第160話 変化②

 教室では、私と芹葉は普通に会話するようになっていた。勿論、周りの子とも話しはしている。 

 その中に『滝沢蘭華』も入っていた。

 彼女は廉斗君のお姉さんだ。

 そんな意識があってか、彼女とは良く話すようになった。

 ただ、彼女は私が藍の姉とは知らない。

 そこがちょっと罪悪感だ。


「桜木さんってお話しする子だったんだね」

「うん、実は最近までちょっとした病気でね。人前に立てなかったんだ」

「そうなの? 全然気付かなかった……」

「だって気付かれ無いようにしてたからね」

「結構、気さくでビックリだよ……って言うか、よく見ると可愛い顔してる……? もっと髪型とか気にしたらいいのに……あれ? 何となく弟の彼女に似てる?」

「あ、私ちょっとトイレ行ってくる」


 話しの流れがやばくなって来たので私はそのばを離れ、トイレに行った。



 ※  ※  ※



 私は一人トイレに来ていた。

 手を洗い、鏡の前で髪をボサボサに整えていると、女子が三人少し威圧的に話しかけてきた。

 例のカースト女子だ。


「ねぇ、桜木さぁ、休み明けたらなんで深川さんと江藤さんと仲良く話ししてんの? 意味分かんないんだけど」


 この前も思ったけど、どうやら私の名前は知ってたようだ。流石に目立たなくても名前くらいは知ってるか……。

 仲良く話して何が悪いんだろうか? ま、彼女らが言いたい事は分かってるんだけどね。

 私は手を止め、彼女達の質問に答える。


「芹葉は四月から仲良かったし、来羅も夏休み前には仲良かったよ。まぁ、来羅の場合、入学してからずっと私の事気に掛けててくれてたんだけどね」

「何それ。意味分かんないんだけど。何で江藤さんが入学して直ぐアンタのこと気に掛けなきゃダメなんだよ」

「それは彼女の優しさ? 私も最近まで知らなかった話だし、元々、他の人には全然関係無い話だしね。親友の芹葉ですら知らなかった話だよ」

「っていうか、何でさっきから彼女達のこと呼び捨てで呼んでんだよ!」


 今度は呼び捨てである事に論点が移った。

 私は呼び捨てになったキッカケを素直に話すが、当然、人を馬鹿にしたような回答だ。


「んー……おっぱい揉み合ったから?」

「ハァ? ざけてんのか! おっぱい揉んで何で呼び捨てになんだっつーんだ! ウチら舐めんなよ!」


 彼女達への煽りを意識した事は否定しない。ただやり過ぎた。

 彼女らは私の胸ぐらを摑むんじゃないかって剣幕で一歩踏み出す。ちょっとヤバいかも。


「——— いやぁ、マジでおっぱい揉みあって、互いに呼び捨てになったんだなぁこれが」


 来羅がトイレに入って来た。


「え?」

「だから、三人で乳揉んだの。揉まれたの。揉み合ったの。そしたら『やめろ芹葉!』『ふざけんな来羅』ってなるじゃん。気付いたらそのまま呼び捨てになっちゃったの。なんか文句ある?」


 三人はキョトンとしている。


「私ら三人、互いの乳揉めるくらいの仲なの。お風呂も一緒に入ってるし、パジャマパーティーなんかもしちゃってるし」


 そう言って来羅は私を後ろから抱きしめてホッペにチューして肩に顎を乗せた。ホッペとホッペが少し触れ合う。サラサラで気持ちいい。


「いや、私はもう揉ませないよ」

「そんなこと言わないでぇ♡ 翠のおっぱい形いいから好き♡」


 そう言ってまた私のホッペにチューする。この後、宗介がホッペにチューしてきたら来羅と宗介は間接キスだ。後で顔洗おっと。


「何で江藤さんと深川さんがこんな奴と仲良くしてんの。私達の方がこの子より可愛いしお洒落だもん。私らと連んだ方が絶対釣り合うし楽しいって」

「いやー……あのさ、何で私がアンタらに従わなきゃなんないの? 私が誰と居ようが関係無いじゃん」


 そう言うと、三人は『ウッ』と、言葉に詰まった。


「それに、なんか大きな勘違いしてるけど、この子が私達に近寄ってるって、そう思ってるでしょ?」

「当然でしょ? だってこんな陰キャ、どう見たって江藤さん達から寄ってく訳ないじゃん」

「逆だよ」

「……逆?」

「私と芹葉がこの子に近寄ってんの」

「ハァ? それ意味分かんないって」


 どうしてこの手の子って。事ある毎に『意味分かんない』って言うんだろ?


「翠の迷惑顧みず、私達が付き纏ったの。最初はこの子、自分は陰キャだから人前では声掛けんなって、ホントに嫌がってたんだ。下手すりゃ学校来なくなるレベルでね。しかも去年一年間、彼女はずっと一人で居たの。それを強く望んだの。でもそれを芹葉が無理矢理彼女のルールを壊して今の関係作ったの」

「まぁ……強ち間違いじゃないね」


 来羅の話じゃ、芹葉は去年から私に接触したがってたって話だ。

 今年の四月に街で会わなければ……いや、旧校舎の教室に来なければ今の関係は無かった。

 来羅もボールが私の頭にぶつからなければ……隣のクラスじゃ無ければ今の関係にはなって無かった。


「だから意味わかんないって。何で彼女のルール壊してまで仲良くなる必要あったの?」

「それはね、彼女が私達に必要な存在だったから」


 来羅とは違う声で質問の答えが返って来た。

 芹葉だ。

 芹葉も私に抱きついて来た。ちょっと暑苦しい。


「必要って何? 何で必要なの? その子全然オシャレじゃ無いし可愛くも無いじゃん」

「私達が必要としてるのは刺激。私の向上心を煽る刺激が欲しいの。お洒落とか遊びは正直どうでもいいんの。私は人間性を高めたいだけ」

「そうだね……今度の期末テスト。結果を見れば分かるよ。私と芹葉が彼女に付き纏う理由」

「そうだね。今度のテストの結果見に来て。あと翠のこと虐めるなら……アンタら二度と学校来れなくさせてやる!」


 ——— 私はゾッとした。来羅も青冷めた顔してる。

 こんな芹葉、初めて見た。普段おっとりしている芹葉が目の前の女達に向かって睨み、そしてドスの効いた低い声で脅した。

 しかも、芹葉の家を考えると私達が思うレベルの『来れなくなる』じゃ無いような気がするのは気のせいじゃ無いと思えた。


「ははは、せ、芹葉もじょ、冗談キツいって」

「え? あぁ……ふふふ、冗談冗談。そんな家ごと潰すとかじゃ無いから安心して」

「…………」


 『家ごと潰すとかじゃ無い』って、何潰すの?

 私と来羅の雰囲気を察したのか、目の前の女達も固唾を飲む。


「ま、そういう事でこれからも宜しくね。んじゃ行こ」


 来羅はそう言って私と芹葉をトイレから連れ出した。



 ※  ※  ※



 どうやら翠はカーストグループに目をつけられたようだ。

 ただ、来羅の目には翠はそれを望んでるようにも見えた。

 なんか企んでる?

 企みかどうかは分からないけど、クラスマッチで翠は弾ける。そして真壁君が……。

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