第159話 変化①
夏休みも終わり今日から学校だ。
いつもと同じ朝を迎え、俺はマンションの通路で翠が出てくるのを待つ。
そして出てきた翠だが、いつもと雰囲気が違っていた。
「おはよう」
「………おはよ」
「どうした?」
「……いや、なんか可愛いなって……あれ?」
「ふっふっふっ、彼女の些細な変化に気が付かないとは彼氏失格だなぁ!」
何故か勝ち誇る翠。メガネはお洒落メガネだ。これは夏休み前からやっている。
俺達はマンションを出る。駅に向かう間も翠の変化を探る……殆ど翠しか見ずに歩く……なんか目元がスッキリ……。
「——— あ!」
「気付いたかね真壁君」
「雀斑かぁ」
「雀斑だぁ」
「夏休み見慣れすぎてて気付かなかった。とうとう辞めんのか?」
「うん。どうせ私の事なんてマジマジ見てる子いないしね。辞めたところで気付く子なんていないよ」
「随分ネガティブな自信だな」
「まぁね。伊達にボッチ決めてないぜ!」
「だな。今のお前なら注目されても平気だもんな」
「寧ろ注目さてたがってる自分がいる」
「少しはビビれよ」
※ ※ ※
もう人目は気にしなくなった翠だ。何でもありだ。歩く時は腕をさり気無く絡めて来るし、電車の中では普通に寄りかかってくる。そして偶に俺を見る。上目遣いだ。前髪で目がよく見えないが、それが逆にそそる。
目的の駅に到着する。いつもは少し待って人が捌けてから学校に向かっていたが、今日からは流星達の到着を待って一緒に学校に行く事にしていた。
腕は離さない。
通り過ぎる人達からちょいちょい見られる。
でも気にしない。
深川さんと江藤さんが並んでやって来た。その後ろを流星が付いて来る。初めて見たがこんなフォーメーションで通学してた訳だ。
「おはよー」
「おはよう」
「おはよう」
「うーっす」
「よっ」
翠は、やっと俺の腕から手を離した。
翠を真ん中に女子三人並んで歩き始める。
俺と流星は彼女ら三人の背中を見て歩く。
「まさかお前と肩並べて学校に行く日が来るとはな」
「だな」
※ ※ ※
休みが明けて、私は遠慮なく芹葉と来羅に接した。二人も遠慮なしに私と話す。
駅から学校まで、学校の外で接していたように、三人名前を呼び捨てで呼び合い、そしてそのまま教室へ入る。
「おは……」
すると、教室へ入るなり、カーストトップな三人が挨拶も無く芹葉に迫った。
「ねね、深川さんこの写真なに?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。突然すぎるよ。落ち着いて」
流石の芹葉も彼女達の余りの勢いにたじろぐ。
芹葉は席に付けずそのまま佇む。私は自分の席にカバンを置いてそのまま座り、芹葉達の様子を伺う。
「落ち着いてらんないよ。これ、何であの謎のカップルと、深川さんと柳生君が仲良く話してんの?」
「友達なの? 何処の子?」
「ねぇ、私達にも紹介して!」
彼女らが示した写真は、夏祭りの写真が夏休み中に拡散されていた物だ。
最初、このメールが来た時、あのバスケ部の三人が拡散させたと思ってたのだが、写真を見ると、素顔の私と宗介、そして芹葉と柳生君が楽しそうにしているところを撮られた写真だった。
私と芹葉の笑顔がグッドだ。いい写真を拡散してくれたとちょっと褒めたい。
芹葉は彼女達に言い寄られ、余りの勢いに私の顔を思わず見てしまったようだ。
芹葉の視線に釣られて彼女ら三人も私の方を見る。
私はキョトンとした顔で首を傾げる。流石に今の私でもこの状況に大して何か反応する事は出来ない。
「ゴメン。あの子の事は何も言えない。言える事はそれだけ。ゴメンなさい」
そう言うと、芹葉は三人の反応を待たずに自席にカバンを置き、そのまま椅子に腰を掛けた。
※ ※ ※
夏休みが明け、二日ほど経った。
今、昼休みでいつもの五人で弁当を広げているのだが、今日から中庭の東屋で食べる事にした。
東屋は庭の中央に置かれているのだが、余りにも目立ち過ぎるので誰も使っておらず、東屋の周りを囲むように他の生徒が芝生の上に敷物などを敷いて弁当を食べている。
「翠)皆こっち見てるよ♪」
「来)別に気にすることもないっしょ。元々目立ってる私達だし」
「流)宗介と桜木は裏の顔で目立ってるけどな」
「宗)翠、雀斑辞めたの気付いたか?」
