第168話 バスケ部②

 席に着くと、いつもは流星とモーニングトークをするのだが、今日は女子が三人、俺の元へ来て話し掛けて来た。


「真壁君おはよう。髪切ったんだ?」

「あぁ、襟足だけな」

「へぇー、美容院何処行ってんの?」

「行ってない。彼女が切った」

「彼女って……あのメガネの子?」

「そう」

「ふーん……」


 すると流星が話に割って入った。


「お前ら、宗介とID交換しようとか、遊びに誘おうとか、あわよくば、あのメガネから宗介奪って自分が彼女になろうとなんて思うなよ」

「え? や、あ、そ、そんな事、お、思ってないよ」

「おいおい、俺の彼女をメガネ呼ばわりは無いだろ」

「あ、悪りぃ。でもこいつら図星っぽいな」


 流星は大声で教室に居るみんなに向けて話した。


「こいつ、彼女一筋だから連絡先聞いても教えてくれねーし、遊び誘ってもぜってー来ねーぞー。無駄だから辞めとけよー」

「そーだぞー」


 何、江藤さんも合いの手入れてんだか。


「おいおい、いきなりそんな大声で言うなよ」

「いいんだよ、ここでズバッと言っとけば、寄ってくる奴いなくなるから」



 ※  ※  ※



 ―――昼休みだ。


 いつもの五人で東屋で弁当を食べていた。

 周りにる奴らはこっちを見ている。

 翠はおかずトレードに忙しいようだ。


「また、注目浴び始めたな」

「そりゃそうだな。またその内慣れるさ」

「翠は教室でなんか言われたのか?」

「昨日、意味不明に絡まれたくらいで、特に無いよ。陰口っぽいのは耳に入ってくるけど」

「陰口って?」

「何であんなメガネの彼氏があんなにカッコいいんだって」

「メガネの女の子の彼氏はカッコよくちゃいけないのか?」

「彼女らの基準じゃダメらしいよ」


 いつものように、他愛もない話をしていると、二人の大柄な男と女やって来た。


「柳生と深川も一緒か、話が早くていいな」

「あ、お疲れっす」

「誰?」

「バスケ部男女それぞれの部長」

「率直に聞くけど、真壁君、バスケ部入んない?」

「私は桜木さんの勧誘ね」

「率直に聞くけど真壁に桜木、お前らバスケ部入んないか?」


 部長と紹介された先輩が突然誘って来た。


「本当に率直ですね」

「回りくどい事言っても結局聞く事は同じだしな。で、二人は部活って何やってる?」

「郷土史研究部ですが……」

「私は文芸部です」


 先輩二人はその部の名を聞いて「ニヤッ」っとした。

 俺達が入ってる部活は幽霊部員しかいない事は有名だ。そして稀だが転部については誰も文句は言わない。

 ついでに部員が足りなくなる事もない。幽霊部員のうち、男子の八割が郷土史研究部。女子の九割が文芸部だ。尤も俺は他の部員を見た事が無い。


「昨日のダンクも凄かったが、それ以前にあのマークをかわす時のドライブ。ありゃ日頃からやってる奴の動きだったな」

「桜木さんも普段からやってるんでしょ?」

「まぁ……ストバスストリートバスケですけど……」

「やっぱりね。あなたの動き、女子の動きじゃ無いんだもん。決勝じゃうちの部員の子、普通に手玉に取ってたしね」

「あはは……」

「一応、柳生から電話で聞いたんだけど、中学でやってたんだろ?」

「まぁ……はい」

「で、どうだ? バスケ部」


 確かに昨日、クラスマッチの後、バスケ部への転部はちょっと頭を過ってはいた。そもそもバスケが好きだしな。翠もこの流れに乗りたいだろうが……うん。この勧誘に乗らない手はない。

