第11話 転校生②

 ——— 私と藍ちゃんは電車を降りると人に流れに従って素直に歩き、駅の改札を抜け駅を出た。

 すると目の前には学園の白い制服を着た沢山の人で溢れていた。


「なんか凄いね」


 その光景に藍ちゃんがボソッと呟く。

 私は圧倒されて呟く事も出来なかった。

 駅から学校までの道のり、振り返る子もいれば横に並んでチラチラ見る子が居たが、私と藍ちゃんは気にする事なく歩き続けた。


「奈々菜ちゃんなんか慣れてんね」

「それを言ったら藍ちゃんもじゃない?」

「まぁね。でもお姉ちゃんに比べたら可愛いもんだよ」


 駅ビルの一件でも思ったけど、藍ちゃんはチョイチョイ翠さんをお兄ちゃんと同類のように話す。なんだろう? 翠さん自身に違和感を覚えはするものの、それがなんなのか分からない。翠さんって一体……。

 皆が昇降口近くの掲示板に足を運ぶ中、私と藍ちゃんは真っ直ぐ昇降口に向かい、そして鞄から学校指定の真新しい上靴を出して履き、廊下に並んで佇んだ。


「まずは職員室だね」

「だね」


 私も藍ちゃんも来た日こそ違っていたが一度学校に顔を出している。迷う事なく職員室へ向かうが、廊下で生徒とすれ違う度に『可愛い』『双子?』『綺麗』『誰?』と、皆口々に声を出して驚いていた。

 そして職員室の前に立ち、戸をノックする。


 ———コンコンコン ガラッ。


「失礼します」


 私と藍ちゃんは、先生の誰かがこっちを見るまで少し待つ。待つと言っても一呼吸、間を置く程度の時間だ。

 先生の一人が私たちに気付き、歩み寄って来た。私はその先生に自己紹介をした。当然、藍ちゃんも私に続く。


「本日からこの学校でお世話になります。真壁奈々菜です」

「桜木藍です。宜しくお願いします」

「あれ? 親御さんと一緒じゃ無いの?」


 先生はそう言うと私と藍ちゃんの顔を交互に見て『え?』っという表情をする。勿論、顔が似ている事への驚きだ。

 私は先生の様子に構う事なく答える。


「はい。先日で全部お話は済んだと言ってましたし、今日、午後から私達の兄とこちらの姉の入学式で顔を出すので、何かあるなら午後伺うと言ってました」

「…………」


 普通、中学生であれば転校初日は親と一緒に来るものだと思う。ただ、私達は二人で学校に来た。『同じ境遇の子と一緒』というだけでこれほど心強いものは無い。

 そして私も藍ちゃんも気付かない話だが、実は先生は不安の欠片も見せない私達と、『凛』とした私の態度にたじろいでいたようだ。


「そ、それじゃあ、こっちのソファーに座って待ってて。時間が来たら担任が教室に連れて行くから」

「はい。失礼します」


 私達はソファーに案内され、そして座る。勿論、深く座らず足を揃えて背筋を伸ばして座る。座る姿勢にマナーとかは特に無いようだけど、『美し座り方』を意識するとこんな感じかな? って、藍ちゃんを見ると私と同じような座り方をしていた。極々自然にだ。

 藍ちゃんと目が合って互いに微笑む。ただ、一言も発すること無く朝礼らしき会議が終わるのを黙って待っていた。


 会議が終わり二人の先生が私達の元へ来た。私達は立ち上がり先生を迎える。


「えーっと……」


 先生は手元の資料と私達の顔を見比べ困惑している。結局どっちがどっちか判断が付かなかったようだ。


「どっちが真壁さん?」

「私です。真壁奈々菜です。よろしくお願いします」

「担任の立花です。宜しくね。真壁さんはAクラスになります」

「こっちが桜木さんか……うん、担任の一井です。宜しく」

「桜木藍です。宜しくお願いします」

「桜木さんはBクラスだ。それじゃあ教室に行こうか」


 四人は職員室を出て教室に向かった。

 私と藍ちゃんは職員室を出て先生達の後ろを歩く。先生は振り返りながら私と藍ちゃんに質問する。


「真壁さんと桜木さんは実は双子って訳じゃ無いんだよね?」


 流石の先生も聞いて来た。ここまで来ると、もう、藍ちゃんと双子でもいいやって思えて来た。藍ちゃんの顔を見たら『あはは……』っと困り顔で笑っていた。私は先生にありのままを答えた。


「はい。生まれは同じ街らしいんですけど、育ちはお互い別々です。誕生日も半年違います」


 お兄ちゃんと翠ちゃん同様、私と藍ちゃんも同じ街で産れている。一応、つかまり立ちが出来た頃には一緒にお風呂に入れられたり、一緒にお昼寝をしていたそうだ。


「ホントだ。なんか間違える先生……っていうか、生徒も皆間違えそうだな……あ、ここがAクラス、隣がBね。じゃ、真壁さんはここで待ってて、呼んだら入って」


 そう言って先生は一人教室に入った。藍ちゃんは『じゃねー』と小声で手を振り隣の教師へ案内される。

 教室の前で、私と藍ちゃんは廊下で待たされる。教室内では先生が何か話しているが、私が藍ちゃんに目を向けると中から「じゃ、入って」と先生の声が聞こえた。教室に入る前に、互いに手を振った。

 私は戸を開ける。緊張の一瞬だ。そして二歩進み、後ろを振り向いて戸を閉めて再び正面を向く。一呼吸置いて教卓の傍に立った。すると教室内から女の子の声で「綺麗……」の声が聞こえて来た。

 私は印象良く、少し微笑む感じの笑顔を保つ。結構この顔疲れるんだよね。


「じゃ、自己紹介お願いします」

「真壁奈々菜です。宜しくお願いします」


 私は深く一礼して、頭を上げてニコリと笑う。可も無く不可も無い極々普通の転校生を演じるが……皆、恍惚な顔で私を見ている。 ……うん、これは前の学校と同じような状況になるね。私は友達を作らないように努力する事にした。


「それじゃあ、後ろの空いてる席に座って」

「はい」


 今日は午後から入学式だ。なので授業は無く、集会とホームルームが終れば午前中で下校となる。


 ショートホームルームが終わると、早速全校集会だ。生徒は一斉に体育館に移動だ。

 普通、転校生ともなれば、周りに人が集まるものだが、私の周りには誰も寄ってこなかった。皆、どう話し掛けて良いのか分からないと言ったところかな? 私としては都合のいい状況なんだけどね。


「奈々菜ちゃーん♪」


 私がクラスの一番後ろ、廊下の端を一人で歩いていると、藍ちゃんが駆け寄って後ろから抱きついて来た。当然周りの子達は私達に注目する。

 彼女と出会ってまだ三日しか経っていないのに背中で私と分かる藍ちゃん。人違いだったらどうしたんだろ? 

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