「芹)勿論♪ 女の子だもんすぐ気付くよ。早くウィッグも辞めないかな?」
そんな話をしながら空いてる東屋に私達は躊躇う事なく腰を掛けた。
「宗)夏休み中に拡散したから学校始まる頃には下火になってると思ってたが……全然だったな」
「流)だな。俺もちょっと予想外だ……しかし今回の写真は面倒だ……」
「宗)何せお前らの素顔と一緒に、俺と芹葉が写ってんだもんな」
「翠)別にもうバラしても良いんだけどさ、例のカースト集団、昨日、朝教室に入るなり、早速芹葉を伝に『幻の女』に接触しようとしてたよ」
「流)で、芹母なんて?」
「芹)『何も言えない』しか言えないよ。仲がいいとか友達とか些細な一言でどうなるか分かんないし」
「来)ちゃんとそう言う人種について学んだようだね」
「芹)まぁね。バスケ部内よく観察してたら結構そんな構図が見え隠れしてて気付いたよ。結構、部内でも私の事取り込もうって感じが見えたね」
「来)また一つ庶民に近付いたようね。ま、アンタの社会じゃ政治的に寄ってくるの多いだろうから、これもいい経験になるでしょ」
「芹)流星君は? 何か聞かれたりしてないの?」
「宗)いたけどコイツは『言えるわけねぇだろ』の一言で一蹴だよ」
私達の声は周りには聞こえない。
逆に周りの声も聞こえないが、明らかに私と宗介を見てヒソヒソ話している様子は見て取れた。
「そのうち皆慣れるっしょ」
と、来羅は楽観的だ。
※ ※ ※
翠の変化は目まぐるしかった。ウィッグを付けてる以外、全てが変わった。
「芹葉、次の授業の一緒に行こ」
皆の前で放った第一声がこれだった。
当然教室内が騒ついた。って言うか私自信驚いた。
「ゴメン翠、ちょっと待ってて」
私も咄嗟に呼び捨てで呼び、周りに関係性を少しでもアピールする。
やはり周りは驚いた顔をする。
——— そして、休み明け最初の体育の授業だ。
なんと、翠はストリートバスケの時付けてるゴーグルメガネを付けて体育館に現れたのだ。勿論、目元は髪で隠し気味にしているけど、普段よりは目が見えている。ただ、ゴーグルなので結局目はよく見えない。
私と来羅が立ち話ししてるところに翠が普通にやってきた。
来羅はその状況に驚く。
「あれ? 一緒にいて大丈夫なの?」
「うん、もうウィッグ以外は気にしてないよ」
「朝から教室でもこんな感じ」
「で、そのゴーグルって……」
「そっか、来羅は見た事なかったっけ。ストバスの愛用メガネ。これ付けると髪も押さえられてズレない事に気付いた」
「なるほど」
「翠……体育でも本気出しちゃうの?」
「うん。中蒸れちゃうから流石に全力は出さないけど前よりは動くよ」
すると、お洒落グループと教えられていた子の数人が私達の所にやってきた。
「ね、そのゴーグル何? なんかウケんだけど」
「これ? メガネだよ」
「ぷっ……メガネって、コンタクトにすればいいじゃん」
「なんかカッコわる〜」
「そう?」
「え?」
私は彼女達の言葉を否定した。
彼女達は私の反応が意外だったようだ。驚いた顔で私を見る。
「バスケやってる人、普通に付けてる子多いからかな? 私には全然オシャレに見えるんだけど……それってバスケで見慣れてるから?」
「そうじゃない? 付けてる私が言うのも何だけど、これ、普通にカッコ悪いと思うよ」
翠がお洒落グループの肩を持つ発言をする。これもちょっと意外だ。
「ま、お洒落したところで誰も私なんか見ないよ」
「ハハ、なんだ分かってんじゃん。てか、何で桜木が深川さん達と話してんの?」
「へ? 普通に仲良いから」
「うん」
「で?」
私は質問の意味が全く分からなかった。ただ、翠と来羅の表情から意味は彼女達が言いたい事は理解できた。
「え? 仲良いの?」
「うん」
「いいよ」
「で?」
「……そ、そうなんだ……」
何か納得できないって感じで彼女らは去って行った。
「翠の事、凄く面白くないの分かるね」
「だね」
「うん、あれは流石に私も気付いた。そっか……あんな感じになるんだね?」
——— そして翠は結構な活躍をして皆の目を引いていた。
※ ※ ※
「ねぇ、桜木、アンタ最近調子に乗ってんじゃない?」
——— 私は今、トイレで絶賛絡まれ中だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます