第135話 素顔のままで④
——— 今日は月曜日だ。
土曜日、部活が終わってから、私は流星君と二人でケ・ベッロに行ってきたけど……翠も宗介君も凄く綺麗だった。
スマートフォンで見せて貰った画像も綺麗だったけど、引き伸ばされた写真迫力はとんでもない破壊力だった。
——— 私はいつもどおり教室に入り、皆に挨拶をして机に向かう。
席について振り返り、ちょっと離れた席の読書中の翠に挨拶をする。これがいつものルーティーンだ。
「おはよう」
そして、小さい声で挨拶が返って……「おはよう!」
——— え?
元気な挨拶が返ってきた。いつもの翠じゃ無い。
私は思わず翠の元に行ってしまった。
「おはよう。どうしたの?」
普段元気な子が、元気が無ければ『どうしたの?』は正しい『どうしたの?』の使い方だ。
普段元気がない子が、元気があると、やっぱり『どうしたの?』って聞きたくなる。
普段、遅刻ギリギリにくる子が、朝一番に教室にいた時に『どうしたの?』って聞くのと同じだね。
よく見ると、翠のメガネは土日に掛けてるお洒落メガネだ。
私の問いに翠が答える。
「なんかね……治っちゃった」
「はい? 治ったって……」
思わず大声を上げてしまった。周りが一斉に私達を見る。
翠はそんな様子に動じる事もなく、ニコニコ私を見ている。
「うん、なんか治っちゃった」
「じゃあ……取っても大丈夫なの?」
「そう。ただ、色々思うところあって、暫くはこのままでいようって」
「来羅は? 来羅も知ってるの?」
「うん。治る瞬間見た」
「瞬間って……パネル?」
「そう」
「そっか……良かったよ」
「ただ、呼び方は……まだ気をつけよ」
「う、うん……分かった」
なんか狐につままれた感じになったが、昼休みまで、私は意識する事なく翠に話しかけた。
翠の受け答えがいつもと違ってて、偶に注目を浴びる時もあったが、翠は全然動じる事なく私と普通に、お昼休みと同じテンションで会話をした。
※ ※ ※
——— 昼休み。
「翠が人が変わった件について」
「何から話そ? まず、パネル。何あれ? 何もかもが凄かったよ。人集りは凄いし、綺麗で可愛くて……スマホの画像と別モンだったね」
「でさ、私ら三人で見に行ったら、翠、突然『人前に立ちたい』って言い出して、急遽、おめかしして人前に出たんだよ」
「うそー! あの人混みの前に立ったの? あれ、普通の人でもちょっと躊躇うよ」
「なんか、パネルに向けられる視線が優しくて、私もその視線浴びたいなーって」
「ホントに治ったんだ?」
治ったかに関しては、来羅がちょっと心配している。
「多分大丈夫だと思うけど、気分が下がる『鬱病』ってあるじゃん? 逆にテンション上がる『躁病』ってあるんだよ」
「聞いたことあるね」
「躁は鬱の反動でなるの。逆に躁の反動で鬱になったり。それを繰り返すのを『躁鬱病』って言うんだけど、今、翠は『躁』の状態の可能性高いから……強気で無謀な行動しかねないから気を付けてね」
「分かった」
「真壁君、ちゃんと抑えてよ」
「分かった」
※ ※ ※
——— 放課後、早速、翠の暴走が始まった。
「ね、放課後デートしよ?」
「いいけど……なんか買いたいものとかあんのか?」
「無いよ。えへへ……素顔制服デート。ダメ?」
「……早速暴走してんな。大丈夫か?」
「うん。なんか今まで隠してた分、曝け出したくなっちゃったって感じかな?」
「来週病院だろ? それまで待たないか?」
「待てないよ。もう、ウズウズしてしょうがない」
下手に抑えても反動が来る。だったらある程度のガス抜きした方がいいのか? 判断に迷うところだが……ま、最悪、抱き抱えて連れ帰ればいいか。
※ ※ ※
——— 俺と翠は街の中心となる駅では無く、一つ先の駅で降りた。そこは小さな駅で、街そのものも小ぢんまりしているが、スイーツショップが多く、女子高生が多く立ち寄るところだ。
「それじゃあ、トイレで頭取ってくる。宗介もね」
「ヘアピンあるか?」
「あるよ。はい。そこの銅像前で待ち合わせね」
「分かった」
俺はヘアピンケースを受け取り、トイレに入った。
トイレに入ると髪を後ろで1つにまとめ、ゴムで止め、そしてヘアピンでサイドを押さえて完成だ。
鏡の前でやったから何人かの人に見られたが、まぁ、男の視線は痛くも痒くも無い。
ネクタイを緩めて、いつものようにシャツのボタンを三つ……は行き過ぎだな。二つ外してトイレを出た。
トイレを出ると、女の視線が一斉に集まる。不快だ。
翠は病気が治ったかもしれんが俺は全然治ってない。この色目的な視線は免れない。
俺は我慢して待ち合わせ場所の銅像前で翠が出てくるのを待った。
すると一分もしないうちに周りに人集り……距離を置いて女に取り囲まれた。
まるでネットでよく見るコスプレの囲み撮影の風景写真みたいな空間が出来てる。
完全に俺が原因だ。
※ ※ ※
私はトイレの個室に入るとウィッグを外し、少し乱れた髪を櫛で梳かして、右耳に髪を掛けバレッタで留めた。
前髪も垂れた部分はピンで抑えた。ちょっと丁寧に決めていたら少し時間が掛かっちゃった。
スカートもウエストベルトをクルクル巻いて少し短くした。リボンも緩めて、ボタンも一つ……二つ外すか。
セットが終わり外に出たら、宗介が2人のギャルにナンパされてた。
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