第151話 いざ!野々白へ!④

 ——— 野々白中学校の校門の前に着き、俺たち四人は車から降りた。

 すると目の前に何と無く見覚えがあるような顔が数人と、全く見覚えの無い顔が数人、全部で十人程が集まっていた。

 見覚えのあるのは決勝で戦った時に一緒にコートに立った連中だ。何と無くだが見覚えがある気がする。

 当然、そこにはあの2番もいた。コイツは完全に覚えてる。

 見覚えの無いのもいるが、まぁ、記憶なんてそんなもんだ。

 女の子も三人程いるが……マネージャーか? 一人は2番にしがみ付くように抱きついている。

 深川さんが言ってた彼女さんか。

 身長150㎝有るんだろうか? 可愛らしい『読書が趣味です』って感じのメガネっ子だ。滅茶苦茶可愛い。


「久しぶりだな」

「なんだ? 車で来るって……あれ? 車行っちまったぞ?」

「あぁ、後で迎えに来る」

「随分と面倒見のいい親だな。てか、今M県に住んでんだろ? 車で来たのか?」

「いや……まぁ、説明すると長くなる。それより殆ど揃ったな」

「あぁ、で、後ろの女の子とそっちのカップルは?」

「うん? フッフッフッ、聞いて驚け見て驚け。コイツは俺が召喚した秘密兵器! あの清麗中宗介の母校の……7番だ」

清麗せいれいって……あの決勝の超絶イケメンか⁉︎」


 流星の紹介に俺は帽子を取った。すると、その場にいた全員が見惚れ惚ける。いつもの事だ。


「ドモ……流星に誘われて来ちゃいました。真壁宗介です。今日はお邪魔します」


 俺は皆の様子はお構いなしに淡々と自己紹介をする。


「おーい、皆、戻ってこーい」

「お? ……おぉ……あの試合の時もそうだったけど……相変わらずイケメンぷりは健在だな……」

「お前の彼女大丈夫か? こっちに戻って来ないぞ」


 三人いる女の子の内、一人が戻って来ない。

 その彼氏らしき男が彼女の意識を呼び戻した。


「おい!」

「え? あ、ごめんなさい……あんまり綺麗……綺麗? しっかり見惚れちゃった。ゴメン……」


 そして流星は深川さんを紹介する。


「で、コイツが俺の彼女だ」

「深川芹葉です。お邪魔します。ブッチに真名さんお久しぶりです」

「久しぶり」

「……お前……なんて綺麗な子彼女にしたんだ? モデルか? てか、ブッチの事知ってんのか?」

「普通に女子高生だよ。この前の全国で俺らの学校、男女で全国出てな。ブッチの高校も出たしそん時顔合わせた」

「ついに柳生君にも彼女できたんだー。へぇー。あんなに言い寄って来た子、片っ端から振って……ていうか毛嫌いしてたのに」

「まぁ、あいつら皆、鬱陶しかったからな。纏わりつく奴は元から願い下げだ」

「今日は練習に参加させて頂きます」

「こちらこそ宜しく。って事はそっちの子も?」

「あぁ、コイツもケイジャーって言うか、まぁ、ストバスストリートバスケの姫だな」


 翠は帽子を取ると、再び皆、見惚れ惚ける。


「姫って何? えーっと……誘われて来ちゃいました桜木翠と申します。今日は宜しくお願いします」


 皆、翠の話聞こえてるかは分からないが、取り敢えず自己紹介は終わった。

 意識も戻って、


コイツら流星の仲間達の紹介はいらねぇだろ? 今ここでしたところで全員の名前なんて覚えらんねぇしな」

「まぁ……だな」


 流星は相変わらず説明を端折るのが得意だ。

 その隣で、女達五人は互いに自己紹介し合っている。

 ただ、流星は俺が気にしていた「6番」だけは紹介してくれた。


「流)コイツがお前が気にしてた6番の『ブッチ』事、『和渕樹わぶちいつき』だ。『ブッチ』と呼ばないと返事しないから宜しく」

「ブ)ブッチです。敬称も要らない。宜しく」

「宗)真壁です。なんか会えてすげぇ嬉しいよ」

「ブ)ハハ、光栄だね。しかしなんでまた清麗の7番と?」

「流)実は高校同じなんだよ」

「ブ)マジか! 清麗って全然違う県だよな? なんでまた」

「流)偶々だ。ホントに偶然だ」

「ブ)他の県の高校になんの関係も無く入学して顔合わせるって……運命だな」

「流)まぁ、普通に考えればそうなんだけどよ、ただ、コイツ、今、バスケ部入ってないんだ」

「ブ)あら? なんで?」

「宗)一言で言うなら『目立ちたく無い』だな」

「ブ)あはは……そりゃ無理だろ」

「流)今は髪上げてっけど、普段はボサボサで根暗な陰キャで通してる。素顔知ってるのもごく僅かだ」

