第154話 いざ!野々白へ!⑦

 部活が終わって、皆解散した。

 校門前には俺達四人とブッチと真名さんが残っていた。


「流星はこれからどうすんだ?」

「飯食って帰るだけだな」

「だったら俺の高校の近くの食堂行かね? 定食、盛りが良くて俺ら高校生向きにリーズナブル」

「おー、いいね。それじゃあ……何で行く?」


 この地の土地勘は全く無いが、流星の一言で、歩いて行けない距離だとは察した。

 深川さんも察したようで、


「遠いの?」

「バスは必須だな」

「だったら呼ぶよ? 八人乗りだしね」

「んじゃ頼むわ」


 深川さんはスマートフォンを取り出して電話をする。

 

 ——— 車が到着して皆乗り込み、車が走り出す。

 車内でも昔話花が咲き、そして目的地に到着した。ここには駐車場がある。なので車はそのまま待機だ。

 着いた食堂は老舗迄は行かないが、それなりに年期を感じる程の味ある雰囲気だ。


 ——— “ガラガラガラガラ„


「らっしゃい! おう!お前らか」


 厨房から頑固そうオヤジさんが顔を出した。こういう店だと頑固オヤジでもそうでなくてもアリなので問題ない。


「チワッス。六人なんすけど……大丈夫っすね?」

「おう、適当に座れや。」


 ブッチは慣れた感じでオヤジさんと話す。

 店の中は外観のイメージを損なわないそのままの味が出ていた。

 壁にはメニューが貼られているが、日に焼けて色が変色している。こういう食堂ならではの美味さを引き立てるこれも一つの演出だ。

 今日は社会人からすれば平日である。

 なので、お昼も過ぎていたのでお客さんも二組しかいなかった。

 俺達は六人が一つのテーブルに座れる座敷に上がった。

 するとブッチの隣に真名さんが座った。男女別に座ればスッキリしたのに座る配置が変になった。

 俺の正面に翠。俺の右には流星そして深川さんだ。

 

「いらっしゃい。はいお水。注文決まったら呼んでね」


 ニコニコしたおばちゃんがお水を持ってきてくれた。

 

「今日のランチは……唐揚げか」

「俺はランチで」

「私も」

「俺達も」


 ——— 注文して暫くすると本日のランチ「唐揚げ定食」が来た。


「盛りすげー!」

「今日はなんかいつにも増して多いな。おばちゃん、ちょっと多くない?」

「時間も過ぎたし、ちょっと残ったからサービス」

「流星君半分食べて」

「おうよ」

「宗介、肉とっかえろ」


 翠は俺の唐揚げと翠の唐揚げをトレードし始めた。


「デカいの持ってくな!」

「へへへ。いいのいいの」

「よくない!」

「真壁君は意外と器が小さいな」


 そう言うブッチさんに目をやると……真名さんがブッチの隣に座った理由はこれか?

 俺はブッチと真名さんの光景に開いた口が塞がらなかった。

 ブッチは箸も茶碗も持たず、真名さんが終始『アーン』してるのだ。


「なぁ、この二人はいつもこうなのか?」


 俺は流星に尋ねる。


「あぁ、ブッチが断ると、真名さんの正拳突きがブッチの鳩尾に刺さる。ブッチは強制的に面倒見られなきゃならない」

「なんだその良いんだか悪いんだか分かんねぇ状況と条件は」


 ちょっと奈々菜と翔馬君を彷彿させつつ、一つ上のステージを見た気分だ。

 深川さんは量が多いと言って柳生に分けていた。

 翠は俺の肉を取ろうとしている。


「ちょっと待て!」

「チッ! 見つかったか」


 俺と翠のやり取りを真名さんは和かに見ている。そして思い出したかのように流星に聞く。


「そう言えばあの運転手って……ご家族の方じゃ無いんだ?」

「それ、俺も思ってた。なんか話し掛け方が家族のそれじゃないなって」


 ブッチと真名さんは、車内での深川さんの一声と、流星の道案内する時の運転手に対する言葉遣いに違和感を覚えてたようだ。


「あぁ、その辺は……突っ込まないでくれ、ちょっと説明できない」


 俺も流星と深川さんに目を向けると、


「隙あり!」


 翠はそう言って俺の皿に残る最後の唐揚げを素早く箸で掴み口に頬張った。


「あー! この! 返せ!」

「うん、やっぱ美味しいね」


 答えに困っていたところでの翠の奇行だ。多分、翠は狙ってやったんだと思いたい。

 深川さんも「言ってくれれば私のあげたのに」なんて言葉を掛けてホッとしているようだ。


 ——— 食事も終わり、食後の談話タイムだ。


「ところで流星君と真名さんってどういう関係なんですか?」


 深川さんは、流星と真名さんの慣れた感じの関係が気になったようだ。確かに女を毛嫌いする流星が友人の彼女だからって此処まで親しいのもちょっと違和感を覚える。

 真名さんは素直に答える。


「幼馴染だね」

「幼馴染だな」


 ちょっと意外な答えが返ってきた。


「二人はお付き合いとか……」

「無い無い」

「ねぇな」


 サラッと即答だ。


「私からしたら弟だよ」

「俺からしたら口うるせぇ姉ちゃんだ。そもそも中学上がるまで普通に『姉ちゃん』って呼んでたんだ。今じゃ『桜』なんて名前で呼んでるが正直そっちの方が抵抗あったりする」

「そうか、だからお前、年下の子には優しいのか」

「多分そうなんだと思う。俺はあんまり自覚してないがな」


 ——— 俺達六人は店を出た。


「今日はもうあっちに帰るのか?」

「ああ、一応レギュラーだ。理由はどうあれ三日も休めねぇよ」

「それじゃあ次はウィンターカップだな」

「そうだな。ウィンターカップで会おう」

「その時は真壁君も入部してる事を期待するよ」

「ああ、善処だけはすると言っとく。期待はしないでくれ」


 そう言ってブッチは俺と流星と固く握手をした。


「芹葉ちゃんに翠ちゃんじゃあね。今度はこっちから遊びに行くよ」

「是非遊びに来て下さい。待ってます」


 俺達は車に乗り込み、荷物を取りに別荘に向かい、シャワーを浴びてから駅へ向かった。


 

 ※  ※  ※



「ふぅ……疲れたね」


 ——— 俺達はマンションに着き、俺の部屋でまったりしていた。時間もかなり遅い時間だ。


「楽しかったな」

「そうだね。何と無く柳生君のルーツが見えたね」

「まさか幼馴染がいたとは思わなかった」

「だね」


 俺達はこの二日間を振り返り話が盛り上がったが、別荘での露天風呂の話では昨夜のことを思い出した。

 俺達は気不味くなりつつも何と無く雰囲気が出来上がって、この日の夜もちょっとお触りして寝た。

 勿論、別々にだ。

 ただ、目覚めた翌日は俺達の誕生日だ。

 日中は誰もいない。なので続きを……そして最後までやった。


 ——— 俺は遂にDTを卒業した。世界が開けた。



 ※  ※  ※



 ——— ヤバかった……初めてやるサイズじゃ無いって! デカ過ぎ! 死ぬかと思った!

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