第138話 祝賀会②

 ——— 江藤先輩が乗り込んでから一分も走ったろうか? 車の外はスモークが濃くてよく見えないが、門のようなところを通り過ぎた感じがした。


「着いたぞ」


 宗介さんの言葉をキッカケにしたかのように、車のスピードは落ちたような気がした。ただ、止まる気配は一向に無い。


「しかし『慣れ』って怖いわ」

「だな」

「ね、あんたら、先に言っとくけど、これから先、スケールが大き過ぎてビックリしまくるから覚悟しといて」

「……ビックリ? しまくるの?」


 奈々菜は首を傾げて宗介さんを見る。


「そうだな……どっかのリゾートにでもきた気分で楽しめばいいだろ?」

「いやいや、それでも豪華過ぎる旅行プランだよ」


 すると車はゆっくり停まった。

 宗介さんは「着いた」と言ってから一分は走っていた。

 しかし、スケール大きいとかリゾートやら豪華旅行プランって……例えが既に想像の範疇を超えてる。

 すると俺が乗り込んだドアと、宗介さんの隣のドアが同時に開いた。

 宗介さんは慣れた感じでサッと降りる。

 江藤先輩も慣れた感じで降りた。そして誰かに「ありがとう」とお礼を言ってる。

 そして藍ちゃんが降り、廉斗が降りて、奈々菜が降りた。皆、静かだ。

 最後に俺が降りると、真っ先に奈々菜達三人のお尻が目に飛び込んできた。

 皆、横一列に並んで何かを見ている。

 俺は体を起こすと同時に、三人の尻から目線を上に上げていく。するとどっかの結婚式場みたいなイベントホールとでも言うんだろうか? そんな建物が目の前に現れた。

 俺は何処に連れられてきたんだろう?

