第152話 いざ!野々白へ!⑤
意味不明な掛け声の挨拶が済み、俺と翠、そして深川さんは皆に紹介される。
俺達に惚けた云々はもう割愛だ。
当然、顧問の先生にも挨拶はした。当時の『自分達の優勝の不服』を語られつつも歓迎された。
——— 高校生組はウォーミングアップを始める。
俺と翠、そして深川さんはちょっと遠慮気味にコートの端で軽く動く。
「やっぱ遠慮しちゃうよね」
「ははは、予想はしてたけどな」
「さっきからブッチ何やってんだろ?」
「あれは……正拳突き?」
ブッチと真名さんに目を向けると、
「「セイヤッ!」」
「「セイヤッ!」」
「「セイヤッ!」」
「「セイヤッ!」」
二人は並んで正拳突きをしている。気付けば真名さんも着替えていた。
「何やってんだ?」
「どう見ても正拳突きってやつだね」
流星が近くに寄って来た。彼らがやってる事をちょっと聞いてみる。
「な、あれ何やってんだ?」
「俺も教えて欲しい」
※ ※ ※
ウォーミングアップも終わり、後輩達の前に高校生が集合した。
当時のキャプテンだった男が仕切る。流星はキャプテンでは無かったようだ。
「それじゃあ、当時レギュラーだった奴らと今の現役でゲームだな」
その言葉に流星から「待った」が入る。
「そも前に、俺らのポジション教えとかないと参考にもなんねぇぞ」
「だな」
一人一人、ポジションの自己紹介をする。因みにポジションとビブスの番号はリンクさせている。
「——— 柳生流星だ。ポジションはポイントガードだ。今はパワーフォワードについてるから、そっちもある程度参考になると思う」
「ブッチでーす。ポジションはシューティングガードでーす。俺はの動きは参考にすると自分のスタイル崩れるからあんまり見ないでね」
俺は黙って自己紹介を見ていたが、流星が俺にも自己紹介しろと背中を押した。
「あー……君達の先輩じゃ無いけど、真壁宗介です。一応、スモールフォワードです」
「三年から聞いた事あると思うが、あの『不服の優勝』の時の決勝戦の相手な。あん時の大会の得点王だ。ハッキリ言って、早すぎて見えねぇから……ブッチと同じで参考にしちゃダメな奴だ」
——— 自己紹介も終わって、ゲーム開始だ。
時間は中学生に合わせて8分×4だ。
インターバルは2分。ハーフは10分入れる。
ただ、明らかに体格差がある。
中学生は一番大き子で175㎝位だ。
OBチームは流星が190㎝で、センターが185㎝だ。これはかなりのハンデだが、実践形式で教えるというだけだから特に問題では無い。
俺は勿論だが、プレーが参考にならないブッチもベンチで待機だ。
そしてゲーム開始前、OBチームは集まって何やら話し合ってる。さて、どんな試合をするつもりなんだろうか?
——— 試合開始だ!
