第19話 父親達と母親達

 ——— 桜木家に真壁家がお邪魔して一緒に食事をしている。再会を祝してと、入学祝いでと言う事だが、そもそも、入学祝いで酒を飲むとか単に一緒に飲む口実にしているだけだ。

 宴は盛り上がって、話は親達の昔話に移った。


 まずは両家の亭主親父達、「真壁春輝まかべはるき」と「桜木武尊さくらぎたける」の話だ。


 二人は幼稚園に入る前からの友人で、幼稚園ではガキ大将。小学校では学校のリーダー的存在となり、中学に入ってもその立場は変わらず続いたという。

 この地域の中学校は一校しかなく、そして人数が少ない。なので部活動は男子は野球部しか入る部が無かった。なので二人は仕方なく野球部に入部し、野球をやっていた。

 ポジションは武尊が三番でピッチャー、春輝が四番でキャッチャーだ。

 中学三年、後一歩で市内優勝となる所、春輝は食あたりで欠場。

 決勝戦は武尊一人で投げたが、武尊のボールをキャッチ出来る者が居なく、武尊は投げずじまいで試合は負けた。

 高校も二人揃って同じ高校に入り、先輩の勧誘で揃って野球部に入部した。

 二人は運動神経が良く、中学での実績も買われ、一年の夏の大会からレギュラーになり、夏の甲子園初出場で、何と準優勝する。

 そして二年も準優勝。

 三年も準優勝で幕を閉じた。ついでに春の選抜にも出場して全て準優勝で終わっている。流石の彼らも優勝旗を『白河の関』から越させる事は出来なかった。

 そんな彼らを巷では『無冠の覇者』と呼んでいた。

 ついでに武尊は三年間の全試合で打者全員から一度は三振を取り、春輝は対戦したピッチャーから一度は必ずホームランを打つという、架空の話ならではの記録を打ち立てている。

 そんな二人の容姿は宗介と翠の父親なだけあって高校時代カッコよく女子にモテた。

 二人は小学生の頃から『春輝派』と『武尊派』で二分する程のモテようだったが、高校生で野球部となればピッチャーはただでさえモテる。

 なので武尊については言語道断だが、四番を打っていた春輝も武尊並みにモテた。

 当時『イケメン』と言う言葉は無く『ハンサム』と言ったもんだが甲子園準優勝時、二人は『甲子園のプリンスと貴公子』とか『甲子園のハンサムボーイズ』と言われ世間を賑わした。

 そして二人共プロ野球のドラフトに名前が上がると噂された時、プロに行きたく無かった二人は、プロに行きたく無いが為に、二人でタバコを手に学校の廊下を闊歩して態と見つかり停学になるというスキャンダルで再び世間を賑わした。

 停学が明けると追い討ちで、今度は酒瓶を片手に再び廊下を闊歩して停学に。またまた世間を賑わし球団の交渉も諦めさせた。

 そして二人は同じ大学へ進学するも野球はやらず、楽しいキャンパスライフを送り、同じ会社へ就職した。



 ※  ※  ※

 


 話が終わると奈々菜が突然叱咤した。


「お父さん何やっての!」

「だってな、大人なんて強引だ。今はプロになる願書みたいの書くみたいだが、当時はそんなの無くてな。親と交渉して無理やりプロ契約とかあったんだよ」

「そうなの?」

「有名なので『俺はサラリーマンなる!』って豪語してた奴が親が説得されてプロになった奴いたな」

「メジャー行って活躍したけど今じゃ結局引退してただの人だよ」

「なんか夢もへったくれも無いね」

「そういう事。プロ行っても実力不足だったり体壊したら辞めてサラリーマン。プロも四十歳まで頑張れれば御の字だ。そんな可能性考えたら最初からサラリーマンで実績積んで、野球を辞めるであろう年齢の時にはリーマンで役職付いてた方が絶対いいだろ?」

「って事で俺らは先を見据えて野球を手放した訳だ」

「未練とか無かったの?」

「無いね。正直、野球の面白さが今一つ分かんなかったからな。ま、決勝戦では相手とのその気持ちの差が出て負けたってとこだな」

「あぁ、守備はピッチャーとキャッチャーの負担がデカい。攻撃は出番が来るまで待つ。正直、中学は元より、高校じゃサッカー部に入れば良かったって滅茶苦茶後悔したぞ」

「あぁ、アイツら坊主じゃ無かったしな」

「面白さ分からず決勝まで行くって……野球ファンと高校球児に謝って!」



※  ※  ※



 次は母親の「真壁露音まかべつゆね」と「桜木稜さくらぎりょう」話だ。

 二人は結婚直後、転勤によって初めて顔を合わせた。

 二人共容姿は年齢にそぐわない若さを保っていて、露音は美しさが強く、稜は可愛らしさが強く出ている。それはそのまま奈々菜と藍に移った感じだ。

 二人共俗に言う「美魔女」だ。年齢を聞くと永遠の10代を語って「19歳と288ヶ月」と答える。流石にこの手のセンスの老化迄は防げないようだ。実際の年齢は秘密だが露音が稜より二つ上である。

 二人の境遇はよく似ていて、生まれも育ちも全く違う土地だったが、小学生の頃は不審者に付き纏われたり、明らかに怪しい男に声を掛けられたり、余り穏やかじゃ無い日々を過ごしていた。

 中学生になると、それも少なくなるが、同級生は常に傍に居て、一人になる事のない日々を送る。本人達は迷惑がっていたが、お陰で不審者からの魔の手を逃れる事が出来ていたのは当の本人達は知らない話だ。

 高校と大学も別々の所に通っていたが、二人共「ミスコン」は高校一年生から大学四年生までずっとクイーンを張っていて、高校では毎週一回以上の告白は当たり前。露音は『お姉様』感も強くあったので後輩女子からのラブレターめいた手紙なんかも普通に受けていた。


「懐かしいわぁ〜」

「そう言えば私達の学生時代の話ってあんまりした事無かったわね」

「だねぇ」


 食卓の話題は、昔、同じ社宅に入ってた時の話に移った。

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