第169話 バスケ部③
バスケ部入部を決めたその日の放課後。
俺と翠は早速練習に参加した。
「知ってのとおり、今日から新しく部員が増えた。
あと、マネージャーも一人入ってくれた。マネージャーは女子部のプレーヤーと兼任だ。訳あって全力が出せないって事で、半端になるがそこは勘弁してやってくれ。それじゃあ自己紹介宜しく」
「真壁宗介です。宜しくお願いします」
「桜木 翠です。宜しくお願いします」
俺は今、ヘアバンドで髪を上げている。女子部の子達が俺に見惚れる。
その状況を察したのか部長が一言付け加えた。
「因みに桜木は真壁の彼女だ。男子も女子も其々に手ぇ出すなよー」
「ういーっす」
「はーい」
ちょっと、そんな情報皆に言う事じゃ……いや、有難いか?
「それと、真壁、お前レギュラー決定な」
「はい? 何の冗談ですか! 俺、今日入部したばっかですよ」
「あの試合、俺、動画撮ってたんだよ。皆に見せたら、満場一致で決まった。」
「いや、だってみんなレギュラー目指して頑張ってるんですよ。その頑張り無視してレギュラーになったら、皆の努力はどうなるんですか」
「それは問題ない。お前はこの場所で努力を見せていないだけだ。あの動きは、日頃の努力がなせる技だ。それは皆感じている。お前、普段から鍛えてるだろ?」
「まぁ、それなりには……」
「じゃあ、全く問題ない。誰か文句ある奴いるか? いたら手、上げろ」
すると、一人手を上げた。三年生だ。
「真壁がレギュラーを拒否している事に文句ありまーす」
そう言うと、周りが拍手した。
「と言う事で、お前、レギュラーな」
「マジすか……」
早速、ある意味やらかした気分だ。
申し訳無さすぎる。って言うより、みんなプライドは無いの?
俺は、あの試合の話をされ、ふと思い出し整列してる面々を見渡した。
「そう言えば、あの三人の姿が見えませんけど……」
「あの三人って、あいつらか? あいつらは辞めて貰ったよ」
「え?」
「流石にあれは駄目だろ。人間性問うよ。まかりなりにも女子バレー同様、バスケ部も全国区になったんだ。大会中、良い所で不祥事起こされたら堪んないし、全国ニュースにも簡単に載るぞ。それに、バスケやる人間が、あんなんばっかだって、思われたら、全世界の
「素直に辞めたんですか?」
「『こっちから辞めてやる』って吐き捨てて行ったな」
「保護者とか乗り込んで来ないですかね?」
「大丈夫だ。俺の動画が一部始終を撮ってるから」
一部始終? 俺がキレたところも映ってる?
「カッコよかったぞ。『それ、俺だよ』」
「あ—————— ! 止めて——— ! 消して——— !」
「『悪りぃな、腑抜けなプレーだった』」
「きゃ—————— ! 退部届け出していいすか!」
俺は両手で顔を隠して悶絶した。
皆、爆笑している。
「すまんすまん。お前も中々面白い奴だな。流星が言ってたとおりだ」
マネージャーも翠に何やら話している。
後で聞いた話では「可愛いね」って言われたそうだ。
「それじゃあ、アップ始めろ!」
「うぃーっす」
皆、解散してアップを始めた。
翠も、二人いるマネージャー(三年)について行き、色々教えて貰っているようだ。
家事も卒なくこなす翠だ、マネージャー業も難なくこなすだろう。
ここのマネージャーは男女バスケ部兼任らしいので、体育館の半分を使っている女子バスにも改めて挨拶をしているようだ。
暫く翠の姿を追っていると、深川さんと目が合った。すると深川さんが俺に向かって小さく手を振っている。
こういう時の反応って困る。
それと女子バスの子達から向けられる視線がちょっと気になる。
まぁ、そのうち慣れるとは思うけどな。
「しかし、真壁、今日の昼に部に入るって言って、既に一式準備済みって」
「流星からポジション変更の話は聞いていましたし、俺自身ウズウズしてたんで、実は声が掛からなくてもこちらから出向くつもりでいたんです」
「しかし、あの条件、出されなければ柳生の才能も知らずに無駄使いする所だったよ。感謝だな」
「そう言って頂けると助かります。」
※ ※ ※
練習も終わり、俺達四人は暗くなりかけの道を歩いていた。
「部活で汗かくのいいな」
「うん。ちょっと物足りなかったけど、いい汗かけたよ」
「ウィッグ取るか?」
「まだ取らないよ。そう言えば来月中旬、中間テストだね」
「流星、最近勉強してるか?」
「婚約解消されちまうから毎日必死だよ」
「私も流星君に負けたく無いし現状維持勿論したいから必死」
「宗介、満点取るぞ」
「勿論だ」
前回同様、流星用の問題集を作り渡す日々が始まった。部活と問題集作りの掛け持ちは辛くはあったが、俺のテスト勉強も兼ねているので、まぁ、マイナスになって無いから気にはしなかった。
そして ———
——— 昼休み。
「さて、腹も膨れたし見に行くか」
「えへへ、今回初だね見に行くの」
「そうだったな」
「そっか。今迄スルーしてたんだっけ」
期末テストが終わり、今日もいつもの場所で五人で弁当を食べて、成績順位が張り出されている掲示板に向かった。
「まだ人が多いな」
「宗介よ、なんか様子が変じゃないか?」
「そう……だな」
結構な人が順位表を見ているが、様子がおかしい。
何故か二年生の張り紙の前に人集りが出来ていた。
俺達は人集りを掻き分けて掲示板の前に来た。
そして真っ先に一番上に目を向けた。
俺達四人にはもう当たり前の順位だ。
ただ一人……喜びに声を失った者がいた。
1位 900点
江藤来羅
桜木 翠
深川芹葉
真壁宗介
柳生流星
6位 864点
氏…
「俺、なんか不正したか?」
流星は魂が抜けた顔でいる。
「してないよ」
「初めてだよ満点なんて」
「お前はやれば出来る子なんだよ」
「五十音順とは言え、一番上に名前があるって気持ちいいね」
※ ※ ※
私は自分の順位を確認した後、あの三人が来ていないか周りを見た。
すると私の後ろにトイレで翠に絡んでいた例の三人が立っていた。
「江藤さん一位って凄いじゃん」
彼女らから声を掛けてきた。
私は彼女らに向かって淡々と話し始めた。
「来たね?」
「うん。あの時来いって言ってたじゃん」
「あの一位に名前乗ってる人達、いつも私とお昼ご飯食べてるメンバーね」
「え?」
「翠はね、去年一年間、私より順位が上だったの。翠は二位、私は四位、芹葉は三位ね。知ってた?」
「…………」
「もう一人名前あるでしょ? 真壁宗介。彼は翠の彼氏」
「彼氏ってあの超イケメンの?」
「そう。信じられる? 彼は常に満点だったんだよ。入試も満点って話。バケモンだよね。で、私と芹葉、そして柳生君が翠と真壁君と関わって、今じゃ柳生君まで満点って……今度はこれを維持しなきゃ……私に必要なのは私を成長させてくれる人。一緒に成長してくれる人。学力だけじゃ無くてね。これ以外は友達と思えない。だから御免ね。あなた達が私に必要だとは全然思えない」
彼女達は黙って私の話を聞いている。
「意味わかんないと思うけど、私は彼女達より上に行きたいって思ってる反面、彼女達には私の上に行って欲しいって思ってる」
私がそう言うと、暫く私の顔を見て、そして掲示板に目を向け、黙って廊下の向こうへ去って行った。
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