第139話 祝賀会③

 ——— ダイニングルーム入ると、部屋の中央に大きなテーブルがあり、その上には選り取り見取りな高級料理とも言えるような料理が置かれている。

 壁や部屋の片隅には絵や花が飾られ、ちょっとした高級レストラン……というよりは披露宴会場のような雰囲気を醸し出していた。

 椅子は置かれておらず、ビュッフェ形式で行うようだ。

 宗介さんが「他所行きの服を準備してくれ」と言った意味が少し分かった気がした。普段着だとちょっと場の空気を壊すところだ。


「なんか凄い料理ですね。もしかして……専属シェフがいるとか?」


 ちょっと冗談ぽく言ってみたんだが、芹葉さんは「うん」と軽く答えた。軽く驚いたが、まぁ、今迄の状況を考えればだ。

 ただ、次に言葉に俺は……俺達中学生は言葉を失った。


「でも今日はね、全部流星君が作ったんだよ」


 ——— はぁ⁈


 当然、俺達四人は驚くが、宗介さんと江藤さんも軽く驚いている。


「おいおいおいおい、料理が得意だってのは分かってたけど、まさかこれ程とは思わなかったぞ……」

「ちょっとビックリ。どっかのレストランのシェフになれるんじゃ無い?」

「えへへ、実はうちの料理長から誘いの声……っていうか、厨房任せてもいいって言われてるの」


 翠さんも絶賛している。


「柳生君の料理、手伝ったけど、ホント手際もいいし、周りのシェフへの指示も的確で、私もちょっと料理の腕上がっちゃたかも」


 すると、一人のシェフが最後の料理をワゴンに乗せて持って来た。


「いやー、毎度毎度柳生様には脱帽しますよ。私達も其々に料理の得意分野があるんですけど、柳生様は全ジャンル、卒無く作れて凄いですね。レストランの厨房任一つも任されたら我々も商売上がったりです」


 そう言って、シェフはテーブルにピザを三枚置いて去って行った。


「じゃあ、全部揃ったし頂きましょう」

「乾杯の前に柳生君一言言って」


 すると流星君はウェイターが持つプレートに置かれたグラスを一つ手に取った。

 すると芹葉さんもウェイターの持つプレートからグラスを取ると、さり気無く流星君の隣に行き、一歩下がったところに並んで立った。

 その所作は凄く場慣れしていて、自分達と住む世界の違いを見せつけられてる感じがした。

 流星君は皆がグラスを手にしたのを確認する。

 

「えー、この度は私が発足した『柳生流星の成績向上プロジェクト』が成功に終わり、そして、来週行われるバスケのインターハイ、そして、中総体ソフトテニスの活躍と健闘を祈念しまして、誠悦ながら私、柳生流星が乾杯の音頭を取らせていただきます。では、ご唱和願います。カンパーイ!」

「「「カンパーイ♪」」」


 グラスを合わせようとしたが、流星君と芹葉さんは、グラスを目線より少し高いところに掲げると、次に一人一人を見てはグラスを掲げ、隣にいる流星君ともグラスを合わせる事なく一口飲んだ。

 俺達もそれに倣って真似をする。ただ動きはぎこちない。

 後で知ったが、グラスを合わせるのはマナーとしては宜しくないそうだ。

 そもそも、こういうところのグラスは安い物ではない。


 気付けば、俺の隣では早速、奈々菜は料理を口にしていた。


「おいひー! ほれふっへみ?」


 口に物を入れたまま喋るなんて、らしくないなと思いながらも、ちょっと可愛いななんて思ったりもする訳で、奈々菜は皿に盛られた料理をフォークに刺して俺に差し出す。

 俺は抵抗無く “パクッ„ と食べる。


「——— 美味い!」


 その美味さに、俺は奈々菜と目を合わせる。奈々菜の目は「美味しいでしょ? 美味しいいよね!」と表情で語る。目がキラキラだ。

 改めてテーブルの上を見ると何品置いてる数えるのが面倒な程、料理が置かれていた。


「これ本当に流星君が作ったんですか?」

「あぁ、実際には指示を出して作って貰ってるのもあるけど、そういうのも俺が作ったって事になる」

「しかもジャンルバラバラですね」

「まぁ、フレンチみたいなコース料理じゃ畏まっちまうだろ? 着席で食っても会話がこう……クロストークっていうのか? 遠い奴と話し出来ねえだろ? だったらブッフェで立席ってのがベストだろうなってな」

