第20話 出会い方の正解は?
——— 桜木家に真壁家がお邪魔して宴会をしている。
俺達は親父達とお袋達の昔話を聞いた。
しかし親父達の話は声を失うような内容だ。
初めて野球の話を聞いたが、高校野球、春夏合わせて甲子園に何度行ったんだ? しかも全部準優勝って……。
お袋達も息子の俺が言うのも何だが確かに同年代の奥様達に比べて若く見える。物腰はその辺のおばさんと変わりないんだが……そんな事を考えていたらお袋が翠さんに唐突に尋ねた。
「そう言えば翠ちゃん。宗介と翠ちゃんの誕生日同じって知ってた?」
「え? そうなんですか?」
どうやら聞かされてなかったらしい。翠さんは『そうなの?』って顔で俺の顔を見る。俺は『そうだよ』って顔で応えるが、翠さん気付いてくれてっかな?
「え? お姉ちゃんと宗介さん誕生日一緒なの?」
藍ちゃんの驚く一言でお袋は勢いよく話し始めた。
藍ちゃんは俺と翠さんの顔を交互に見る。
「そうなの。稜ちゃんとお互いにお腹大きかったのよ。予定日聞いたら結構近かったの。で、同じ日に入院したらしいんだけど、病院違うし、そっちもこっちも入院してるからお互い相手の状況知らないじゃない? それで、退院して社宅着いたら、稜ちゃん赤ちゃん抱いてたのぉ」
「私も露音ちゃん赤ちゃん抱いてるの見てビックリ」
お袋に変わっておばさんがそのまま話を続ける。
「聞いたら、今日退院て言うじゃない?『えー、私もなのよー』なんて話をしてたいら、産んだ日が同じだったの」
再びお袋が話しを引き継ぐ。
「で、男の子と女の子だったから、『子供が大きくなったら許嫁なんて素敵ね〜』。なんて事言ってたわね〜」
「懐かしいわぁ」
俺は『許嫁』の言葉に鼻で笑いつつ黙って聞いていたが、翠さんを見ると両手を太腿に挟んで俯いて、顔を赤らめモジモジしていた。女の子ってこういう話に弱いの?
「で、お父さんとお母さんはどうやって知り合ったの?」
奈々菜の質問に四人は顔を見合わせ、そして子供達に向かって口を揃えて答えた。
「「「「ナンパ」」」」
※ ※ ※
お腹も一杯になり、子供達は翠さんの部屋に移動した。翠さんの部屋……俺はドキドキしていた。女の子の部屋に初めて入るからだ。
「お父さんですら部屋に入れた事ないんだぞ」
翠さんはそう言って扉に前で立ち止まる。そしてゆっくり扉を開けて躊躇いつつ部屋に入る。
「あんまり見ないでよ」
「お兄ちゃん、鼻の穴膨らんでる!」
「だっていい香りが……クンカ」
「宗介さんやめてー ! 恥ずかしいよー !」
「お姉ちゃん下着」
「ギャ——— !」
俺は部屋に干してあった下着のデザインと色は映像として脳内ハードディスクにしっかり保存した。
因みに画素数は
勿論プロテクトもしっかり掛けている。
俺は妹と部屋を別にしてから、妹の部屋に入った事がない。なので『女の子の部屋』そのものが初めての入室となる。言い方を変えれば『翠さんが初めての女』だ。 ……済まない、言葉足らずだった。
俺は部屋をジロジロ見ないように意識しながら部屋の状況を把握する。
色合いは白を基調として、クッションなどの小物類はパステル系の色が多い。ぬいぐるみは一つも無い。
本が多く、壁一面本棚だ。
床にも山積みされている。
そのせいか、意外と散らかってる印象を受ける。
チェストの上にウィッグが飾ってあるのがちょっとホラーだ。
翠さんと藍ちゃんはベッドの上に座り、その対面に俺がテーブルを挟んで座る。奈々菜は俺から見て、テーブル右に座っている。
俺と奈々菜は再び左右対称の空間に違和感を覚え、視覚が落ち着かない感じになっている。
翠さんはデザートを取りにキッチンに行った。
奈々菜はちょっと落ち込んでいた。
「お母さんとの出会い方、聞くんじゃ無かった……」
藍ちゃんも同じ気持ちのようだ。二人で肩を落としている。
「まさか『ナンパ』って、ちょっとお父さんに幻滅」
あの場では『ナンパ』と言っていたが、多分そうではない……と思いたい。恐らく説明がややこしくて大きく括れば『ナンパ』と大して変わらないという意味で『ナンパ』と言ったのだろう。俺は肩を落とす二人を見てフォローを入れる。
「場所にもよるだろ? 日中の街中だと軽い感じがするだろうけど、ちょっとロマンチックな場所……例えば夜景が見えるバーとかだと少し雰囲気変わるよな?」
「そうかな……」
奈々菜は暫く考えていると、藍ちゃんが突然奈々菜に向かって、俺が話したシチュエーションに合わせた台詞を吐いた。
「こんばんは、いい眺めですね」
奈々菜もその言葉に合わせた言葉を藍ちゃんに返す。
「そうですね」
それを皮切りに二人は突然小芝居を始めた。俺はその光景が可愛く見えて黙って二人の寸劇を見ていた。
「この店にはよく来るんですか?」
「偶にです?」
「僕も偶にですがよく来ています」
「そうなんですね?」
途中から翠さんがトレーにケーキと飲み物を乗せて戻ってきた。当然雰囲気が違う二人にちょっと戸惑う。翠さんは小声で尋ね、俺も小声で答える。
「何やってんの?」
「親父とお袋の出会いのシミュレーション」
「何それ?」
「ナンパにも種類あるだろって投げかけたら始まった」
翠さんはトレーをテーブルに置き、二人の様子を眺めながらデザートと飲み物をテーブルに置いていく。
奈々菜と藍ちゃんは翠さんを横目に小芝居を続ける。
「落ち込んだ時にこの夜景を見ていると自分がちっぽけに見えて……どうでもいいですねこんな話」
「そんな事ありませんよ。私も似たようなものですから」
「もし良かったら今夜だけでも一緒に……」
「はい……」
小芝居が終わり、奈々菜は溜息を吐く。
「なんかキザったらしくて余計幻滅なんだけど……」
少しでいいからロマンスある出会いであってくれと願う妹達だった。
「小芝居も終わったようだし、ケーキ食べよ」
「わぉ♪」
俺は思わず声が出た。
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