イケメンと美少女がイケメンと美少女である事を隠しながら学園生活を無難に過ごす物語

にもの

第一章 真壁宗介

第1話 出会い①

 ここに一人の女の子がいる。

 その女の子の容姿は、髪はボサボサの黒髪で、前髪で目元を隠している。そして、普段から無骨なメガネを掛けていて、より一層目元が見えないようにしている。

 肌は白いが顔にはあざと迄は言わないが濃いめの雀斑そばかすがあり、その印象はちょっと根暗で地味な女の子……。


 ——— この物語はその女の子と俺の出会いから始まる。

 ただ、俺達の最初の出会に「ドラマチック」や「ロマンチック」という要素は一切無く、マンションの通路で顔を合わせただけだった。



 ※  ※  ※



「——— やっと運び終わったぁ!」

「お疲れさん。段ボールから出すのは後でいいぞ。少し休憩してろ」


 俺は引っ越しの荷物を全て自分の部屋に入れ、部屋の真ん中に腰を下ろして一休みする。

 俺の部屋の荷物の大半が『本』だ。

 知ってる奴は知っている。本が入った段ボールは滅茶苦茶重い! 今度引っ越す予定のある奴は、本は処分する事をお勧めする。

 しかし明日で四月だ。なのにこの地方はまだ肌寒い。聞けばこの辺の桜が咲くのは四月中旬頃だと言う。ただ、肌寒くても動けば当然汗は掻く。

 俺は頭を覆っていたタオルを取り汗を拭った。


「ふぅ……あちぃな」


 タオルを取れば髪が肩まで垂れ下がる。前髪も目元まで落ちる。

 髪は長いが一人称は『俺』。性別はそのまま男。名前は『真壁宗介まかべそうすけ』だ。

 タオルで汗を拭い、窓から入る冷たい風が汗を冷やして心地よい。

 心地良さに陶酔してると親父が部屋に顔を出した。

 そして唐突に謝罪してきた。


「高校入学直前に転勤なんてスマンな。見知らぬ土地の見知らぬ高校に入学って辛く無いか?」


 親父は俺が高校入試というタイミングで引っ越した事を謝るが、親父は転勤族だし俺はそれを理解している。

 俺自身引っ越しは今回で二回目だが、物心付いてからの引っ越しは初めてだ。

 一度くらい『転校』ってやつを経験したかったが、転勤族と言いながらも十数年、転勤が無いのもどうなんだ? と、ちょっと思ったりもする。

 ま、俺にとってはそんな事はどうでもよくて、普通であれば高校入試のタイミングでの引っ越しはキツいと思う。ただ、俺個人としては寧ろ……。


「いや、この転勤は俺としては最高のタイミングでしか無いんだが……」

「まあ、お前に言わせりゃそうだろうな。そう言ってくれれば俺も気が楽になるよ」


 前の街では色々あって、俺はその色々をリセットしたかった。しかも『高校一年』からと、タイミングとしては申し分無い。

 すると、隣の部屋で作業をしていた妹の奈々菜なななもペットボトル片手に俺の部屋にぐったりしながら入って来た。


「ハァ……こっちも終わったよ。はい、お兄ちゃんゴム。髪の毛バサバサ。あとお水」

「サンキュ」


 妹は俺の隣に座ってペットボトルに口を付け、窓から入る風を気持ちよさそうに受ける。

 俺は妹に渡された髪留めのゴムで自分の髪をゆわえる。首元にへばり付いていた髪が取れ不快感が消えた。

 そして、少し冷たい空気が首元を撫でていく……その気持ち良さに目を細める。うーん、気持ちいい……。

 親父は奈々菜にも謝罪する。


奈々菜なななも転校すまないな」

「うーん……今度の学校エスカレーター式でしょ? 編入試験は有ったけど、来年の高校受験考えれば、もう受験勉強する必要ないし……いいんじゃない? 私もお兄ちゃんと同じで色々リセットしたかったしね」

「そう言ってくれると助かるよ」


 妹は今度中学二年だ。今回も引っ越しは奈々菜にとっては『転校』になる。

 奈々菜もこの転校はラッキーな面が多い。

 妹もまた、前の学校では色々厄介ごとを抱えてきた女の子だ。


「そうそう、隣のお宅、お父さんの子供時代からの友人だから会ったら挨拶しとけよ……って、隣に限らず通路で人と会ったら挨拶な」


 親父が突然話を変えて来たが、我が真壁まかべ家が引っ越して来たマンションは会社が手配した部屋になる。所謂「借り上げ」というやつだ。

 なのでこのマンションに住む何世帯かは親父と同じ会社の人間と言う事になる。

 親父の言葉にお袋がキッチンで反応する。


「え? お隣、桜木さん? いつ振りかしら? 娘さん達、宗介、奈々菜と同い年だったね」

「同い年どころか宗介とあっちの上の娘は誕生日が同じだぞ」


 聞けば隣の家の上の娘と俺は同い年で三歳まで遊んでいたそうだ。ただ全く記憶に無い。

 奈々菜も同じ歳と聞いてちょっと警戒している様だ。前の学校での事を思い出したらしい。

 ついでにに言っとくが、『幼い頃一緒に……』の言葉でこの物語の展開に『幼馴染』的なラブコメディーを期待したなら申し訳ない。ラブコメには間違いなのだが、幼馴染要素は全く無い。

 俺自信も『幼馴染と』ラブコメ展開を望みたいところではあるが、それ以前に『娘』というワードに俺の警戒心は強まったところだ。

 ハッキリ言ってその『娘達』とは関わりたく無いと思っている。


 ——— 作業の手が止まったところで。休憩がてら、家族四人で隣の家に挨拶に伺った。

 インターホンを押すと先に女の人が出て来た。その後におじさんだ。

 お袋達の反応を見るとどうやら奥さんと旦那さんのようだが、しかし奥さんの方は綺麗……と言うか『可愛らしい』人で、旦那さんは『スタイリッシュイケオジ』だ。俺の親父とはちょっと違う。

 ついでに言うが、俺のお袋は『綺麗系』おばさんで、親父は『ワイルドイケオジ』だ。身内の俺が言うのもなんだが、妹を含め、我が家の顔面偏差値はかなり高い。

 隣の娘二人は丁度買い物に出たばかりで不在だった。

 そしておじさんとおばさんが凄く驚いていたのだが……今はここでは伏せておく。


 ——— 挨拶を終えると、親父とお袋は再び引っ越しの荷解きに取り掛かった。

 しかし親父もお袋も元気だ。少し作業を進めると、お袋からお使いを頼まれた。


「ねぇ宗介、奈々菜と夕飯買ってきて。台所片付かないから、お弁当とか惣菜でいいから」

「あー、俺はビールのつまみになるようなやつ二品あればいいや」


 お袋に頼まれ、俺と奈々菜は買い物に出る。

 しかし親父のビールのつまみって……今、冷蔵庫は動いていない。ビール温くねぇか?

 俺は出掛ける為、結えた髪を解き伊達メガネを掛け帽子を手に持ち、家を出た。


 ——— 家を出た瞬間、俺は『狐につままれた』

を体験する。

 人間、ソックリな人が三人いるってよく言うが……さっき隣のおじさんとおばさんが驚いた理由が分かった。

 正直、俺は目の前の光景に、これが『ドッペルゲンガー』ってやつかと鳥肌が立った。

 あ、この物語はオカルト展開は一切ないので悪しからず。

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