第136話 素顔のままで⑤
——— 俺は素顔を曝け出し、銅像前で翠を待っていた。
すると徐々に、周りに女性の姿が増えてきた。学園の子も何人かいる。またメッセージで拡散されるな。
周りに集まった女達……一部男もいるが、コイツらは完全に俺が原因だ。
ヒソヒソ話しながら遠目に俺の様子を伺っている。正直ヒソヒソ話は不快でしか無い。ただ、俺を見る表情はみんな恍惚としていて、微笑んでいる子、はしゃいでいる子、笑顔な子。翠が望む、明るい表情でいる事は間違いない。
——— それだけならまだいいのか?
俺は下心剥き出しでこっちの都合も無視して接して来られるのが嫌なのだ。それが無ければまだ耐えられる。
翠のお陰か、最近、体の強張りを感じなくなった気がしていたが……翠が俺の隣に立てば、翠に怖気付いて誰も寄って来ない……なんかそんな気がしてきた。
耳を凝らすとシャッター音が聞こえる。
「こればっかりはちょっとな……」
すると、烏合の衆からギャルっぽい子が二人、俺の元に歩み寄ってきた。
この二人が俺に向ける視線は、俺が嫌悪してきた視線だ。下心しか無い。下心しか感じない、ある意味無機質な視線だ。
俺の元に来ると俺の都合を伺う事なく話しかけて来た。
「ねぇねぇ何してんの? ウチらこれからカラオケ行くんだけど一緒にどーぉ?」
——— おいおいちょっと待てよ「何してる?」って、どう見ても何かを待ってるようにしか見えないだろ? ニンゲン観察でもしてっと思ったのか?
「あぁ。ごめんなさい。今人待ってるんで」
「んじゃその人も一緒に誘おうよ」
——— ん? 何故男だと思った? なんか自分の都合に持ってくな……こういう女は無いな。
「いや、俺もそいつもカラオケ苦手なんで」
「じゃー、ゲーセンは?」
——— うん。初っ端の断り方を間違えた俺が悪かった。
最初から「彼女待ってます」でクリアしたんだ。
ごめんよ君達、余計な時間取らせちゃったよ。
「あぁ。待ってるの彼女なn「宗介お待たせー」
突然俺を呼ぶ声がした。
※ ※ ※
外に出ると、宗介が二人の女性と何やら話をしているようだが……ナンパだね。
周りにも多くの人が囲っていて、宗介を見ている。
こんな中でよくナンパするよ。
そして私は今からこの中を歩いて宗介の所に行かなくてはならない訳だけど、少し前の私であれば視線が集まるこの中を歩くなんて自殺行為でしかなかった。
でも今は楽しい。凄く楽しい。
私は宗介の元へ一歩踏み出す。
私の存在に気付いた人は、宗介から視線を外して私を見る。
私と目が合うと恍惚の表情になる。嬉しそうに「キャーキャー」騒ぎ始める子もいる。楽しそうだ。
一人の子が私に向かって手を振って来た。私はそれに応えて小さく手を振る。すると歓喜の声は大きくなり、皆、私を注視する。
皆、笑顔だ。勿論、その笑顔に呼応して私も笑顔になる。
私は宗介を見た。
宗介の髪型は後ろに纏めて前髪は片方だけヘアピンで留めている。私と似たような髪型だ。でも、髪の長さは宗介の方が長い。
綺麗な素顔を惜しげも無く曝け出し、何時もの休日スタイルで制服を着ている。
一度しか見た事がないその姿は、やはりまだ新鮮だ。
「宗介お待たせー」
女性二人は、宗介に話しかけていたようだけど……
私の宗介を取るような人には笑顔はあげない。
「おう、早かったな。」
「もう少しゆっくりしてた方が良かった? なーんか、お楽しみのようだったけど?」
私は彼の腕に自分の腕を絡めた。
私は自分の心に従い「これは私の物」と目の前の二人の女に目で牽制する。
「悪いけど、そう言う事だから。ごめんな」
宗介がそう言うと、私達はその場を後にした。
※ ※ ※
ウィッグを外し、髪をセットした翠は化粧こそしてないが、可愛らしさと美しさは、化粧を施している子すら太刀打ち出来ない。ん? ちょっとスカート短く無いか?
ギャル達は……と言うより、俺を見ていた周りの女達が、恍惚の表情で溜息を吐いている。
俺達の立ち姿に、この場にいる全員が見惚れてしまっているのだ。
「悪いけどそう言う事だから。ごめんな」
そう言って、俺達はこの場を後にした。
暫く歩いて振り返ると、皆まだ惚けて立っている。
翠は何処に向けてともなく手を振る。
周りの反応は昔はここまででは無かった。翠と二人だとこんな事になるのか……。
「すげーな」
「すげーね。フフ♪」
翠も驚いているようだ。
「なんか楽しいね」
和かに言う翠は、悪戯っ子な顔をしていた。正直、可愛かった。
※ ※ ※
翠と二人で素顔で街を歩いた。沢山の人にジロジロ見られた……こんなに見られるのは二年ぶりくらいか? ただ、陰キャスタイルでも反応していた女性に対する体の強張りは、今は全く感じない。以前は翠がいても反応していた事だった。しかし今は全く無い。
——— もしかして……翠のせい?
今日は甘味処の情報収集だけに終わらせ、一通り歩いて、駅に戻った。
一応、行きたいところは聞いてみる。
「どっか寄りたいところあるか?」
電車に乗る前に聞いてみた。
「うーん……宗介の部屋?」
「出歩いた意味について問う」
「うーん……見せびらかしたかった?」
「なんかそれも凄い理由だな」
「ははは、そだね。でもやっぱ宗介と歩くのは楽しいよ。うん」
そのまま電車に乗る。電車には学園の奴が何人か確認できた。そいつらはこっちを見てヒソヒソ話している。
翠は気にする事なく空いてる席に移動する。
シートに腰を掛けると、俺と翠のスマートフォンが一音鳴った。ポケットからスマートフォンを取り出して、画面を開く。
「早速拡散してんな」
「ちょっとこれ、もうちょっと可愛いの無かったの?」
「十分可愛く無いか?」
「そう?」
「いや、こう……盗撮って無防備な時撮られる訳じゃん。でもそれって一番自然体で、悔しいかな、自然な表情でいい写真なんだよな」
「…………確かに。そう考えるとなんか複雑だね」
着信音結構鳴る。深川さんと江藤さんが同時に送信してるようだ。同じ写真が次々舞い込んでくる。
「結構送られてくるな」
「これ、普通に私達のデートしてる写真だよ? こんなの撮って何楽しいんだろ?」
「俺達には記念になるからちょっと有難いかな?」
「そう? でもこんなに隠し撮りされて、隠れて鼻クソも
「トイレでやれよ」
外見はどうあれ発想は翠だ。発想が偶にバカなところがまた可愛いところである。
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