第2話 出会い②

 前話から視点はちょっと変わって、私の名前は『桜木翠さくらぎすい』と言います。

 先日引っ越して来たばかりのこの春高校一年になる女の子だ。引っ越してきたばかりなので、言わばこの土地の生活はまだ初心者である。

 

 隣の部屋の住人が我が家に挨拶に来ていた時、私は妹の『あい』と母に頼まれた物を買いにスーパーに来ていた。

 勿論、隣の部屋の住人が挨拶に来ていたなんて知る由もなく、スーパーで買い物を済ませ、そして一路マンションに歩いて戻っていた。


「この辺のスーパーってあそこしか無いのかな?」


 妹はそう言いながらスマートフォンでスーパーを検索している。


「歩きスマホ止めな……スーパーならそこともう少し離れたところにあったね。そっちは歩きじゃ遠いかな」

「あのスーパー、昨日と今日と行って思ったけど結構おっきいよね?」

「うん……でも大き過ぎて商品探すの大変だけどね」

「私は楽しいけどな。色んな商品置いてるし」

「物が有り過ぎ。少ないのも困るけどあり過ぎるのも困るね」

「だね、探すの大変だ」

「……大変ついでに、こっちの荷物……ちょっと大変なんだけど……持って」

「むーりー! だって重いんでしょ?」

「重い物持てる女の子は男の子にモテるんだよ」

「大丈夫。余ってます」


 余ってる……別に妹に彼氏が沢山いる訳じゃない。

 藍は黙ってても男の子にモテる。そして同性からの人気もある。

 姉の目から見ても可愛らしく、愛嬌もあるし性格も悪く無い。

 うーん……『悪くない』はちょっと語弊があるかな?

 そもそも良い悪い以前に『自分』を周りに見せていない。

 自分を見せないから他人には良いところも悪いところも見えていない。

 なので『容姿が良い』という好印象に引っ張られて周りが勝手に『藍は良い子』と思われているようだ。

 そもそも妹は前の学校で色々有ったもんだから、今回の転校は願ったり叶ったりである。

 斯くいう私も同じなのだが……。


 ——— マンションが見えてきた。

 私達がマンションを出る時、隣の部屋は引っ越し作業中だった。新しい住人と顔を合わせるかと思ったが、荷物は運び終わった直後だったようで、通路ですれ違う事は無かった。

 マンションの外に出るとトラックは後片付けが終わって、今にも出発しそうな雰囲気でいた。


 ——— マンションに着くと引っ越しの痕跡は既に無く、何事も無かったかのような状態になっていた。

 私はふと、父に教えて貰った引っ越して来た一家の話を思い出す。


「隣って、お父さんの子供の頃からの友達なんでしょ?」

「うん、そう言ってたね。で、子供達の歳が私達と同じらしいけど……仲良く出来るかな?」


 ちょっとちょっと……藍は楽しみにしているようだけど、前の学校での反省はどうした? 

 藍のこういうところがちょっと抜けてるところなのだが……ついでに言うと私は隣の兄妹には全く興味が無かった。


「別に同じ歳だからって仲良くする必要は無いでしょ。私的には私のなり見てし」

「会っても無いのに突き放すような言動ってヤダねー」

「あんたも前の学校でも教訓活かしなよ。折角リセットできるんだから」

「分かってるって、大丈夫! に乗ったつもりで傍観してな」

「……それ沈没するやつ」


 マンションに入り、エレベーターに乗る。そして自宅の玄関の前に着きドアノブに手をかけると、


 ――― ガチャ。


 隣の部屋の玄関が開いた。

 当然、私と藍は動きを止め、開いたドアの方に目をやる。すると二人の人影が出て来たのだが、最初に出てきたのは……あれ? 

 私は一瞬目を疑った。

 

 のだ。

 私は驚き隣を見る。

 

 私は狐につままれた気分だ。

 部屋から出てきた女の子は身長は藍と同じ位で、黒髪をポニーテールに結えている。ただ、その子が醸し出す「凜」とした空気は、残念ながら藍は持ち合わせていなかった。

 ――― そして二人目は髪の毛がボサボサの男が出て来た。

 手には帽子を持っている。

 結構大きい人だ。

 身長175㎝位だろうか? 

 私は男の顔を見るが……前髪が顔に掛かっているのとメガネでよく見えない。

 さっきは「私のなり見てガッカリして欲しい」なんて言ったけど逆に男のなりを見てガッカリしてしまった。


「こんにちは」

「こんにちわぁ」


 藍に似た女の子が挨拶をしてきた。流石に声は明確に区別が付くくらい全然違う。

 藍がすかさず挨拶を返す。

 そして男も藍を見て明らかに驚きつつも私達に会釈だけして手にしていた帽子を深く被り、女の子とエレベーターの方へ歩いて行った。私も男の会釈に応じ、藍と共に部屋に入った。



 ※  ※  ※



 ——— 俺は奈々菜と夕飯の買い出しに近くのスーパーへ向かっていた。今の御時世、初めての街でもスマートフォンが有れば迷う事無く街を歩けるから便利だ。


「さっきの女の子、可愛かったね」

「いやいや、可愛かった以前に『なんで奈々菜がそこに立ってる?』ってビックリしたぞ」

「そんなに似てた?」

「似てた似てた。双子かドッペルゲンガーかと思ったわ。隣のおじさんとおばさんがビックリしてた理由分かったよ」


 ただ、思い返すにあの女の子は奈々菜と違い『可愛い』感じがした。『愛らしい』面持ちは奈々菜は持ち合わせていない。

 奈々菜が『綺麗』ならさっきの女の子は『可愛い』がピッタリの言葉だな。

 そんな事を考えていると奈々菜はもう一人いた女の話をする。


「もう一人の人お姉さんだよね?」

「お袋さんじゃ無かったな」

「だよね……正直お姉さんの方は……個性的?」

「——— だったな」

「帽子で顔が良く見えなかったし、前髪で目が隠れ気味だったし……眼鏡も黒縁で無骨に大きくて尚のこと顔が良く見えなかった……って、丸っ切り今のお兄ちゃんじゃん!」

「はは……確かにな。向こうも俺見て同じ事思ってるだろ」

「お兄ちゃん髪切ればカッコいいのに……勿体無い」

「いいんだよ。面倒事はもう御免だ」


 俺達はそんな会話をしながら買い物カゴに商品を入れて行った ———。



 ※  ※  ※



 ——— 私と藍は買って来た荷物をダイニングテーブルに置いて、袋から商品を取り出しテーブルに置いて行く。


「ただいま。買って来たよ。でさ、隣の兄妹に会ったよ」

「あらそう? 妹さん、藍とソックリだったでしょ?」

「うん、ビックリしたよ。隣に藍が立ってたのに隣の部屋から藍が出て来たって思ったもん。あっちも藍見てビックリしてたみたい」


 ——— 私は母と、暫くそんな会話を交わして自分の部屋に戻った。


「ふぅ……買い物も楽じゃないな」


 私は机に座り、、額の汗をぬぐった。


「明日から四月か……暑いわけだ……」

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