第四章 柳生流星と深川芹葉

第137話 祝賀会①

「なあ、プロジェクトチームの皆が好成績を納めたんだ。皆で祝賀会開かねーか?」


 流星からの提案だ。

 確かにそうだ。流星の『プロジェクトチーム』の依頼が無ければ、流星は勿論だが、深川さんも江藤さんも恐らく好成績を残す事は出来なかったろう。ただ……。


「宗)今更か? 発表からもう二週間経ってるぞ」

「流)まぁ、そう言うな。インターハイも来週だし、壮行会兼ねてやろうや。皆どうよ?」

「翠)宗介がいいなら」

「来)オッケー」

「宗)まぁ、暇だしな」

「芹)ね、確かツインズも中総体県予選だったよね? バスケの壮行会兼ねるならツインズも呼ぼうよ」


 ——— 妹達の壮行会って事は……彼氏達も呼ぶ口実にもなるな。ま。妹達の呼んだ時点で、彼氏達も付いてくるんだろうけどな。

 しかし、『ツインズ』って呼び方……結構便利だな。


「宗)聞いてみるか……深川さん、そう言う理由で妹呼ぶなら彼氏も来ると思うけどいいのか? 家、知られるぞ?」

「芹)別にいいよ。来羅以外、皆、秘密の塊だもん」

「来)私だって秘密くらいあるわよ!」

「芹)『マッチョ好き』ってだけじゃん! 真壁君のメガネ好きと同じだよ」

「来)それ言われると単なる性癖隠しだわ」

「芹)彼氏君達だけど、私のこと誰かに話したら、色々繋がって自分達の素性知られる事になると思うから問題ないよ」

「宗)……確かに」


 ちょっと考えたら、翔馬君達が深川さんの素性を知ってる時点で不自然だ。誰かに話したくても話せない。連れてきても問題無さそうだ。

 家主の一言で奈々菜と藍ちゃん、それに彼氏達も招待する事になった。


「芹)それに壮行会だし」

「宗)おー、なるほどな」

「流)お? 可愛い妹達弟達が来るなら……久々にお兄さん、腕、振るちゃうよ♪」

「芹)やった♪ じゃあお泊まりの方がいいね」

「翠)意義なし!」


 ——— 流星が腕を振るうと言って深川さんが喜んだ。しかもその喜び方が今までと違う。

 料理を作るのは分かるんだが、『久々』ってのも気になる。確かに合宿中に食べたナポリタン一回目カレー二回目麻婆豆腐三回目は美味かった。

 深川さん様子を見るに、これはかなり期待しても良さそうな感じだ。

 ただ、一人ブーイングを出してる者がいる。

 

「来)えー! 芹葉んちなの?」

「芹)何? 嫌なの?」

「来)だって遠いんだもーん」

「芹)一番近いじゃん!」

「来)敷地はね、敷地は! 隣だしマップで見てもすんごい近いよ? 問題は道のりよ、道のり! 何で隣の家の入り口まで行くのに二十分も歩かなきゃ何ないの! 玄関までだったら三十分は掛かるよ? ふざけてるって」

