第4話 出会い④

 ——— 私は『お出掛け』が苦手だ。理由は人目に付くからだ。

 人の目に付くって、『自意識過剰だろ』とか『人目に付く程度で、お出掛けを苦手にするな』と言われそうだけど、結構深刻な状態なので……この話の最後にその『状態』をお披露目する事になるから焦らずじっくり読んで欲しい。

 ま、何時迄も『苦手』と逃げてても仕方がない。明後日から学校が始まるからね。

 なので、今日は練習を兼ねて、この街の繁華街に踏み込んでみた。当然藍と一緒だ。

 今、街の中心にある繁華街に立っている。

 以前住んでいた街もそれなりに大きかったけど、流石に此処とは比べ物にならず、ちょっとドキドキしていた。


「うわぁ……凄いねこのアーケード。三階建ての建物がスッポリ入ってるよ」

「いやー、スマホの便利さ痛感するぅ♪ 初めての街なのにどこに行けばいいのか迷う事が無いよ。最高♪」

「来週は違うところ行ってみようか?」

「賛成♪」


 スマートフォン調べによると、この町で買い物を楽しめる場所は、今、私達が居る、町の中心にあるアーケード街、北にはデパートが立ち並ぶショッピング街、南は郊外型のショッピングモールと大きく三つに分けられるようだ。

 モールも郊外型だが電車で行く事は可能だ。

 因みに移動時間は北も南も十五分から二十分とそう遠く無い。

 今日は駅前にあるアーケード街で買い物だ。


「人通りも多いからお姉ちゃんも周りに溶け込んで目立たないんじゃ無い?」

「それ以前にあんた目立ち過ぎ」

「お陰でお姉ちゃんに視線行かないじゃん」


 結構目立ち気味の藍の装いは『制服風ガーリースタイル』だ。頭にはベレー帽を被っている。

 通り過ぎる殆どの人が思わず見る程、可愛いらしい顔立ちをしている。藍の容姿とそれに見合ったコーディネートはかなり目立つ。

 そしてその隣を歩く私の装いは、トップスは白のブラウスにライムグリーンのレディースジャケットを羽織り、ボトムスには白の七分丈のパンツだ。裾にリボンが付いている。その辺にいる女性の装いだと思っているんだけど、藍に言わせると、


「お姉ちゃん、背もソコソコあるしスタイルいいから何着てもシルエットがカッコいいんだよね」


 との事だが、私を褒めても何も出ない。

 頭にはツバの大きいキャスケット帽を被って、顔が見えないようにしつつも、更に前髪で目元を隠して、更に更に、縁が黒くて太いちょっと無骨なメガネを掛けて、尚の事、顔が確認し辛いようにしている。

 顔の角度次第でそのツバからメガネがチラチラ顔を覗かせる。

 因みにメガネは度が入っている。伊達ではない。

 そうこうして、私達はアーケードの端まで歩いた。


「今日の目的終了! お姉ちゃん後なんかある?」

「無いよ」

「じゃっ、帰ろう!」


 ここまで寄り道しながらだけど結構な距離を歩いた。戻るのに少し距離があると感じたのか、藍はスマートフォンで交通機関を確認している。


「あ、地下鉄の駅、直ぐそこだよ♪ 電車で移動しよ」

「地下鉄か……いいよ」


 お店に立ち寄りながら歩いたから、歩き疲れた感はある。

 あの距離を今から戻るのはちょっと億劫だ。私は藍の提案に乗ると、二人で地下鉄のホームに向かった ―――。


 ――― 地下鉄に乗り、街の中心に近い駅に着く。中心ピタリの駅じゃ無いのは色々都合が有ったんだろうなと、勘繰るポイントなんだろう。


「結構人多かったね。地下道であっちの駅と繋がってるみたいだけど……一回外出る?」

「……うん……ごめん。人が多くてちょっと怖い」


 電車を降りると乗り慣れた人達が一斉に同じ方向に歩いて行く。

 皆、この駅と在来線の駅を結ぶ通路に向かっているのだ。

 私はこの人混みの流れが凄く苦手だ。なので少し待って、人が閑散としてから私と藍は地上に上がった ———。


 ――― 駅ビル前に広がるペデストリアンデッキ歩道橋のでっかいやつに上がり、駅ビルの中に入る前に一呼吸置く。


「ふぅ……結構歩いたね……」


 一息吐く藍。私は電車の時間を調べるが、そこそこ本数が走っているようだ。なので電車の時間を気にする必要は無さそうだ。

 駅ビルに入ると目の前に結構な広さの本屋があった。その本屋を見て藍が買い忘れを思い出す。


「駅ビルの中に本屋さん在るんだ……あ、そうだ! 問題集買うの忘れてた! お姉ちゃんちょっと待ってて」


 新学年になろうとしているのに早速問題集を買おうとする藍。

 結構、努力家だったりするから姉としてもそこは見習いたいところだ。

 私は本屋に用事がない。ちょっとこの街の……いや、駅の雰囲気にも慣れたいところだ。私は藍と一緒に店に入らず、訓練を兼ねて外で待つ事を選んだ。


「私、外待ってるよ」

「分かった。それじゃあ……ここで待ってる?」


 私は最初、本屋の入り口で待とうかと考えるが本屋の入り口付近に立っている人は居ない。というより、少し通路が狭くて人を待てる環境では無い。ここで待てば少しだが注目を浴びやすい……パスだ。

 辺りを見渡しふと遠くに目をやると、この駅に着いて最初に目に付いた『ステンドグラス』が見えた。そしてその前に人を待っているのであろう、立ってる人が沢山居る。枝を隠すなら森の中。人を待つなら人を待つ人達に紛れれば自分は目立たない。


「——— あそこ。ステンドグラスの前に居る」

「分かった。すぐ戻るよ」


 藍と別れて私はステンドグラス前に移動する。

 すると目の前に様子がおかしい男性が居た。男性は通路中央にある柱に手を付いて下を向いて立っている。明らかに具合が悪そうだ。

 大丈夫だろうか? なんか膝が折れかかっている。

 私は今にも倒れてしまいそうな男性に駆け寄る。

 しかし一歩遅く、手を差し伸べる前にその男性は崩れるように倒れてしまった。


「あ! 大丈夫ですか! しっかりして下さい!」


 私は咄嗟に叫んだ。付近を歩く人、ステンドグラスの前に立つ人、様々な人が倒れた男性と私に注目していたが、私はそんな事に気付きもせず、男性に声をかけ続けた。

 すると直ぐ、スーツ姿の女性が目の前に現れた。


「どうしたの?」

「突然倒れて……」


 女性は男性に声を掛ける。


「大丈夫ですかぁ……呼吸はある。脈は……」


 看護師だろうか。女性は慣れた手付きで男性の状態を確認していく。後ろの方からは『——— 救急車を……』という声も聞こえて来た。


 ——— 私に出来る事は終わった。


 そう思ってこの場を去ろうと頭を上げた。

 すると私は自分の周りに人集ひとだかりが出来ていた事に初めて気付いた。

 そしてその人達の視線が自分に向けられている事に

 その瞬間、私の手は震え始める。呼吸もまともに出来ない。そして硬直する体。


 ——— 発作だ。


 私はもう自分の体をぎょする事が出来なくなっていた。


——— やばい……体が……周りの視線……藍……助けて……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る