 すると開口一番、藍ちゃんが変な事を口走った。


「今からお姉ちゃん、宗介君と結婚式でもすんの?」

「あはははは ——— 結婚式かー、こんな建物見たらそうなるよね?」


 江藤先輩がお腹を抱えて笑ってる。

 宗介さんは建物の入り口の前に立ってニコニコしてる。

 すると大きな扉が重そうに開いた。そこから女性が顔出した。芹葉さんだ。


「いらっしゃーい。待ってたよー。まずは立ってないで入って入って」


 宗介さんと江藤先輩は慣れた感じで中に入って行く。

 俺達四人は一度皆で顔を見合わせ、俺を先頭に中に入った。


「先ずは風呂に入りたいだろ? 案内するから入って来いよ」



 ※  ※  ※



 今、俺と廉斗、そして宗介さんと流星君の四人は肩まで湯船に浸かっている。

 俺らが此処に至るまで色々驚きまくったが、その辺の描写は宗介さん達が初めて此処に来た時の再掲載になるらしいので割愛だ。


「車の中でビックリしまくるって言ってましたけど、マジでビックリしまくりですよ。スケールデカ過ぎです。社長令嬢って言っても限度がありますよ」 

「しかし、さっきからとんでもない経験ばっかりだね」

「だよな?」

「ははは、俺もだよ。翠も妹達だって同じだ。ま、二度とこんな経験無いか、これがキッカケでこっちの世界に入り込むか……人生分かんねぇからな」

「だな。斯くいう俺もそんな感じだ」

「そう言えばお前の素性も不明だよな?」

「あー、だったら今夜教えるか?」

「いいのか?」

「まぁ……お前らにデメリットがあるけど……お前らの歳じゃあんま関係ねぇか」



 ※  ※  ※



「裸でごめんね。改めて江藤来羅です」

「初めまして真壁奈々菜です。宜しくお願いします」

「桜木藍です」

「ね、芹葉の事はなんて呼んでんの?」

「芹葉ちゃんです」

「んじゃ私も来羅ちゃんで宜しく」

「はい。ところで来羅ちゃんって体鍛えてたりするんですか?」

「分かるぅ? これって『サマースタイルアワード』って言って ——— 」


 来羅ちゃんは両手でおっぱいを持ち上げて突き出す。体全体の形が綺麗だ。


「来羅、それ説明すると長くなるから後で」


 翠ちゃんがすかさず来羅ちゃんの話を止めた。


「私の前でおっぱいの話は厳禁ね!」


 芹葉ちゃんが怒ってる。確かに頑張って欲しいと思う感じだけど、私と藍も似たよう……勝ってるかも知れない。


「しかし芹葉ちゃんが社長令嬢だったなんて思わなかったよ」

「うちの学校にも何人か私と似た立場の人居るけど、その人達にバレると政治的な接触してくるし、私自身、最悪、誘拐されたりするから内緒にするしか無いんだよ」

「誘拐って物騒だね」

「結構洒落になんないよ。小学生の時一回されかけたし」


 私はクリスマスの時のことを思い出した。

 藍に目を向けると藍も顔が強張らせ、一点を見つめている。


「どうしたツインズ? 何? 誘拐でもされかけた?」


 私達は来羅ちゃんの言葉に何も返す事が出来なかった。顔は強張ったままだ。


「え? マジなの?」

「いい?」


 翠ちゃんが話していいかと聞いてる。

 私は無言で頷いた。


 ———


「——— そっか……彼氏君達……凄いな。ツインズの彼氏って言うからどんだけカッコいいんだって思ったら、滅茶苦茶カッコいいじゃん!」

「まぁ……助けてくれたのは……カッコ良さのオマケみたいなもんで、実際私が彼に感じるカッコよさは……「ストーップ!」


 来羅ちゃんは私の話を止めた。


「続きはパジャマパーティーで。此処で話したらネタが一つ無くなっちゃう」

「……ですね。ふふふ」



 ※  ※  ※



 風呂から上がり、俺と廉斗は着替えてリビングで寛いでいた。

 お互い、あまり見せないようなお洒落と言うよりかは、めかし込んだ装いをしている。


「ホント言葉失いっぱなしだよ」

「翔馬気付いてる?」

「何がだ?」

「普通の家にお風呂は二つも無い」

「……はっ! そうだよ! 何の違和感も無く普通に男女分かれて同時に風呂入ったけど、此処、ホテルでも旅館でも無いよ! 普通の家だよ!」

「しかも、浴槽に四人同時に入れる風呂って見た事ある?」

「……無い! しかも、あと四人は入れる余裕はあったよな?」

「僕の見立てでは同時に十人は行けたね」

「宗介さんが『リゾート』とか言ってた意味分かったよ」

「だね」


 暫くすると奈々菜達がリビングに入ってきた。

 今まで見せた事がない、ガーリー仕立ての可愛らしい様相だ。

 奈々菜はレトロスタイルで、藍ちゃんはフレンチスタイルだ。

 化粧もバッチリで髪も結って滅茶苦茶可愛い。


「えへへ、どう?」

「いや……此処に来てずっと言葉を失いっぱなしだったけど、更に言葉を失った感じだよ」

「早い話が?」

「可愛過ぎ」

「えへ♡ ビックリしたよ。お手伝いさん、私と藍にお化粧してくれるんだもん」

「此処までちゃんとお化粧したの初めてだよ」

「もう♡ あんまり見ないで、恥ずかしいよ♡」


 二人共ちょっと違う感じにメイクしていて、奈々菜は綺麗な感じ、藍ちゃんは可愛い感じだ。

 俺と廉斗は唯々魅入るだけだった。


 ——— 暫くリビングでまったりしていると、江藤先輩と宗介さんがリビングに入ってきた。


「江藤さんが改めてご挨拶したいってさ」

「江藤来羅です。呼び方は……芹葉と同じでいいわ。若しくはお姉様でお願いね」

 

 来羅さんはそう言ってウィンクする。ただ片目を瞑っただけなのに、なんかお姉様感が凄い溢れ出ている感じだ。初めて間近で見たけど本当に綺麗な人だ。

 俺と廉斗はソファーから立ち自己紹介した。


「成宮翔馬です」

「滝沢廉斗です。宜しくお願いします」

「しかし……奈々菜ちゃんと藍ちゃんの彼氏かぁ。皆、都市伝説みたいに話してたけど、まさかこうしてお目にかかるとは思わなかったよ」

「いや、廉斗はちゃんと藍ちゃんの彼氏ですけど俺はまだ……」

「え? 皆、彼氏って言ってるけど違うの?」

「はぁ……ちょっと思うところあって……」

「まぁ、君自身がそう思ってても周りは全然そうは思ってないみたいだし……それにその状態見せつけられて『彼氏じゃ無い』って言われても何の説得力も無いよ」


 奈々菜は俺の腕にしがみついて、ニコニコしている。可愛いが過ぎる。


「ま、奈々菜ちゃんを泣かせるような事しなきゃ何でもいいんじゃ無い? ね?」

「ふふふ、だぞ♡ 翔馬♡」


 

 ※  ※  ※



 食事の準備もできたようで、俺達は宗介さんと来羅さんの案内でダイニングルームへ移動した。

 そこには大きなテーブルと、選り取り見取りな料理が置かれていた。

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