「芹)あはは」

「翠)毎回ボヤいてたもんね」



 ※  ※  ※



 ——— リビングで、奈々菜と翠と藍ちゃんとで話し込んでた。


「なぁ、週末暇か?」

「どうしたの?」

「深川さんちに泊まりに行くんだけど……一緒に行くか? 勿論、藍ちゃんも」

「突然どうしたの? 勉強会は終わったよね?」

「流星がいい成績収めたし深川さんと江藤さんも満点取ったから祝賀会やるんだと」

「あれ? 翠ちゃんは?」

「えへへ……一問無回答で出しちゃった」

「ま、無回答の問題は聞けば滅茶苦茶簡単な問題だったから実質満点だな」

「凄いね。で、なんで私達もってなったの?」

「お前たち来週大会だろ? バスケも大会なんだよ。それで壮行会も兼ねてって口では言ってたけど、早い話が深川さんがお前らと一緒にお泊まりしたいんだってさ」

「えー♪ 嬉しい♪ 実はお兄ちゃん達泊まりに行ってた時、私達も一緒にお泊まりしたかったんだ♪ ね?」

「うん、やっぱ女子会とかパジャマパーティーとかやってみたいよ」


 『パイモミパーティー』の事は黙っていよう。翠も居るし、多分、妹達には手は出さんだろう。


「一応、翔馬君と廉斗君もいいって言ってるぞ? どうする? 悩みどころは江藤さんがいるってところだな」

「江藤先輩か……うん、いいよ。翠ちゃんと芹葉ちゃんのお友達だし、それに翠ちゃんの事ずっと黙って見てたんでしょ? だったら大丈夫でしょ」

「それじゃあ、皆に連絡宜しく」



 ※  ※  ※



 ——— 日付は変わり、今日は土曜日だ。

 午前中の部活も終わり、翔馬は奈々菜が降りる駅で一緒に降りた。

 周りに学園の生徒が何人か居る。

 俺も廉斗も帽子は被ってるし、奈々菜と藍ちゃんもキャップを深く被って顔が見えにくいようにしている。


「待ち合わせって、この駅なのか?」

「そう言ってたよ」


 暫くすると駅には俺ら以外誰も居なくなった。

 すると一台のリムジンがこっちに向かって走ってきた。


「リムジンだ……」

「なげーって」

「こんな車所有してる人いるんだ……」

「こんなトコで? まさかウチら迎えに来たとか?」


 藍ちゃんが冗談を言ったらそのリムジンが目の前に停まった。

 すると、運転手が車から降りたと思ったら、後ろの窓が空いて、男性が顔を出した。

 その男性は、えも言われぬイケメンで、言葉では言い表せ……って宗介さん!


「え? 何乗ってんですか?」

「お兄ちゃん何これ?」

「いいから黙って、こっち回って乗り込め」

「え? え?」

「えー?」


 皆、パニックになりながら車道側に回って、運転手が開けているドアから車に乗り込んだ。

 マジか! 何だこれ? 何でシートが横向き?

 兎に角俺達はシートの柔らかさやら肌触り、天井に足元とキョロキョロキョロキョロ車内を見渡していた。

 車はゆっくり走り出す。


「ははは、俺が最初に乗った時と同じ反応だな」


 宗介さんは一番後ろの座席に足を組んで座っていた。

 服も何となくビシッと決めた感じで、完全に『他所行きの服』って感じだ。

 そんな服を持ってくるように言われてたけど……俺ら今、ハーフなズボンにTシャツだよ?

 こんな車に似つかわしい装いだよ? 大丈夫かな?


「お兄ちゃんこれって……誰の?」

「深川さんだよ」

「ハイー⁈ 深川先輩って何者なんですか?」

「着いてからのお楽しみ」

「お姉ちゃんは?」

「先に行って色々仕込みしてるようだな」

「仕込みって……料理の?」

「おう、流星に頼まれた食材、午前中から深川さんの家で仕込んでた」

「え? 流星君に頼まれたって……え?」

「ま、着いてから色々驚いてくれ」


 二十分は走ったろうか? 車が止まり、運転手が降り、ドアが開くと一人の女性が乗り込んできた。


 ——— 『江藤来羅』先輩だ。

 江藤先輩も宗介さんと同じで、結構ビシッとっお洒落している。

 ホントこれから何が始まるんだ? って感じだ。


「毎回毎回、何でリムジンで来るかなぁ。普通の車あるんでしょ? ったく、金持ちのやる事は分かんないよ……こんにちわ」

「お疲れ。今日は家まで迎えに行ったから疲れて無いようだな」

「何で前回まで、態々わざわざ門まで歩いてきてたんだか……ったく自分の機転の効かなさにウンザリだよ」

「『家が隣』って先入観だな」


 江藤先輩は車に乗り込みながらボヤキが凄い。

 しかし、宗介君といい江藤先輩といい、この車に乗り慣れてる。

 江藤先輩は藍ちゃんの隣に座ると俺達に初めて目を向けた。


「あ、ツインズとその彼氏? 話には聞いてたけど、ホントに彼氏いたんだ。皆、初めましてだねって、ツインズの事は半端に知ってるからなんか変だね。江藤来羅です。宜しくね」

「え? あ、はい。えっと……」


 こういう時、率先して声を出すのは奈々菜だが、流石にいつもと環境が違い過ぎて頭が回らないようだ。

 俺は言葉を失っている。宗介さんもそれは分かってるようで、


「ははは、こんな車に初めて乗って緊張してるみたいだから、自己紹介は着いてからだな」

「いやいや、着いても家見たら声失うって」

「かもな」


 え? 今、ただでさえ声失ってんのに、家見たら更に失うの? どんな家なの?

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