第140話 祝賀会④

 ——— リビングでまったり中だ。宗介は出されたスイーツを十二分に味わって食べてる。顔がやばい程溶けている。いや、とろけている。

 私の皿のスイーツは宗介の物と違う。私はフォークに刺して宗介に差し出す。


「宗介これ食べる?」

「お? 一口……うんっま!」


 勿論、タダではない。私は宗介の皿から一口分の大きさ取って口にする。


「うん♪ 美味しい♡」

「だろ?」


 奈々菜ちゃんも宗介に自分のを差し出した。


「お兄ちゃんこれ」

「さんきゅ……はうぅぅ!」


 来羅がその様子を見て、呆然としていた。何かいいたそうだけど言葉が呆れて言葉が出ないようだ。


「なぁ、夏休みは何するんだ?」


 宗介の状態はお構いなしに流星君が夏休みの予定を聞いて来た。

 宗介も流星君に話し掛けられ我に返る。


「お? おぉ、あーっとだな、俺と翠はバイトだな」

「バイト? お前らが?」

「なんか変か?」

「いや、今迄人前に出る事嫌がってたのによくそんな発想が出たなってな」

「ん? 去年もバイトやったんだぞ?」

「ハァ? 何処で?」

「ほれ、駅前のアイビー」

「マジか! 今回もそこでやんのか?」

「いや、今回は『ケ・ベッロ』だな。いつでも歓迎って言われてる」

「ケ・ベッロってあのモデルやった店か?」

「そう」

「あれは、芹葉と見に行ったけど『スゲェ』も言えねぇくらい圧倒される姿だったな……」

「パネル、スマホで撮ったけど、スマホじゃ迫力が全然出ないね」

「翠、今日も殆どメイクしてなかったんでしょ?」

「うん」

「メイクしたパーフェクト翠は綺麗だったな……」

「何? 来羅、翠のメイクバージョン、生で見たの?」

「ふっふっふっ……見た! 写真にも収めた」

「ウッソー、羨ましいな」

「あれは異次元の生物だったよ。人類じゃあり得ない美しさだったね」

「えへへ、ありがと。あとでほっぺにチューしてあげるね」

「ふふ。よろしく」


 今年の夏はケ・ベッロでバイトの予定だけど、まだ、店長には話していなかったりする。


「店長のとこ行かなきゃだね」

「そうだな。近々行ってくるか」


 後日、顔を出したら二つ返事でOKを貰った。

 当然、今回の報酬は現金だ。流石にお小遣いが欲しい。



 ※  ※  ※



 俺らの予定はそんなもんだ。あと、お盆に爺ちゃんちに行くくらいだな。

 今年は、翔馬君と廉斗君を連れて行けるかどうかってところか? それとテニスの県大会で優勝すれば全国大会も控えるから、妹達の予定はちょっと厳しい感じだ。

 すると流星が俺にお願いをしてきた。予定を聞いた目的はこれだったようだ。


「でだ、本題なんだが、八月最初の月曜日、予定空けられるか? 出来れば二日程くれれば嬉しいんだが……」

「今からだったら全然大丈夫だと思うけど。どうかしたか?」

「『野々白中』行かない?」

「野々白って……お前の母校?」

「そう」

「何しに?」

「バスケ教えに」

「何で?」

「先生に呼ばれた。喝入れてくれって」

「喝? 何でまた」

「去年の全国は準決で終わってたらしくて、今年も出場決まったから今年こそは! だそうだ」

「別にいいぞ」

「自分とこの母校はどうなんだ?」

「俺の母校なんて先生もそんな入れ込みじゃないからな。去年も成績どうだったんだか……」


 ——— 正直、前の学校の事は思い出したくない。仮に学校から何かお願いされても行く事は無い。


「そうか、桜木も行くよな? 勿論、芹葉も行く」

「野々白って何処?」

「T県。泊まりな」

「泊まりって何処に?」

「俺んち」

「俺んちって……親いるだろ? いいのか?」

「両親は……居ない。海外赴任な。なもんで、今、空き家なんだよ。偶に様子見に行く必要あるからこれを機に行っちゃえってな」

「なる程。ただ、電気とかガスとか通ってんのか?」

「あ! そうだよ……全部止めてるわ……どうしよ?」

「んじゃ、私んトコに来る?」


 深川さんが身を乗り出す。


「私んトコって何処?」

「別荘。ちょっと離れてるけど、別荘あるんだ。しかも海が見えるよ」


 という事で、深川さんの別荘に泊まることに決まった。

 今回は、奈々菜達は留守番だ。

 妹達は平日で部活がある。奈々菜達が来れば当然、彼氏ーズも付いて来る訳で、四人で部活を休めば怪しまれる事間違い無しだ。

 全国大会を控えての『合宿』という大義名分を立ててみたが、場所やら泊まりやら、色々と怪しさが濃くなる。


 ——— 話は昼休みに戻り、


「あの6番は来るのか?」

「来るぞ」

「マジか! アイツとも一緒にプレーしてみたかったんだよ」

「まぁ、実際練習一緒にやると……当日のお楽しみだな」

「なんだ勿体ぶるな」

「お前が天才なら、あいつは奇才って奴だ」

「奇才?」

「そう。あいつの武器は『技』ってよりは『発想力』だ。自分が出来る事とその使い所と組み合わせを工夫してプレーする。概念を壊すって感じな」


 話を聞いただけじゃよく分からないな。


「例えばリバウンド。結構手こずったろ?」

「あぁ、明らかに俺の方がデカいのにな」

「アイツのジャンプ力はチームで一番無い。あの体型だ、60センチも飛べたのか?」


 確かに若干ポッチャリしてた。ただ……。


「…………気持ちよく飛べな無かった記憶があるな……何本かは取られたな」

「実は俺でもアイツがマークに付くとアイツ自身に負けはしないが他の奴にリバウンドを持ってかれる。アイツは人を気持ち良く飛ばせないのが上手いんだ」

「確かに気持ちよく無かった」

「理屈を知ると成る程って思うぞ。ただ実践するのは難し過ぎて俺には無理だった」

「伝授して貰おっと」


 ——— その他にもプールや夏祭りにも行こうと言う話が出た。


 そして、流星の秘密が明らかになる時が来た。

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