「なる程……」


 俺は目の前にあったピザを手に取り一口食べた。


「うんま!」

「どれどれ?」


 奈々菜は俺が一口齧ったピザを俺の手を掴んでグイっと自分の元に寄せ、そのまま “あむっ„ と食べた。


「う〜ん……美味しいぃ♪」


 奈々菜は目を細めて女の子がよくする「美味しいー」って表情をする。可愛い♡

 その隣で来羅さんが俺達のやり取りをマジマジ見ていた。


「しかしアンタらホントに付き合ってんだね」

「いやだから……」


 俺が否定しようとすると、来羅さんは人差し指をたて、自分の口にあてた。


「此処では否定しない。でもイチャ付き方がナチュラルで嫌味が無くていいんじゃない?」


 なんか、所作が一々お姉さんだ。これ、年下に憧れられるタイプだ。 


「来羅さんって彼氏とかの噂聞きませんけど……」


 聞けば筋肉好きで、真壁さんと流星君の筋肉でも足りないらしい。


 筋肉量は『クラシックフィジーク』以上とか、宗介さん達は『スポーツモデル』の域にも達して無いとかよく分からない事を言ってるが。 

 ——— さっき風呂で体見た時、この二人やべーなって思ったけど、あれでダメなのか……ついでに、違うところもやばかったが……。



 ※  ※  ※



 翔馬は来羅ちゃんと仲良く話してるから私は流星君とお話しする事にした。流星君の隣には翠ちゃんが居て、お料理のお話をしているみたいだ。

 私も話に混ざったけど、聞いてて驚いた。

 このピザ生地、市販の物じゃなくて、一から十まで流星君の手作りだった。

 マヨネーズは勿論だけど、以前作ったカレーはルーから作ったって……私も食べたかった。


「流星君は何処に向かってるの?」

「ははは、趣味だよ趣味。分かるだろ? 飽くなき探究心が俺を此処まで育ててしまっただけだよ」

「いやいや、育ちすぎでしょ」

「今日は、限界の上に引き上げてくれたお礼だから、俺も限界を超える料理を作って見たわけだ」


 するとお兄ちゃんが横から話に入ってきた。


「あー、勘違いすんな。あれはお前が勝手に上に上がっただけだ。俺らが上げた訳じゃ無い」


 「んな訳ねぇだろ」って流星君は否定するけど、


「幾ら問題集作ってやったからって、やんなゃ成績上がるわけねぇだろ。お前の努力の結果だ。胸張れ」

「いやいや、一応、胸は張るけど、お前達が居なけりゃ……いや、出会わなければチームすら作れず俺は赤線に怯える学園生活を送り続ける将来だったんだよ。だから、お前達が取らせてくれたと言っても過言では無いと俺は思っている。これからもそう言い続ける。その為には、俺は頑張るしか無いわけだが……辛いな」

「ちょっとまって。それ言ったら、私達だって同じじゃ無い」

「だよね? 翠と芹葉に会わなければ私だって、万年二位に甘んじていただろうし」


 皆二人の話を聞いてたようだ。


「まず流星は、まだ八位だ。階段は七段残ってる。つー事で、次回は全員一位な。翠ももう、視線は気にすること無いし、次回は全員で満点取るぞ」

「うわぁ……プレッシャー」



 ※  ※  ※



 食事も終わって、再び風呂に入る人は入り、皆ラフな格好に着替えてリビングでスイーツを食べていた。

 ソファーは全員座れる長さがあったが、話が遠くなるので、ソファーを対面に移動させてテーブルを囲った。


 ——— 話題は夏休みの予定の話しになった。

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