第13話 転校生④

 ——— ホームルームだ。

 前回の話の流れで、早速『告白のシーン』だと思った人御免なさい。

 放課後までにはまだ時間があるし、ちょっとした伏線めいた事もあるからちょっと待って。


「それじゃあ自己紹介。名前と部活、あと、趣味くらいは話して貰おうかな? それ以外に自己アピール在るなら勝手に話して良いよ」


 出席番号順に自己紹介が始まった。名前と部活動、そして趣味とか自己アピール的な事を皆話していく。

 そして私の番が来た。

 再び自己紹介をした。さっきは余り情報を出さないようにしたが、今度は先生から項目の指定があった。流石に流すわけにも行かず……。


「改めて、真壁奈々菜です。以前の中学校ではソフトテニス部に入っていたので、ここでもソフトテニス部に入りたいと思います。後、趣味は……料理……かな? 宜しくお願いします」


 私は趣味に『料理』と言ったが『無し』にしようかちょっと迷った。

 ソフトテニス部への入部宣言は問題無い。入部すれば知られる事だ。ただ、趣味は『無し』じゃちょっと素っ気ないと思って『料理』って言っちゃったけど……情報出し過ぎたかな? 同じ趣味の子とか居れば話し掛けられそうな趣味だけど……ま、趣味で繋がる関係は、同じレベルならそれ程悪くないと思う。ただ、にわか趣味な子との会話はちょっと疲れる。勘弁して欲しいところだ。でもそれは杞憂で、料理を趣味にしている子は居ないようだった。私は少しがっかりしつつも安堵した。

 ——— 自己紹介もう一通り終わり、引き続き一学期の行事などの伝達がされ、そして下校となった。

 教室を出る前に私は藍ちゃんにメッセージを送った。


[ちょっと遅くなるから校門で待ってて]

[私も遅くなる。んじゃ校門で]


 私はカバンを手に取り、教室を出ると、藍ちゃんが前の方を歩いていた。私は藍ちゃんの元に駆け寄り呼び止めた。


「藍ちゃん」

「あれ? 奈々菜ちゃん、遅くなるんじゃ……」

「用事がこっちなの。藍ちゃんは?」

「私も」


 私は同じ方向に歩く藍ちゃんを見て何となく同じ用事なんだろうなと思いながら一緒に歩く。藍ちゃんも同じく私の用事を察しているようだ。


「ところでどちらへ?」

「ちょっとお花を摘みに……」

「うふふ、わたくしもですの……おほほほ」


 隠語でも何でも無いただのおふざけな会話だが、何故か向かっている先が『校舎裏』だと悟った。藍ちゃんの目を見ると『お主もか!』と言っているのが伝わった。


「――― ここかな?」


 目的地らしき場所に着き。そっと校舎の陰から目的地らしき場所を覗き込んでみる。すると男子が四人立っていた。

 そこで初めて互いに用事を確認する。


「やっぱ、奈々菜ちゃんも?」

「『も』って事は藍ちゃんもか……」

「うん♪ これね」


 藍ちゃんはポケットに手を突っ込み、そして出すと、そこには折り畳まれた紙が二枚、指に挟まれ出て来た。藍ちゃんは顔の傍に立てて用事の元を私に見せた。勿論中身は見せてこないし、私もそれは求めない。書いてる内容はどうであれ、そこは最低限のマナーだ。一応、手紙の主の尊厳は守る。

 そして私達は改めて目的の場所を覗き込む。


「……なんか話し合ってる感じ?」

「揉めてはいないようだね……」

「ハァ……転校初日って……また毎週これ続くのかぁ……」

「奈々菜ちゃんも週一だったか……ま、定例イベントって事で♪」


 私は髪留めを外すと、藍ちゃんも黙って髪留めを外した。考えていることは一緒のようだ。

 今朝、駅のホームで話していた『区別がつかない子は私達の何見てるんだ』を実践する時が来たのだ。

 髪留めを外した私達は、頭を振ったり髪をワシャワシャと手でほぐしてサッと整えた。


「ヨシッ! んじゃ行きますか」


 何故か元気な藍ちゃん。斯くいう私は……、


「はぁ~……毎回毎回申し訳無い気分になるのはどうして……」


 ――― 私と藍ちゃんはゆっくり四人の前に歩み寄る。男子は近付く私達に気が付くと、私と藍ちゃんを交互に見て「えっ?!」と、困惑する。

 完全にどっちがどっちだか分かっていないのが見て取れた。


「あのぉ……どっちが奈々菜でどっちが藍か分かりますか?」


 男子はそれぞれに顔を見合わせる。


「試す事して御免なさい。でも、最低でもそこは分かって頂かないと……」


 私は申し訳ない気持ちで話すが、対照的に藍ちゃんはハキハキと男子に話し掛ける。


「あ、別に嫌いとかって訳じゃ無いから。って言うより嫌いになる要素すらまだ見えてないしね。ただ、これはちょっと減点要素かな? かし過ぎたね♪ うん、取り敢えずこれからも宜しくね。じゃねぇ♪」


 藍ちゃんは手を振って私の腕を取り、そして二人この場を後にした。一度振り返ったが、男子は「キョトン」とした顔をして立ち尽くしていた。

 よく考えると、彼らに一言も話させていない。それはあんまりだったかなってちょっと反省した。


「ね、奈々菜ちゃん。あの人達、実は告白するつもり無かったんじゃない?」

「うん。だから御免なさいとも言わずに去ったんだけどね。大体、物事頼むにしても、人柄とか能力見て頼むでしょうから、最低でも私と藍ちゃんの区別は付けてもらわないとね」

「だね。脳みそが硬い奈々菜ちゃんと、脳みそが溶けてる私。区別は簡単に付くよね♪」

「ふふ、そう言う事」


 ——— 私達はそのまま家路についた。



 ※  ※  ※



 入学式でお兄ちゃんが思いっきり目立つんだけど……物理的に目立ったのはこの日だけだね。

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