ティップオフは敢えて中学生に取らせたようだ。
「さぁ、まずは攻めてきな」
OBチームは1-2-2のゾーンディフェンスで守備を固めている。
中学生チームはパスを回してゾーンを崩そうとしているが攻めあぐねている。
一人がジャンプシュートを放ったが流星に叩き落とされた。
「不正解!」
流星は大きめな声でそのプレーを評価する。
ボールはまだ中学生が持っている。と言うより持たせたようだ。
再び中学生がボールを回し、今度は低い姿勢でドリブルで切り込んだ。
「正解!」
抜かれたOBはそのプレーを評価する。
そして中学生は綺麗なレイアップを決めた。
——— 今度はOBチームの攻めだ。ボールは流星ががゆっくり運ぶ。
中学生も1-2-2のゾーンで守るようだ。
「4番、3番宜しく!」
流星はそう言うと、ビブス番号4番のパワーフォワードと3番のスモールフォワードはゾーンの中に入ろうとしたり、出たり色々動き始めた。
流星もパスを回して相手を翻弄する。
すると7番の動きに二人が付いてきた。
「6番!」
流星が叫ぶと6番へパスが通り、フリーの状態でフリースローのようにシュートを決めた。
中学生は唖然としている。
「ボールを持ってる奴がゾーンを崩すんじゃなくて、持ってない奴が崩す。これ一つポイントな」
こんな感じに指導しながらゲームは進んでいった。
「よっし、第4クォーターだ。ちょっと全力出させてもらうよ」
俺とブッチが交代で入った。
「宗介はストリートと同じ感じでいい。ブッチは勝手にやってくれ」
「分かった。真壁君、合わせられたら合わせて」
「ん? 何をだ?」
「呼吸」
「…………分かった」
実際、分かっていない。
ゲームが始まり、さっきとは打って変わってパス回しが少し激しくなった。
※ ※ ※
視点は私、翠にチェンジだ。
——— 第4クォーター開始早々、ボールはブッチが持っている。
ブッチはその場でドリブルをしているが……
“——— ダンダムダダンダムダムダンダム…”
力強くボールを突いているがリズムが気持ち悪い。
マークしている中学生も取りあぐねている。
そして、突然、中学生があらぬ方向に飛んだ。
——— パスカット?
直後、ブッチは元々自分が向いている方向に素直にパスを出した。
——— 何だろ?
ボールは宗介に回された。
中学生チームは1-2-2のゾーンで守備を固めている。
宗介は一人と向き合い偶にフロントスイッチを入れ牽制しつつ、レッグスルーを入れた瞬間クロスオーバーでドライブだ!
「おおおおおおぉぉぉぉぉ!」
「はえぇぇぇ!」
「何した? 今、何やったんだ?」
中に切れ込むとそのままジャンプしてダンクを決めた。
「ダンクだ! マジでスゲェ!」
「先輩達、この人に勝ったんだろ?」
「『不服の優勝』の意味が分かったよ」
——— ボールは再びブッチが持つ。
ブッチは両手でボールを持って相手と面と向かって立っている。パスを出そうとしているが、すると中学生は、あらぬ方に足を踏み出しパスカットをしようとするが、ブッチは普通に自分が向いている方にパスを出す。
「あれ、さっきもあんな感じになりましたけど……」
「あれは樹の武器の一つだね」
真名さんが隣で教えてくれた。
「武器?」
「そう。フェイクだよ」
「フェイクですか? そんな素振りすら見えませんけど……」
「対峙すると分かるけど、何故か体が反応しちゃうんだよ」
向かい合ってて何かしている訳でも無い。なのに相手は一歩隣に踏み込んでパスカットの動きをする。
側から見てると不思議な光景だ。
今度はディフェンスで中学生と対峙している。
——— “バチン!„
ブッチは相手がパスを出そうとした瞬間、ボールを叩き落とした。
さっきもあったがそんなシーンが何回かあった。
「なんか、ブッチってスティール上手いですね」
「あれもフェイク入れてんだよ」
「フェイクですか? ディフェンスで?」
「そう。相手のフェイクに乗ったように見せかけて、本命の動きに合わせるっていう……ボクシングのカウンターみたいな感じ?」
「なるほど……」
ブッチのプレーは不思議な魅力がある。でも、宗介のような派手さは無い。
ゲームが始まる前、真名さんは私達に「樹に見入っちゃダメだよ」なんて言ってたけど、ホントに見入ってしまう。
そんなプレーに見入ってると、体育館が湧く出来事が起きた。
「宗介!」
柳生君が叫んで適当にリング近くにボールを投げると、宗介が走り込み、空中でボールを掴んで…
——— “ガッゴンッ!”
アーリーウープだ! 体育館が一瞬静かになった。
「おいおいおいおいおい」
「さっきのドライブもダンクも凄かったが、高校生がアリーなんて反則だろ!」
「マジか! 凄すぎだぞおい!」
中学生は何が起きたかわかっていないようだ。
「あんたの彼氏って……容姿も去る事ながら色々反則だね」
「——— 私もそう思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます