第156話 夏祭り②
――― 間も無く花火が上がる時間だ。俺達四人は深川さんの案内で見通しのいい場所に移動中だ。
勿論、妹達にも声を掛け合流した。妹達も当然浴衣だ。彼氏ーズは甚平だ。
「結構会わないもんだな」
「そうだね。そう言えば金魚掬い盛り上がってたけどもしかして……」
「うん、翠……と深川さん」
「え? 芹葉ちゃん?」
「あんまり多くて二十より先数えられなかったと」
「えー、芹葉ちゃん凄ーい」
「あはは、私も翠があんなに上手だって思わなくてさ」
「それはこっちのセリフ。芹葉やけに自信満々だなって思ってたら私と同じペースで掬ってんだもんビックリだよ」
「あ、着いたよ」
俺達は階段を上りに登って丘の上に来た。
「こんな場所良く知ってたね」
「吉田さんに教えてもらいました。ここは、地元の人もあまり知らないスポットなんです」
「っていうかこの段数じゃ来ようにも躊躇うな」
周りには何組か人がいるが、浴衣姿で来たのは俺たちだけだ。
「流石体育会系軍団。全員息切らさず上り切っちゃったよ」
「ちょっとこの階段でトレーニングもいいかな?」
「廉斗マジか? まぁ、確かに……いや、ちょっと必要以上の筋肉付きそうだから俺はパスだな」
「廉斗君相変わらずだなぁ。私は流石に付き合えないよ」
「あはは、大丈夫。一人で来るから」
「また私の事置いてくつもり? もう知らない!」
「あわわ、ごめんなさい。浮気しないから」
「廉斗、お前の浮気相手は筋肉か?」
中学生らしい立ち振る舞いにちょっとホッコリした。
中等部の子達と高等部で分かれて立つ。
男達は女の子二人を真ん中にして立った。
“―――ひゅーー〜……ドォ―――ン„
“ひゅひゅひゅ―――〜〜〜ドォドドォ――ン―――
„
――― 花火が始まった。
翠は俺の腕に両手でしがみ付いて花火をじっと見ている。
花火の柔らかいランダムなフラッシュに照らされる翠の顔は、凄く幻想的に映った。
――― 正直花火より綺麗だ。
翠は俺が見ている事に気づき俺を見る。
目と目が合う。翠は俺を上目遣いで見て「何?」と首を傾げる。
浴衣姿でその表情は反則だ。
俺は今のスチルをしっかり心のメモリーに保存した。
※ ※ ※
――― 花火が終わり、階段を降りる。
中等部組は少し早めに降りて行った。元気だ。
この階段一箇所、中腹的な場所がある。
俺たちのゴールは中腹を過ぎてもっと下だ。
妹達はその中腹には居なかった。
——— もう下まで行ったのか? まぁ、クリスマスの件もあるから人混みの多いところで待ってるだろ。
俺と翠は流星の数歩後ろを歩いていた。
するとその中腹の平場で聞き慣れない声で流星を呼び止める声がした。
俺達はその場で立ち止まる。
「おう、エリート様の柳生じゃねーか。――― 何? デート?」
相手は男三人だ。見た目は普通だが、柄が悪いオーラを出している。
どう見ても「ナンパしに来ました」「全然捕まりません」「だからイラついてます」感が出まくっている。
まぁ、柄の悪さが出てる時点で失敗するわな。
「ん? ああ……まぁ……な」
流星は早くこの場を去りたそうに頭をかきながら男達と目線を合わせないようにしている。深川さんは流星の後ろに隠れるように立つ。
男達は逃がさないとばかりに絡んでくる。
「学校一の美少女が彼女って、さすがエリート様は格が違いますなぁ」
「ハッ! 流石エリート様はおモテになる様で、ホント羨ましいですよ」
すると男の一人が、数歩離れたところで様子を見る俺達に気付く。ジッと見ていた事が気に入らなかったらしい。まぁ、見てたら誰でもそう思うよな。
「なんだお前ぇら……ん?」
暗くて顔が良く見えないようだ。いつものように見惚れる事なく、俺と翠の顔を
「お前……コイツらの連れ……」
その男は俺を見て怪訝な表情をする。「どこかで見た事があるぞ?」と記憶を探っている。そんな表情だ。
翠は俺の後ろに隠れ服を掴む。その掴み方から翠の緊張伺えた。
