第18話 翠の素顔を見た
——— 俺達が桜木家にお邪魔すると親父と翠の親父さんがダイニングで既に始めていて出来上がりかけていた。
「おう、やっと来たか。遅いぞお前ら」
「お父さん勝手に一人で行かないでよ」
「先に行くって言ったろ」
――― 親父と奈々菜が言い合う中、リビングでは見知らぬ女性が黙ってお皿を並べていたの……だ……が……何だこの天使。
メチャクチャ可愛い……って……誰この子?
姉妹は二人って言ってたし……従姉妹とか?
俺は目の前の女性に見惚れて挨拶なんてどっかに忘れていた。
そして、その見知らぬ女性は皿を並べ終わり顔を上げ、挨拶をしてきたが……、
「――― あ、いらっしゃい、こんばn……わ」
目の前の女性は挨拶の途中で固まった。
女性は俺が知る、俺を見た時の普通の女性の反応を見せた。
斯くいう俺も目の前の女性を見て固まっていた。
奈々菜もだ。
――― しかし可愛い……いや、綺麗……?
この世の人とは思えない……『天使』以外の形容詞が無い!
そもそも『天使』は形容詞じゃないって分かっているが、当て嵌まる単語は『女神』か『天使』あと何がある?
兎に角俺と奈々菜はその女性をガン見する。
これでもかってくらいガン見した。
まず最初に目が行ったのは髪だ。
髪は亜麻色のショートカット。
見た目に跳ねた毛が一本も無い程しっとり自然な感じで纏まっている。
首を振ればいい感じで纏まってサラサラ言いそうだ。
そして次に髪の艶の凄さに目を奪われる。
艶やかな髪であれば誰でも出来る頭頂部の『光の輪』だが、艶やかに光すぎて輪が浮いてるような錯覚を覚える。
それはまるで……っていうか天使そのものだ。
そして驚くべきは、髪全体の
髪の光の中に俺の影がうっすら見えてるような気がした。
そして膝立の姿勢は背筋が伸び「凜とした」雰囲気が凄く印象的だ。
スタイルがいい。
それだけで目を惹いてしまう。
メガネを掛けているが、俺はメガネフェチだ。
正直、メガネをかけてる時点で優勝だ!
優勝なのにそのメガネ越しに見える目と瞳は大きく、殿堂入りもいいとこだ。
目はパッチリ二重で睫毛も長く、目尻は見ようによっては若干吊り上がってるようにも垂れてるようにも見える。位置的にはニュートラルといったところか?
兎に角可愛いが過ぎる。
そして瞳は髪と同じ色をしているが、大きくて綺麗なその瞳をよく見ると若干青が入っているのか、青と黄色が混ざってか黄緑色の筋が放射状に少し入っている。
俺は暫く目の前の天使と目が合っていた……らしいが、そんな事、全然気付いていなかった。
兎に角大きな瞳に吸い込まれ、そして惹きつけられ……。
部屋の奥から現れた藍ちゃんの一言に我に返った。
「お姉ちゃん皆来た? あ、こんばんわぁ。わお♡ 宗介さんその格好で来たんだ♪」
俺は藍ちゃんの一言に驚くが一つ疑問が増えた。
確か桜木家は翠さんと藍ちゃんの二人姉妹だったはずだ。
三人目は聞いていない。
聞いていない……聞いてい……はぁ⁈
この天使が『翠さん』だって言うのか!
俺と奈々菜は大きく目を見開いてお互い顔を見合わせた。
そんな感じで戸惑う俺と奈々菜にお袋が追い打ちをかける。
「翠ちゃんこんばんは。メチャクチャ美人さんになったわねー。おばさんの事覚えてる?」
「――― !」
ちょっと待て!
やっぱり目の前の天使が翠さんだっていうのか?
俺と奈々菜は声を失ったままお袋顔を見る。
そしてゆっくり『翠ちゃん』と呼ばれた天使に顔を戻す。
『ちょっと待て!』ばかり言ってしまうが、ちょっと待て!
あの「痣レベルの
あのボサボサの黒髪は
すると『翠ちゃん』と呼ばれた天使がお袋に挨拶を返す。
「あっ、おばさんこんばんは。すみません。全然覚えて無いです」
お袋の言葉に普通に受け答えする『翠という名の天使』。
その様子に俺は天使を翠さんと認めざるを得なかった。
なんだか認めたく無いみたいに聞こえるが、そのくらい翠さんが普段の翠さんとかけ離れていて俺の脳はちょっと否定的になっているって感じだ。
「まー、無理もないわよねー。最後に会ったの三歳だったもの」
「あ、皆さん座って下さい」
翠さんは慌てて俺達に着座を促した。
真壁家一同は促されるがままにテーブルの前に座る。
親父もおじさんもグラス片手にこっちのテーブルに移動してきた。
そして料理も運び込まれ、八人全員がテーブルに着いた。
「それじゃあ改めて、再会を祝してカンパーイ」
「入学おめでとう」
家主のおじさんの音頭で皆でグラスを合わせた。
奈々菜と藍ちゃんは隣同士で楽しく食事を進めている。
親父は元より、お袋もおばさんと和気藹々と飲んでは喋り、喋っては食べ、どんどんグラスを空け箸を進める。
俺と翠さんは隣り合って座るが、俺は翠さんの顔に目が行って仕方がない。
逆に翠さんは俺の顔ばかり見る。
ただ、親父とお袋、奈々菜に藍ちゃん。そしておじさんおばさんは普通に団欒を楽しんでいる。
これって俺と翠さんの顔に見慣れてて免疫があるって事でいいのかな?
斯くいう俺と翠さんは、自分の顔で免疫が出来る訳も無く、普段自分がやられて困る一般的な反応を互いに相手に見せていた。
——— 見ちゃダメなのに目が行っちゃう……。
俺も翠さんも同じ衝動に駆られていた。
おじさんは俺の様子に気付いたようで、
「そうか、翠の顔初めて見るか。まぁ、初めて見る人は大体そんな反応だな。ま、色々あって顔隠してるけど宜しくな」
「何だ、お前んとこもか。うちのも翠ちゃんみたいな反応されるの嫌で顔隠してるからな。流石に今日は顔出して来たか」
「あはは、式であの格好で演台上がったの見た時はちょっとビックリしたよ」
「しかし稜ちゃんも藍ちゃんも宗介見ても何とも無いのな?」
「そっちだって翠見ても普通だぞ」
「ま、見慣れた感じか?」
「そんな感じだな」
「当の本人達が一番慣れてないってウケるな」
因みにお袋とおばさんが翠さんと俺の顔を見て何とも思わなかったのは事前に写真を見せ合ったからだそうだ。
「しかし藍と奈々菜ちゃんビックリする程似てるな」
「親ながらビックリしたぞ。さっき此処で飲んでて『何で奈々菜が此処にいる?』って思ったもんな。ホント、パッと見、区別つかんな」
「そう考えると、翠と宗介君も有る意味男女の双子みたいな感じか?」
「さてはお前ら全員双子だな!」
——— 呆れて物が言えなくなったが、話題はいつの間にか父親達の昔話になった。
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