 ただ、交渉事は申し出た方が下手になる。


 ——— ここは一つ利用させて貰って……。


「ありがとう御座います。一つ確認させて下さい」

「何だ?」

「流星がポイントガードPGじゃ無くてパワーフォワードPFやってる理由ってなんか有るんですか?」

「――― ポイントガード?」

「こいつ、中学ん時PGだったんですよ。聞けば今、PFだって言うじゃないですか。こいつの持ち味随分殺してるなって」

「宗介、俺の話はいいよ」

「いや、これは俺がバスケ部に入る上で重要な事だからちょっと黙っててくれ」


 流星は俺の言葉に言葉を詰まらせる。


「PGの話は初めて聞いたが、確かに昨日のプレーは様になってたな。柳生、お前元々PGだったのか?」

「ええ、まあ……」


 流星は困惑している。

 俺は構わず条件を出した。


「条件は二つです。俺が入部する条件の一つは流星がPGって事が前提でお願いします。先輩方に言っときますけど、こいつの出すパス、―――ゾクゾクしますよ。今日試してみて下さい。納得して頂いたら俺も快く入部します」

「宗介……」


 流星は凄く申し訳ないような、困ったような、そんな表情で俺を見ている。


「分かった。今日の部活で試してみるか。で、もう一つの条件はなんだ?」

「こっちは翠の話になります」

「桜木さんの?」

「私?」

「まず、翠はバスケ部入るのは大丈夫か?」

「え……うん。でも私全力はまだ……」

「入る意思があるならいい。コイツ、訳あって全力のプレーにある程度時間制限があるんです。他のメンバーと同じ練習だったら多分病院行きです」

「え? 何か持病でも持ってるの?」

「いや、そこまで大層なもんではありません」

「それじゃあ……」

「多分、別メニューとか区別してもその内一緒になって練習しちゃって多分倒れます」

「まぁ、想像は付くね」

「なので男子バスケ部のマネージャーで様子見ってどうですか?」


 女子部部長はちょっと考える。


「……なる程。で、偶に女子の方を手伝う形でプレーする。そんな感じかな?」

「はい。それだったら負担も少なくて大丈夫かなって。ま、全部が半端になっちゃうからどうかとも思いますけどね」

「オッケー。それじゃあ、まずは柳生君だね」

「はい。そっちは是非に」

「分かった」


 そう言って部長が流星の肩に手を置いた。


「それじゃあ、部活でな」


 そう言い残し、二人は去っていった。


「という事で、明日から宜しく」

「まだ俺のPG確定じゃねぇだろ」

「確定だ。お前のパスは中毒性がある」

「分かる。ストバスでもそうだもん」

「だね。他の人のパスが物足んなくなるっていう欠点があるね」

「そう言う事。バスケやるならお前のパス受けたいさ」

「……なぁ、芹葉……泣いていい?」

「いいよ。フフ」


 ――― 今日の放課後、PGにポジションが変更になったという連絡を流星から貰った。



 ※  ※  ※



 ——— 日付が変わって昼休み。


「真壁君。今いいか?」

「ちーっす」


 柳生が挨拶をする。


「いいですよ」

「柳生の事は聞いてると思うけど、真壁君の言うとおり、ゾクゾクしたよ。正直、今すぐ、隆司とバスケがしたいね。この溢れるイマジネーションを試したくてしょうがない」

「先輩方も掛かってしまいましたか……柳生中毒」

「何それ? 俺って毒物?」

「毒物だな。お前パスって『何かをしたくなる』パスをくれるんだよ」

「……自分じゃ分かんねーな」

「先輩方も気付いて頂いて何よりです」

「こっちの条件は満たし「宜しくお願いします」


 俺は先輩の言葉を遮りながら、立ち上がって深々と礼をした。

 すると部長は翠に私に条件を提示して来た。


「今度は、こっちから条件つけさせて貰うけどいいか?」

「条件……何ですか?」

「真壁君の専属マネージャーにはならないでね」


「分かりました。ちょっと保証できませんけど……えへへ」


 こうして私達2人のバスケットボール部への入部が決まった。

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