第12話 転校生③

 ——— 廊下を一人歩く私に背中から抱きついて来た藍ちゃん。人違いだったらどうしたんだろ?

 ま、彼女の事だ、持ち前の軽いノリで躱すんだろうけど……出会ってまだ日にちは経っていないが、彼女とこうして触れ合う事が凄く自然で素直に受け入れられてる自分にちょっと戸惑っていたりする。

 小さい頃一緒にいた頃の記憶が……体が覚えてるとか? なんて、ちょっと特別めいた事を考えてみるがそんな訳は無く、単に『気が合う』だけなんだと思う。


「そっちのクラスどう?」

「ふふ、まだ分かんないよぉ」

「だよねー♪」

「それより藍ちゃん離れてよ♡ 歩きにくーい♡」

「へへへ……良いでは無いかぁ♡ 良いでは無いかぁ♡」


 転校初日に見かけない女の子が転校生に抱きついて来てイチャ付き始めた。しかも私と同じ顔だ。周りを見るとみんな困惑している。

 Aクラスの男子は眼福と思っているようだが、それは私は知らない事だ。

 するとイチャ付く私達に声をかけて来た子がいた。


「あのぉ……真壁さんって双子なの?」


 最近の私達に関するトレンドワードだ。いい加減ちょっと飽きたところも否めない。


「んーん、違うよ」

「その子は?」

「隣のクラスの転校生。同じマンションに引っ越して来たの。偶々ご近所さんになって……ね」

「桜木藍です。宜しくね」


 自己紹介する藍ちゃんだが、完全に私にホッペをくっつけてる。柔らかくてサラサラだ。正直ちょっと気持ちいい。


「真壁さんに似てるけど……桜木さんは可愛らしい感じなんだ」


 並んだ顔を見て気付いたようだ。


「そんなに似てるかな?」


 『似てるかな?』って聞いてはみるものの、私達も自分達が似てるって事はもういい加減認めてる。聞いてみたのは『そうかな?』って返しを期待しているとことろも有ったりする。

 私と藍ちゃんはイチャ付きながら二人並んで体育館へ移動した。

 するとさっきの子の声掛けを皮切りに。徐々に話し掛ける子が増えて来た。女の子だけなんだけどね。

 私と藍ちゃんは質問に対して乾いた答えを返し続ける。


「——— うーん……それは興味ないかな」

「——— あっちの学校? 普通だよ。多分」

「彼氏? いないよぉ。いた事無いよ(ホント)。そういうのよく分かんないし」

「メッセのID? 御免なさい。前の学校でトラブルあって教えるのはちょっと……御免なさい」


 私は先述したとおりだが、藍ちゃんもここで友達を作るつもりは無いようだ。

 私も藍ちゃんも以前の学校では友達らしい子は何人か居たが、表面だけ仲良く取り繕うだけの関係だった。


 ――― 体育館に入ると、中等部と高等部の生徒全員が勢揃いする。と言っても一年生が居ないので全校生徒には至らない。

 そして体育館内が騒ついている。


「おい、なんか中等部にメッチャ可愛い子いんだけど、あんな子居たか?」

「しかも二人も居る……おい、双子だぞ!」

「え? ……ホントだ。マジでメッチャ可愛いじゃん」


 この時、私も藍ちゃんも周りの子達に話し掛けられていたから、騒つきの内容までは聞いていなかった。


 ――― この集会をキッカケに、私達二人は「学園一の美少女の一人」として皆に顔と名前を覚えられる。私と藍ちゃんが……まだまだ先だね。

 因みに「学園一」と言いながら「一」の美少女は何人か存在し、各部門に分かれているから「の一人」となっている。私達は「妹系美少女」のカテゴリーに分類されたらしい……なんだそれ?


 ——— 集会が終わって教室に戻る。当然帰りも藍ちゃんとイチャ付きながら移動した。

 教室に入り机に座ると机の中に手紙のような紙切れが入っている事に気付いた。

 私はそっと手に取る……手紙だ。二通ある。

 私はそっとその紙を開いてみる。紙はノート一枚を半分に切った紙に文章がしたためられていた。


[放課後、校舎裏で待っています]


 二通とも同じ内容だけど……ちょっと待って。まず、いつ私の机にこの手紙を入れた? 教室を出てから? それとも集会が終わって私が戻って来る前? ……うん、一旦落ち着こう。まず、入れたタイミングは重要じゃない。重要なのは場所だ。

 ……『校舎裏』って何処よ? 私、この学校来てまだ一日目! 初日! 

 この時点でこの手紙の主は私の事を見ていないってのが分かる。

 告白なら失格だ。告白じゃ無かったとしても失格だ。

 ま、放課後の校舎裏への呼び出しは十中八九、男子からであれば『告白』。女子からであれば『集団で脅迫』だ。 

 で、字体からして男子ってのは分かった。

 さて、どうやって校舎裏の場所を知る? 聞くのは容易たやすい。隣の子に聞くだけだ。

 ただ、問題は聞いた後だ。

 絶対『何で?』と返ってくる。素直に『手紙貰って呼ばれたから』とは言えない。これは絶対騒ぎになる。騒ぎになれば手紙の主はバレなくても尊厳を損なうし私自身にも変な噂が立つ。

 ただでさえ目立っているのにこれ以上変な目立ち方だけはしたくない。

 しかしホントこの手紙の主達、自分の事しか考えて無いってのが良く分かる。その証拠に

 私の事が好きだと言うのであれば、『今日始めて来た学校で不安とか在るだろうな』って色々勘ぐるのが普通だと思う。そう考えたら『今日告白』なんて選択肢は絶対出てこない筈。

 まさか『不安なら俺の傍にいなよ』的な発想? 無い無い。余計不安になるわ。……ま、行けば分かるかな?

 因みに私に『行かない』という選択肢は無い。何故ならこの手紙の主の『想い』がどれ程のものか分からないからだ。

 『強い想い』はベクトルが変われば『恨み』になり得る。ちゃんと向き合ってと私はいつも思ってる。

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