第10話 転校生①

 ―――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピp…


 朝、五時二十分。今日も晴々とした朝だ。

 俺はベッドから出ると、真っ先に顔を洗う。顔を洗ったら、ランニングウェアに着替え、マンションを出る。そして、エントランスを出ると軽く手足を解して走り始める。

 冷たい空気が肺に入り、気持ちいい。この瞬間が堪らない。

 俺は毎朝ジョギングをするのが日課だ。雨の日以外欠かさず走っている。勿論引っ越しの当日も、この街でも引っ越して来た翌日もしっかり三十分走った。

 三十分と時間は短いが、後半、少しペースを早めて短い時間での運動を満足させている。


 ――― 走り初めて数日。やっとジョギングコースも安定した。知らない道だと色々走ってみないと何処を走ると楽しいかも分からない。

 最初は往路十五分走ったら、そのまま帰ってくるっていうルートだったが、それも何コースかやってみて、今では道もそれなりに覚えて同じ道を走らないグルっとその界隈を一周するルートが出来上がった。因みに毎日同じルートも飽きるから三ルート作っている。

 そして走っているといつも見かける人、顔を合わせる人は同じだ。見知らぬ人でもすれ違う時は『おはよう御座います』と挨拶はしっかりする。

 俺は素顔で走っている。最初は驚かれたが、三回目からは反応も鈍く、皆普通に挨拶をしてくれる。

 そしてジョギングコースを一回りしてマンションが見えてくると、ジョギングから帰って来たと思われる女性が、マンションの隣にある公園から出て来てそのままマンションに入って行くのが見える。これもいつもの光景だ。

 俺の位置からはちょっと遠くて「女性」としか判断できない。毎朝同じタイミングで見掛ける……で、エレベーターはうちと同じ階に停まってる……どの部屋の人だろ?

 特に気になるわけでは無かったが、毎日見掛けると顔くらいは拝んでみたいと思うのが人ってもんだと俺は思う。

 部屋に戻ると真っ先にシャワーを浴びる。浴室を出て体を拭き、パンツを履いた瞬間に奈々菜が洗面所に入ってくる。奈々菜が入ってくるのは何故かいつもパンツを履いた瞬間なのだ。謎だが、今日も何時もと変わらない朝だ。



 ※  ※  ※



 ——— パン!


 お兄ちゃんがパンツを履いた音が聞こえた。私はいつもその音が聞こえるまで脱衣所の扉の前で待っている。お兄ちゃんはパンツを履く時必ずゴムを『パン!』と小さく鳴らす。私はそれを合図に脱衣所兼、洗面所入る。


「おはよ」

「はよ」


 私は眠い目を擦りながらお兄ちゃんと挨拶を交わし、そして顔を洗う。お兄ちゃんは上半身裸だ。いい感じの筋肉が私の目を魅了するが、欲情とかはしない。兄妹だからね。


 ——— バシャバシャバシャバシャ……――― パンッ!


「ヨシッ!」


 私は顔を洗った後、必ず勢いよく顔を叩く。それで『目覚めのスイッチ』が入る。以前、思いっきり叩き過ぎて鼻血を出した事があったがそれでも加減なく叩く。

 私はいつも早起きだ。休みだからと言って遅くまで寝るような事は絶対しない。時間に潔癖とか几帳面とかそういうのでは無い。単に『朝、寝ている間に何か面白い事が起きるかも知れない』という在りもしない事への期待感で目が覚め、起きてしまうのだ。実際面白い事が起きた事は無いんだけど……来年とある日の朝、ちょっとした出来事があるとだけ伏線を張っておく。

 私は学校へ行く準備も終わり、一人元気に登校する。


「それじゃぁ行って来まーす」

「いってらっしゃい」


 お兄ちゃんに見送られ私は一人玄関を出た。

 今日は始業式だ。そしてお兄ちゃんは入学式がある。中高一緒にだ。ただ、入学式は午後からなのでまだ部屋着でまったりしていた。


 ——— 私が玄関を出ると藍ちゃんが通路で待っていた。


「おはよう。お待たせ」

「おはよ。二日振りぃ♪」

「うん♪ じゃ、行こ」


 私達は肩を並べて歩き始める。

 私達の容姿は全くと言っていい程同じだとお兄ちゃんは言う。同じく翠さんも驚いてた。

 そんな私達の身長は全く一緒の153㎝。体重とスリーサイズは……内緒。まだ成長期だ。知った所で一ヶ月後には数字が変わっている……筈。

 今日の髪型は、一応、区別が付くように私はサイドアップに纏め、藍ちゃんはツインテールにしている。互いに「綺麗さ」と「可愛らしさ」を強調させた髪型にしてみたんだけど……私がツインテ―ルにするとこんな感じなんだ……今度やってみよ。


「藍ちゃんツインテ可愛い♡」

「奈々菜ちゃんは大人っぽい♡」


 口に出して気付いたが、なんか自分を褒めてる気分? 不思議な感じだ。

 身内が似ていると言うが当の本人達はそう感じて居ない。似てるとは思うけど、鏡で見る自分とはちょっと違うなって感じかな? 

 マンションを出て駅へ向かう。駅前の大通りに出るまでは学園の生徒は見かけなかった。大通りに出ると同じ制服の子が結構歩いていた。

 駅に着き、改札を抜けホームで二人並んで待つ。すると周りの視線が私達に注がれる。


「……皆こっち見てるね」

「見られてるねぇ。ふふ……『双子』なんて声も聞こえるけど……」

「お姉ちゃん言ってたな。私を美人にすると奈々菜ちゃんになるって」

「お兄ちゃんも同じ事言ってたよ。私を可愛らしくすると藍ちゃんになるんだって」

「なんか色々勘違いされそう……」

「だね……ま、区別がつかない子は私達の何見てるんだって事で私達は意識しないで自然体で良いっしょ?」

「そだね。性格は全然違うもんね」

「そゆこと」


 今日までメッセージアプリでのみだが藍ちゃんと会話をしてきた。ズバリ、彼女の印象を一言で言うと『軽い』だ。軽いと言っても物事安易に考えるとかでは無く、物事を多角的に捉えて楽しみましょうっていった感じかな? 

 勿論、大切・大事とされる部分は絶対揺るがせない芯のある子。それが藍ちゃんだ。


 ———ホームに立つ私達を見た人が色々話している。その声は私達の耳にを聞こえていて、聞こえた単語は『可愛い』『誰?』『あんな子居た?』、そして『双子』だ。

 電車がホームに入り、そのまま電車に乗ると周りからの視線が更に私達に集中する。お兄ちゃんが今まで晒されて来た視線だ。正直気持ち良いものではない。でも、一週間もすればこの視線殆ど無くなる。

 お兄ちゃんの場合、卒業するまでこれが続いた。

 学校最寄りの駅で降りる。ここで学園の生徒は全員降りる。

 私と藍ちゃんは電車を降りると人に流れに従って素直に歩き、駅の改札を抜け駅を出た。

 すると目の前には学園の白い制服を着た沢山の人で溢れていた。

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