第164話 旅立ちに向けて(4)


 【終末の予言】の成就じょうじゅはされなかった。

 結果、その大罪ペナルティを『グラナ』が背負せおうことになる。


 【終末の予言】が書かれた詩篇しへんを書き換えたのが、グラナだからだ。

 本来は神々が地上の人々に試練を与え、それを乗り越えることで次の舞台ステージへとみちびくための予言である。


 それを『実行できなかった』ということは神失格ともいえる。

 一時的な神格の剥奪はくだつや、この世界からの追放など――責任という名の――なにかしらの処置バツくだるハズだった。


 だが、グラナはこの世界の神ではない。異界の神であるグラナの場合『邪神として認定され、封印されるのではないか』というのがエーテリアの予想だ。


 信仰がなければ、神は存在を保てない。

 眷属もなく、長い間封印されるのであれば、人々の記憶に残ることもないだろう。


 それはグラナの消滅を意味する。

 この世界の人々にとっては、なにも問題のない解決方法だ。


 ただ、俺がグラナを眷属としてむかえた事によって、彼女(?)の大罪ペナルティを――俺が代わりに――背負うハメになってしまった。


 とはいっても、俺は異世界人である。

 この世界の法則には、当てまらないらしい。


(『治外法権』みたいなモノだろうか?)


 卑怯ひきょうな気もするが、俺が異世界から連れて来られた理由が分かった気がする。

 選ばれた――と言えば聞こえはいいが、要は生贄いけにえだ。


 神々による代理戦争のこまみたいなモノらしい。

 まあ、今更いまさら気にしても仕方がないので――


精々せいぜい、利用されるとしよう……)


 都合よく使われることにはれている。少なくとも、エーテリアを裏切る理由も、この世界の人々を見捨てる理由も――今のところ――俺にはない。


 また、だからといって大罪ペナルティを『まったく受けなくてもいい』というワケでもなかった。エーテリアの説明によると、制限時間タイムリミットは『一週間』といった所のようだ。


 それが過ぎると、俺は強制的に――1つ前の詩篇しへんが効力を発揮している時代――過去へと飛ばされてしまうらしい。


(要は再び『世界を救済しろ』という事なのだろう……)


 つまり、アレだ。これは改変された詩篇を『すべて取り戻せ』という話である。

 過去の世界で詩篇を回収しても、更に旅は続くだろう。


 俺の冒険の旅は――当分の間――終わりそうにない。

 ここは考え方を切り替えて、次の冒険の準備をした方がいいだろう。


 すでに結婚式とその支度したくで、半分以上の時間を使ってしまっている。

 俺がすべき事は『誰と一緒に過去へと飛ぶのか?』そのための仲間を選ぶことだ。


 連れて行けるのは4人。今の俺の能力ちからだと、それが限界らしい。

 いつの間にそんな人間離れした能力ちからを得たのだろうか?


(今は深く考えない事にしよう……)


 条件としては『連れて行く人間』と『俺』との間に【信頼関係】があればいいようだ。まあ、それほど悩む事でもない。


 まずはイスカを連れて行くのは確定だろう。

 結婚した手前、いきなり未亡人にするワケにはいかない。


 それにエーテリアのお気に入りだ。

 治癒魔法が使えるので、回復要員としても役に立つだろう。


 問題は彼女になついていた子供たちである。

 イスカが居なくなると知ったら――


うらまれそうだな……)


 まあ、平和になったので、神殿も孤児の面倒は見てくれるハズだ。

 そこは頼らせてもらおう。


 必然的に、次はミヒルとなる。イスカが居たのなら、彼女にあずけて、置いて行くことも選択肢に入るのだが――1人で残していくには――まだまだ不安だ。


 単純な戦闘能力なら、大男よりも強いだろう。

 性格が戦いに向いているかは、別の話だが――


(残るは2人……)


 能力的には蜥蜴人リザードマンのガハムと青年狩人だろうか?

 戦闘時も前衛と後衛がそろうことになる。バランスはいいハズだ。


 ただ、青年狩人はしばらくの間「留守にする」と言っていた。

 街に冒険者がいないので、ギルドの依頼をこなす予定らしい。


 ガハムはガハムで、数少ない蜥蜴人リザードマンたちの貴重な戦力だ。

 グガルとダタンにげたのなら、


「連れて行ってくれて、ぜんぜんかまわねぇよ。むしろ、連れて行ってくれ」


 などと言葉が返ってきそうだが――


(実際、魔物モンスターとの戦闘がなくなったワケではない……)


 まだまだ、ガハムの戦闘能力は蜥蜴人リザードマンたちに必要だ。

 そういうワケで、次点は女剣士と大男になるのだが――


(2人とも、就職先が決まっている……)


 女剣士は今回の実績が買われ、軍の隊長として国に勧誘スカウトされた。

 この都市を国として立て直すらしく、そのためにも軍を編成し直すようだ。


 兵士たちからも「是非ぜひに!」という声が多かったと聞く。

 あれだけしごかれたにもかかわらず、彼女のファンは大勢いるらしい。


 一方、大男の方も「仲間たちと傭兵家業を始める」と意気込いきごんでいた。

 しばらくは仲間たちと農作業をしつつ、依頼があった際には戦うらしい。


 2人とも、この都市が復興するためには必要な人材となっていた。

 後は若手文官と武器屋のオヤジだが――


(これも事務官と生産職だ……)


 ある意味、内政のかなめであり、復興に一番必要な人材でもある。

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