第14話 入学式①

 ——— 奈々菜達が始業式をしていると思われる頃、俺はまだ制服にも着替えず、スウェット姿でリビングでゴロゴロしていた。

 大分時間に余裕がある。昼飯をいつ食べるか悩むくらい余裕があった。

 因みに親達は仕事に出ているが、お袋のパートは午前中で終わる。なので一度家に帰ってきて着替えてから式に行くって話だ。

 親父は午後から休暇を取って直接式に出席するとの事。尤も式よりその後の桜木家での宴会が楽しみらしい。

 俺は暇な時間を持て余して生徒手帳に書いている校則に目を通した ―――。


 ――― なんか変な校則があるな……。



 ※  ※  ※



 ——— 出発の時間だ。

 俺は制服を着てマンションの通路に立って翠さんを待っていた。少しして翠さんが出て来た。


「こんにちは。お待たせしました」

「うっす」


 俺は翠さんの様相を見て、素直に『鏡を見ているようだ』と思ってしまった。

 と言うのも、今日お互い髪を縛ってはいるがボサボサだ。第三者に好印象は与えられないって自覚する程『ちょっとね』って感じだ。

 目元は前髪で隠れて良く見えず、そしてお互い無骨なメガネを掛けている。俺は伊達だが翠さんは度が入っている。ある意味双子コーデだな。

 そして翠さんの制服姿だが、始めて着るのに『着こなしてる感』が出てて、顔の様相とは裏腹に『キマってる』という言葉がしっくり来る感じだ。

 その違和感たるや、正直、喉の奥にピーナッツの皮が張り付いたように不快だ。不快と言っても『気持ち悪い』って意味じゃ無く、『スッキリしない』って意味な。

 翠さんってスタイルが良いって言うか、シルエットが良いって言うか、首を境に上と下とでギャップが凄い。

 俺は口にしなかったのだが、翠さんから『宗介さん、首を境になんか……ギャップが凄い。違う生き物みたいだ』と、俺が翠さんに思っていた事をズバリ言われてしまった。


「んじゃ行こうか」

「うん。宜しく」


 俺達は一緒に歩き始める。

 翠さんは一人で街を歩けない。先日のような事があるかも知れないからだ。

 本当であれば姉妹で登校する所であるが、今日は登校時間が違うので翠さんは俺のエスコートで登校する事になった。

 すると翠さん、今夜の予定を確認する。


「今夜うちで宴会らしいね」

「うん、聞いてる」

「…………」

「…………」


 俺達の会話は正直あまり弾まない。

 なにしろ俺は中学生まで……つい先日までは周りが勝手に話をしていて自分から話題を提供するという事は全くと言っていい程無かったからだ。

 受け答えは得意だが、話題の提供はかなり苦手だ。

 翠さんも同じなのか話題を提供して来ない。話し下手のようだ。

 駅のホームに立ち、電車が入って来るのを待つが、

学園の生徒……今日入学すると思われる奴が数人見えた。

 ま、俺と関わることなんてない奴らだ。特に気にする事も無く電車が来るのを待った。


「意外と人少ないね」

「まぁ、平日だしな」


 ホームに立っているのは学園の生徒が俺たち含めて五人とおばさんが二人だ。


「そっか、ここにいる子ら同級生か」

「だな。この時間だと……多分、あっちの駅で二、三年生とすれ違うんじゃないか?」

「あー……そういう事か……ちょっと怖いな」


 普通、通学は皆同じ方向を向いて歩くので視線は背中から感じるだけだ。

 今日この時間は対面からの多くに生徒が人が俺達を見る事になる。

 翠さんはビビっているようだが、今の俺らは『陰キャ』だ。道路の端を歩いていれば早々注目を浴びる事なんて無い。

 電車がホームに入ってきた。

 電車の中を見ると、学園の制服を着た奴が何人か見えたがガラガラだ。流石にこの時間は誰も乗っていない。

 俺達は電車に乗り込むと並んで座席に座った。同じ車両に同じ制服の子が何人かいたが……コイツらも俺らと同級生って事になる。

 ここで俺はちょっと失敗したと思った。

 翠さんと仲良く隣に座ったのはちょっと早まったと少し反省した。下手すりゃ俺らカップル認定で翠さんに注目が行くかも知れない。

 ま、今日は初日だ。悪目立ちしなければ明日には俺らの事は忘れられてるだろう。

 暫く電車に揺られ、俺は同級生と思われる奴らを見て、ちょっと疑問が湧いた。


「なぁ、中高一貫なら中学上がりは何人で高校入学組は何人なんだ? 翠さん知ってるか?」

「確か……中等部は一クラス三十人が八クラス。だから上がり組は二百四十人。高等部は四十人で十クラスだから、中途組は百六十人になるね」

「全校生徒中高合わせて……千九百二十人……多すぎだろ!」

「ちょっと私達向きの環境じゃ無いね」

「ハイリスク・ハイリターンだな。人が多過ぎて目立ちにくいけど、目立ったが最後、浴びる注目は半端じゃ無いって訳だ」

「ちょっと怖い事言わないでよ!」


 翠さんは周りに聞こえないトーンで声を張り上げる。


「悪りぃ悪りぃ。でも今の俺らに目立つ要素無いから」

「確かにそうだけど……」


 ——— 俺と翠さんは電車の中ではそんな会話をしつつ、駅から学校迄は念の為、少し距離を保って学校へ向かった。

 駅から学校までは、中高二、三年生と思われる生徒とすれ違いながらの通学となった。

 翠さんは俺の背中を陰にしつつ歩いているようだった。勿論距離も『他人』を感じさせる距離感だ。

 因みに奈々菜達とはすれ違わなかった。電車で行き違いになったか寄り道しているか……ま、顔を合わせても他人のフリをするから関係ないんだけどな。でも一目くらいはどんな様子か見たくもあった。


 ——— 学校に着き高等部の校舎へ向かうと昇降口前に人集ひとだかりが出来ていた。

 皆、掲示板に貼られているクラス割の張り紙を見ていた。

 俺達も張り紙を見てクラスを確認する。


「私はA……か……」

「俺はFだな」


 俺達はボソッと呟いて移動する。別にバラバラの行動でも良かったのだが一緒に動き出したのでそのまま教室まで一緒に歩いた。勿論、他人行儀な感じの空気は出している。

 そして俺達はそれぞれの教室に入る。

 一応、連絡先は交換している。

 翠さんからは『何か有った時はご面倒掛けますが宜しくお願いします』と、事前にお願いされていたが……大丈夫か? そもそも発作が起きたら、体、動かないんだろ? 電話できねぇじゃん。

 そう考えると……一人で居るのと大して変わんないな……翠さん気付くなよ。気付けばいきなり怖くなるパターンだ。


 ——— 教室に入ると黒板の貼り紙を見ている奴が居た。座席表だ。俺もそれを確認してから席に着く。一番後ろだ。



 ※  ※  ※



 ——— 私は教室に入り席を眺める。

 さて、私の席は何処だろうか? 

 教頭先生から、教室に入ったら黒板の貼り紙を見るように言われていた。

 言われたとおり黒板に目を向けると、貼り紙を眺めている女の子が二人居た。座席表だ。

 当然、私は自分の名前を確認する。

 私の席は教室の廊下寄りの中央だ。背中の視線がちょっと嫌だが……ま、今のこの気持ちは『自意識過剰』のレベルだ。

 今の私は『モブ』だ。注目は浴びない。それに授業が始まれば集中するので視線は気にならなくなる。

 私は自分の席を確認するとそのまま

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