「ブ)まぁ……あの大会での女どものテンション考えたら……そうなるわな」

「流)普段は俺と公園でストバスやってたりするから動きは前よりパワーアップしてるぞ」 

「宗)正直、今日はブッチに会いに来たと言っても過言じゃ無い。色々勉強させて貰うよ」


 すると、さっきブッチにくっついていた女の子が再びブッチの元へ帰って来た。勿論、再びくっ付いている。


「流)そして、くっ付いてるのが、一つ上の先輩、『真名桜まなさくら』だ」

「桜)真名桜です。宜しく。まさかあの決勝で見たイケメン君を流星が連れて来るなんて思わなかったよ」

「宗)あの決勝来てたんですか?」

「桜)コイツブッチコイツ流星が出るってなれば行かなきゃさ」

「流)見ての通り彼女がベタ惚れだ。ブッチが二年の時付き合い始めたんだが、当時は『奇跡のカップル』と言われてたからな」

「桜)ったく奇跡なんて失礼だよね。コイツの良さ分かれば皆ベタ惚れだよ? ま、私がヤキモチ妬くからその良さは誰にも教えないんだけどね」

「ブ)桜はそう言うんだけど、俺にもその良さ教えてくんないんだよ」

「桜)フフッ、私だけが知ってればいいんだよ」



 ※  ※  ※



 時間になり、皆で一斉の体育館に移動する。

 一応、二人ほど職員室に挨拶に行ったようだ。卒業生とは言え、今は部外者だ。今の学年だと一、二年生からすれば知らない高校生だな。

 俺達は校舎の外から体育館に回った。

 何人かの在校生とすれ違うが、流星は男女問わず声をかけられていた。


「ウソ! 柳生先輩?」

「うぉ! 柳生先輩だ! カッケー!」

「マジ? ホントだぁ♪ でも遠くに引っ越そたって……」

「柳生先輩チーッス!」

「キャー♪ センパーイ」


 騒いでるのは多分三年生だろう。俺らが三年の時の一年生だ。

 流星は後輩の女の子からはアイドル的な存在だったようだ。男からすると兄貴っぽい感じか?

 流星も女に対して「うぜぇ」なんてセリフを吐くが、それは同い年以上の女に対してだ。実際、奈々菜と藍ちゃん、それに彼氏ーズには優しく、学校の中等部の子には、接する機会があると凄く優しく接している。

 そして流星は、声を掛けて来た後輩に手を上げて応えていた。


「流星君って年下の子には優しいよね」

「あん? そうか? まぁ、やっぱ慕ってくる奴は可愛いだろ」

「そうだけどさ……ふふふ」


 深川さんはそんな流星を見てニコニコしている。

 彼女もまた、そんな流星が好きなようだ。

 体育館に近付いたのか、キュッキュッと、シューズが床に擦れる音と、ダムダミとボールが床に突く音が聞こえて来た。

 なんともウズウズする音だ。


 高校生が体育館の外の出入り口からゾロゾロと入る。

 俺たち部外者はワンテンポ遅れて中に入る。

 体育館はコートが二面あって、男女別々に練習しているようだ。

 すると、体育館内を走り回ってたバスケ部部員も俺達に気付いて動きを止め、皆こっちを見る。すると、


「先輩! お久しぶりです!」

「キヤー♪ 柳生せんぱーい♡」


 その声に、一部の部員が駆け寄り、集まって来た。

 見た感じ三年生だな。

 深川さんはちょっとヤキモチ妬いてる感じだ。


「流星君モテるねー」

「まぁ……だな」


 一、二年生らしき子達は皆「誰?」って感じでこっちの様子を伺っている。

 俺達が靴を履き替え、体育館に入ると、キャプテンらしき部員が声を張り上げた。


「集合!」


 するとバスケ部部員は男女共に三列に綺麗に並んだ。流星達も一列に並ぶ。

 俺と翠、そして深川さんと真名さんは、列の端、一歩下がった所になんとなく立った。もう一人の女の子は列に一緒に並んでいる。どうやら彼女はマネージャーだったようだ。すると、


「「「「「ヨーロリッター!」」」」」

「「「「「ヨーロリッター!」」」」」

「「「「「宜しくお願いします」」」」」


 男子はよく聞き取れない意味不明な言葉を発して礼をした。流星他高校生一同、同じ言葉でご返杯だ。

 どうやら、運動部特有のよくある意味不明な掛け声のような挨拶のようだ。

 女子は普通に挨拶だ。

 俺と翠、そして深川さんはその様子に呆気に取られていた。

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