翠は怯える様に、俺の後ろに更に回り込む。
数歩先では深川さんは、流星の腕にしがみついている。流星は深川さんを庇うように立ち塞がる。
——— 俺はジッとその男を見ていた。すると男は俺達が誰なのか気付いたようだ。
「――― おい! この二人、例の写真の奴らだぞ」
「あ? 例のって……あ! マジかよ! なんで柳生と歩ってんだ?」
「何? ――― お前ら知り合いなのか?」
「お前らには関係ない」
「エリート様は俺ら下民と関わりたくないそうだ」
「ところであんたら何者だぁ?」
矛先がこっちに向いた。
「学校で噂なってんのは知ってんだろ? なのに誰もあんたらの事知らないって何だそれ? お前ら幽霊かなんかか?」
「そっちの女もどう………―――」
流星に絡んでた男の一人がこっちに来て俺の横に立ち直接翠に話し掛けた。翠はその男を直接見た。その瞬間、男は黙ってしまった。男は翠に魅入ったようだ。
その状況を見た別の男も、翠に対して何か気不味さを感じたのか、その感情を隠す様に、
「――― けっ! 俺ら下民は黙って去ってやるぜ」
と、一言残して去っていった。
「随分と突っかかってくる奴らだな」
「――― 悪いな、バスケ部の連中だ」
「仲悪いのか?」
「余り良くないな」
「なんか有ったのか?」
「妬みだよ。俺、一年の時からレギュラーになったんだけどよ」
「あぁ、それは噂では聞いてた。ポジションも
「それが問題なんだよ。慣れないPFで大したプレーも出来てないのにレギュラーなもんだから……背のでかいのいたろ?」
「あぁ、最後までお前に絡んでた奴な」
「アイツのポジションPFなんだ。実際上手い。だから俺がレギュラーっての納得いって無いんだ」
「ソイツが本職なら納得できないわな」
「あぁ、俺自信、現に先輩のPGに納得行ってないからな」
流星は腰に手をあて天を仰ぐ。
「それにアイツらも、全中まで行ってるんだよ」
「え? 俺ら優勝した年? っていうよりこの町の中学校から全国行ってたのか!」
「ただな、アイツら試合出てねぇんだよ」
「ん? ……なんでだ?」
「ほら、聞いてないか? 食中毒」
「……あ———! あの不運の仙北か!」
「そう。大会前日前乗りして、その日の旅館の夕食で食中毒になって不戦敗になった」
「あー、あれは居た堪れない事故だった……」
「で、初戦の相手が野々白だった訳だ」
「そうか……だから食ってかかって来るわけだ」
「そういう事だな。俺らと試合してれば優勝したのは俺達だったんだってな。しかも最後のラッキーゴールもネットでしっかり見てたらしい」
「あれはお前ら自身『不服』なんて言ってんだ、第三者が見たら尚の事『不服』だよな」
「あぁ、そのとおりだ」
「俺から言わせりゃ、あそこまで食い下がってた時点で俺らの勝ち負けは寸での差でしか無かったんだけどな。そして終了間際に俺らの陣地にいた時点で野々白は勝利を呼び込んでたって俺は……俺達は思ってた。だから俺らのチームは不運にじゃなく、実力に対して悔しがってたぞ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
俺と流星が語り合っていると、廉斗君が階段を駆け上がってきた。
「宗介さん、流星君、藍ちゃんと奈々菜ちゃんが遅いって激怒してます」
「ヤベッ! 行くぞ宗介」
「翠、深川さん、廉斗君のエスコートでゆっくり来てくれ」
「分かった。ふふふ、廉斗君宜しくー♪」
「あはは、お義姉さんエスコートってちょっと緊張しますね」
「『義』を付けるか……ふふ、それじゃあお願いしようかな義弟君♪」
ついでにどうでもいい情報だが、流星は、奈々菜と藍に叱られる時、何故か凄く喜んで叱られる。
そういう
※ ※ ※
——— そして、この三人の男がきっかけで、俺は全校生徒に正体がバレてしまうのだが―――、それは間も無くの話しだ。
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