第17話 宗介の素顔を見た
――― 今日はこれから隣の家族とお食事会だ。
俺は支度を済ませ、リビングでお袋達の準備が終わるのを待っていた。
お袋はキッチンで持ち込む料理の仕上げをしていて、奈々菜もそれを手伝っている。
ダイニングテーブルには隣に持って行く料理が何品か置いてある。普段作らないような料理に俺の口の中はこれらの料理の味で準備万端の状態だ。
親父はと言うと、学校から帰ってきた俺と入れ違いになる形で、髪も乾かさずビールとウィスキーを持って『先行ってる』と言い残し、隣の家に駆け込んで行った。
どうやら入学式から帰って来るや否や、急いで風呂に入り、入ったかと思ったら『ただ水を浴びただけじゃ無いのか?』と思うくらい速さで浴室から出て来てたらしい。
そんなに楽しみにしてたのか?
——— 時間は既に午後六時になろうとしている。親父が出てって早一時間は経とうとしていた。親父は程よく酔うとよく喋るようになる。
翠さん絡まれてたり……はしないか。
親父は酔っ払って喋りはしてもそんなに品がなくなる訳でも無く、ちょっと親父ギャグが強くなるだけだ。害は無い。
「お父さんも先行っちゃったし私達もそろそろ行くよ。――― あ、宗介、髪は縛りなよ。流石にボサボサは失礼だからね」
「分かってるよ」
俺は両手に料理が盛られた皿を持ち、お袋と奈々菜は一品ずつだ。三人で玄関を出てお袋がインターホンを押す。
――― ピーンポーン
『いらっしゃーい。開いてるよー』
――― ガチャ
お袋は玄関を開け中に入る。
「こんばんはー。お邪魔しまーす」
「「お邪魔しまーす」」
玄関に入ると、自分の家と左右対称の間取りに違和感を覚える。
お袋の後に奈々菜、そして俺と続く。
両手が塞がっている俺は脱いだサンダルを揃える事が出来ない。
奈々菜が料理を溢さないように俺のサンダルも揃えてくれた。
「ありがと ニコ」
「どう致しまして ニコ」
我が家の習わし。
何かして貰ったら『ありがとう』と言って『ニコッ』と微笑む。
『ごめん』とか『すまない』とかを『申し訳ない』とか謝るような言葉は使わないというルールだ。
皆それぞれに料理を持って勝手にリビングに上がる。
兎に角左右対称の違和感が凄い。脳が何かを修正しようとしているのを感じた。
「いらっしゃーい」
「こんばんは」
キッチンではおばさんが料理の盛り付けをしていた。
リビングにはローテーブルが二つ置かれ、そことは別のダイニングテーブルの片隅では両家の父親達が少ないツマミで既に出来上がっていた。
※ ※ ※
——— 私は藍の部屋で少し談話して、キッチンに立ち、お母さんの手伝いを始めた。
おじさんの前に出ると、おじさんは私を見るなり驚く。「随分と——— 」なんて言葉を掛けられるが、おじさんの反応は一般の人とは違ってなんだかドライだ。
——— あれ?
そして後から出てきた藍を見て奈々菜ちゃんと勘違いして驚き、そしてそれを肴にお酒を酌み交わす。
——— 午後六時。間も無くお客さんが来る時間だ。私はリビングの中央に置かれたローテーブルに食器を並べ始める。するとインターホンが鳴り母が応える。そして ———、
「「お邪魔しまーす」」
真壁家の三人が揃ってリビングに上がって来た。私はリビングのローテーブルに皿を並べ終わったタイミングで顔を上げ挨拶をしたんだけど……。
「――― あ、いらっしゃい、こんばn……わ」
顔を上げた瞬間、私は挨拶も中途半端に、目の前に立っていた男性に目を奪われた。
奪われたのはいいんだけど、
——— 誰この人? あれ? 真壁家の人なのは間違いない……よね? 真壁家の兄妹は二人……今此処に居ないのは宗介……さん⁈
私は思いっきりガン見した!
目を見開いてガン見した!
今迄異性を見てカッコいいなんて思った事は無かった。
初めてだ。
男性を見て素直に「カッコいい♡」って♡付きで思ったのは。
いや、「カッコいい」って思う事自体が初めてだ!
私の初めての一つ……いや、一度に二つも持ってかれた!
ウソ!
マジでやばい!
やばい♡
藍から聞いた話で想像した五倍は上を行ってた!
うわー……この人と電車で密着してたなんて……肩並べて歩いてた……。
うわー……。
うわー……♡
そう考えたら急に恥ずかしくなってきた。
しかし本当に格好良い……。
綺麗?
美しい?
男なのにそう思える……。
セクシー?
――― 上手く表現出来ない。
当てはまる形容詞が無い。
目の前の男性を勝手に宗介さんと決めつけたまま話すけど、宗介さんは普段顔の前に垂らしている前髪をカチューシャで上に上げ、そして後ろ髪はゴムで一つにまとめている。
前髪を上げ、綺麗で格好良くて素敵な顔を惜しげもなく曝け出していた。
何処となく中性的だが男性味が強い感じだろうか……夢に出てくる「白馬に乗った王子様」ってこんな感じなんだろう♡
両手に料理を持っているが、腕まくりされたシャツから覗く筋肉が、良い感じで私の目を魅了し、浮き出た血管が力強さとセクシーさを演出している。
何この演出イケメン♡
そして極め付けは…………胸元♡
——— シャツのボタン、三つ外しは反則だぁ♡
私は暫く宗介さんと目が合っていた……らしいが、そんな事、全然気付いていなかった。
「お姉ちゃん皆来た? あ、こんばんわぁ♪」
藍が奥から顔を出して挨拶をする。そして目の前の男性に声を掛けた。
「わお♡ 宗介さんその格好で来たんだ♪」
やっぱり宗介さんかぁ♡
やっばい♡
——— 私は暫く宗介さんから目が離せないでいた。
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