第160話 決着の時(7)


 巨人サイクロプスたちをどうやってあやつっていたのか、疑問だったがなぞけた。

 眼球を模倣コピーしていたらしい。


 恐らくは、あの個体の中に『魔眼』と呼ばれる特殊な能力を発現させた個体がいたのだろう。香辛料爆弾のおかげで、使用する機会はなかったようだ。


 目から熱光線を出すくらいはするのかもしれない――と思ってはいたが、石化攻撃とは予想外だった。早めに視力をうばったのは正解だったらしい。


 まあ、どの道――魔力が足りなかったようなので――巨人が『魔眼まがん』を使用したとしても、そこまでの被害は出なかった可能性もある。


 仲間の魔物モンスターたちも巻き込んでいただろうから『魔眼』を使用できる場面シーンは限られていただろう。とはいえ――


(香辛料爆弾が効く相手でもないか……)


 『白闇ノクス』は必要に応じて『魔眼』となる部位を隠しているらしい。

 消耗がはげしいのだろう。


 また、俺にねらわれるのを『けている』といった所だろうか?

 買いかぶり過ぎのような気もするが、警戒されているようだ。


 ここは基本姿勢スタンスは変えず、丸太を飛ばして追撃することにした。

 人気商品ロングセラーも改良を続けて行くのが基本である。


 戦術も大きく変えずに、改良を重ねる方向で行く。

 まず注意しなければならないのは石化の『魔眼』だ。


 確かに強力ではあるのだが、連続して使うことは出来ないらしい。

 まずは使用する丸太の数を変更する。


 使用するのは1本だけだ。今までは、どれか1本が命中すれば『それでいい』という考えのため、数を出すことで命中率を上げていたが――


(確実に当てる必要がある……)


 同時に砂を弾丸のように連続して飛ばすことにした。

 砂と一緒に複数本の丸太を同時に使用した場合、さばき切れない可能性が出て来る。


 今、優先すべきは砂の射出だろう。

 『白闇ノクス』に向けて攻撃するが、少し高い位置をねらう。


 砂まみれにすることで、周囲の視界をさえぎる作戦だ。

 俺は防護眼鏡ゴーグル防塵布マスクを装着する。


 砂が風にうので――この周辺だけ――空の色が黄色く染まった。

 相手の目をつぶせないのなら、えて視界を悪くすることで対応するしかない。


(こちらも『白闇ノクス』を追うのが大変になるが……)


 また、空を歩くことが可能になる技能スキル〈スカイウォーク〉には制限時間がある。

 俺は丸太に両足をついて立つことで、足を休めることにした。


 こうなると丸太が乗り物あつかいになるようだ。

 俺が乗っている事で、丸太の速度スピードは加速する。


 地走鳥ロックバード速度スピードが上がった時と同様というワケだ。

 よって砂が当たるため、防護眼鏡ゴーグル防塵布マスクの装着は必須といえた。


 しかし、流石さすがに機動力は翼を持つ『白闇ノクス』の方が上のようだ。

 しばらくの間、追いかけっこをするハメになってしまう。


 距離を詰めるのであれば、コーナリングだ。『白闇ノクス』が回避行動のため旋回すると、俺は丸太を収納し、別の丸太に乗り換える。


 上手うまくターンを決めることで、距離を離されずに付いて行くことが出来ていた。

 だが、相手に疲れる様子はない。


 逆に時間を掛ければ、体力スタミナ道具アイテムに限りがある分、こちらが不利だ。

 まずは砂をくことで上に逃げ道を作り、『白闇ノクス』を上昇させる事にした。


 相手も『魔眼』という切り札を持っているためか、砂を嫌っているらしい。

 思惑おもわく通り誘導するのは、そうむずかしくなかった。


(こっちも、だいぶれてきたな……)


 俺は『豊穣ほうじょうの杖』を取り出すと、丸太に魔力を注ぐ。

 時間差――というのをためしてみることにする。


 今までは魔力を注ぐと同時に植物も成長させていた。

 だが、今回は成長を待つように指示を加える。


 そして、丸太をロケットのように上へ飛ばすと、一気に大樹へと成長させた。

 当然のようにけようとした『白闇ノクス』だが、おどろいたようだ。


 高速で打ち上げられた丸太が、大樹へと変化し、急激にその体積を増やした。

 大きく回避すると同時に、木の枝葉や根が邪魔で俺の姿を見失ったハズである。


 つまり、取った行動は回避ではなく『魔眼』だ。周囲に石化の光を放つことで、回避行動を取る必要がなく、視界をさえぎる大樹も一掃いっそうできる。


 警戒けいかいしている俺からの『不意打ちも食らうことはない』とんだのだろう。

 だが、それこそが俺のねらいである。


 一九九〇年代――ゲームの黄金期とも言える時代を経験してきた。

 目を開いた時にボスを『攻撃する』というのは、ゲームでも定番中の定番。


 前回の砂と同様にスライム粘土を周囲に展開――全身に粘土をまとわせるのに抵抗はあったが――粘土のかたまりとなった俺は大樹へと成長した枝の中から飛び出した。


 数々の国産家庭用ゲーム機で遊んできた俺にとって――いや、昭和の子供にとって――石化攻撃を使うボスの相手など、赤子の手をひねるようなモノだ。


 対策はいくつか知っている。スライム粘土は石化したが、中身の俺は無事だ。

 なにやら石膏像せっこうぞうの気分だが、


「今です!」


 視界がゼロの中、俺はエーテリアの言葉を信じて丸太を放つ。

 俺が突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。


 『白闇ノクス』は至近距離で丸太をち込まれる事となる。肉体を持たないため、手応えは分からないが『魔眼』を使用している最中と直後は動けないのだろう。


 技能スキル〈ホーリーウォーク〉を発動した。

 同時に石化したスライム粘土を破壊する。


 大樹も石化し、しろになったようだ。

 地上へ落下する前に、小石を放って粉砕しておく。


 一方で丸太が命中し、光の柱に再びつらぬかれる『白闇ノクス』。

 どうやら、丸太は頭を貫通していたらしい。


 胴と頭が切り離される形になったようだ。

 意識は頭にあったのか、胴体の方は霧散むさんするように消えていく。


 どうやら、決着はついたようだ。俺は指輪を取り出すと、エーテリアの力を借りて『白闇ノクス』こと『グラナ』を指輪へ封印したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る