他のバスケ部員は大きく頷いていた。


 ――― 後日、バレーのミーティングがあったが……まぁ、言ってる事は何処も大して変わらんな。


 

 ※  ※  ※



 ——— 九月下旬、ついにクラスマッチが始まった。

 全競技、トーナメント方式だ。

 一学年4チーム。計12チームあるので試合は三回、シードは二回勝てば優勝となる。

 初日の今日、俺はバレーボールに出た。

 やる気になってる奴には悪いが、俺はこのイベントそのものに興味は無い。なので、自分の試合が何試合目からかなんてスケジュールは全く覚えていなかった。

 ましてやバレーはだ。

 ボールに触れる一瞬に、自分が持つ技術の全てを込めるスポーツ……誤魔化しが効かないので正直ちょっと苦手だが、「バレーはスポーツ」ってフレーズは好きだ。


「なぁ、うちら何試合目だ?」

「二試合目だな」

「真壁君は身長有るから、ブロック頼むよ」


 おっと、突然期待を寄せられた。

 一回戦目が始まった。1セット目はベンチだ。座ってボールの往来を眺めてた。


 ——— 1セット目が終わる。

 

「じゃあ、二セット目、真壁君頼むよ」

「何すればいい?」

「ポジションは真ん中の右で、相手ボールになったらネット際に立って後はブロックでいいよ」

「分かった」


 俺は身長が大きいと言うだけでブロッカーとか、まぁバレーは高さのスポーツだから役割としては適任か。

 二セット目、俺は出場するとブロッカーっぽい事を何度かやってみた。結構ブロックを決めたが、決まると意外に気持ちいいもんだ。

 皆それなりに運動神経がいいようで、一回戦は一応勝てた。二回戦進出だ。


 ——— 試合の後、バレー部から入部を勧誘されたが、流石に断った。



 ※  ※  ※



 ――― 俺と翠は体育館の片隅に座って話をしている。

 一応、目立たないようにしているつもりだが……最近の翠の行動でどう見られているのかちょっと考えるところではある。


「翠の競技はいつなの?」

「この後直ぐかな」

「バレー?」

「うん」

「それじゃあ応援しないと」

「うん。よろしく」



 ※  ※  ※



 翠はヘアバンドとゴーグルを付けてゲームに参加してた。

 その姿に周りの女子からは「何あれ?」「ダッサ!」なんて声が聞こえてきたが、男子からは「本格的だな」「NBAっぽいな」「俺も買っちゃおっかな」

なんて声が聞こえてきた。

 学校でもゴーグルメガネを付けているのは何人かいるが全部男子だ。しかも片手で収まる人数だ。校内でもそうそう見かけるものじゃない。知ってる風に語る斯く言う俺も実は見た事は無い。そして女子で付けてるのは翠だけだ。なので結構目立っている。



 ※  ※  ※



 ——— 翠の試合が終わって再び体育館の隅に座っている。


「お前、あんなに動いてウィッグズレないのか?」

「実はヘアバンドとこのゴーグルでウィッグ押さえて取れにくくなるんだよ」


 ヘアバンドは額に回すのではなく、前頭葉に付けるような、女の子特有の付け方をしている。


「なるほど! そんな副次効果があったか。結構ボール拾ってたな」

「うん。バレーも中々面白いね。ジャンプ力ちょっと欲しいけどね」

「そう言えば宗介のバレーって……」

「翠がバスケやってる時に終わったよ。ついでに勝った」

「何だぁ……宗介の試合見たかったよ」

「結構活躍したっぽいよ」

「自分の事なのに随分他人事だね」

「バレーってよく分かんないからな」

「午後はなんかあるのか?」

「あ、バスケの試合あるね」

「バレーと重なんなかったら応援行くよ」

「頑張る!」



 ※  ※  ※



 男子バレー二回戦。


 ――― 意外と接戦になった。


 接戦になれば、試合は白熱するもので、白熱すると周りからの声援も大きくなってくる。

 声援が大きくなると、プレイヤーは更に白熱するわけで、そうなると俺の中で抑えていた『スポーツマン』が目覚めてしまう。


「ブローック!」


 相手チームのスパイクに合わせ、俺はジャンプしたが、白熱した熱に当てられ思わず全力で跳んだ。


「——— !」


 相手のスパイカーは空中で俺と目が合いギョッとする。

 相手は現役バレー部のエースだ。


 ——— “バチン!„ “バン!„ “タン!„


 放たれたスパイクは俺の手が芯で捉え、ボールは相手陣地を転がった。

 

 ——— ………。


 静寂が体育館を包む ———。

 俺はやらかしてしまったようだ。

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