第159話 決着の時(6)


 まあ、そもそも、あの2体の巨人が協力して攻めてきていれば、こちらが勝つのはむずかしかっただろう。


 攻める計画を立てることは出来ても、個々の性格までは把握はあくできていないようだ。

 それは日本の会社にも言えることだが――


 『人材不足』と言ってはいるが、それは人を『こま』や『歯車はぐるま』としてあつかってきた結果でしかない。


 勿論もちろん、氷河期世代を見捨てたことも大きい。

 管理職やベテラン社員が不足している。


 つまり若手を教育できる人材が、そもそも『ない』という事だ。

 また、社員の中長期的な育成も出来ず、技術やノウハウが引き継がれていない。


 普通に考えるのなら、相当な痛手だろう。

 組織という観点からすれば、間違ってはいないのかもしれない。


 だが、その結果が今の日本であるのなら――


(笑えない冗談だ……)


 働き方の改革や多様化といっても、所詮は国が主導である。

 自浄作用のある会社は少ない。また、終身雇用も崩壊した。


 正確には『維持いじできなくなった』という所だろうか? 結果、副業の解禁や起業のハードルは下がったので、人によっては「良かった」とも言える。


 若者の起業も増加しているようだ。心身ともにんだ俺からすると「健康である内に起業するのは、いい事かもしれない」と思ってしまう。


 独身の若者なら、子供の心配や年老いた親の世話などを考えずに済むし、例え起業に失敗しても取り返しがく。


 ただ、日本ではベンチャー企業が育ちにくいのも事実だ。

 普通に考えるのなら資金調達の面で苦労しそうだが、商慣行しょうかんこうが原因らしい。


 ベンチャー企業が『新しい製品』や『サービスを開発』しても、


「前例がない」「新しいモノはよく分からない」「ウチは現状維持」


 そんな理由で取引をこばむケースが多いようだ。

 ベンチャー企業が十分な規模に、成長できずにいる。


 一方で証券業界は手数料欲しさに、成長途上の未熟みじゅくな企業まで、無理に上場させてしまう。そのため、株価が急落して投資家が損失を出すなど、悪循環あくじゅんかんが目立つ。


 大企業が積極的にベンチャー企業を買収すればいいのだろうが『大企業病』などといった言葉も流行った。


 会社が変わるには、上層部の世代交代を待つしかないだろう。

 大企業の組織に起業家の出身者が加われば、組織の活性化にもつながる。


 また、会社から独立して起業家になる人材も増えるだろう。

 そうなれば『人材不足』の解消へとつながるワケだが――


道程みちのりは長そうだな……)


 俺は直感により、防御のための砂を展開した。

 砂におおわれ、くらになるハズなのだが――


(一瞬、光ったような気がする……)


 俺の持つ移動力が砂に付与されるため、周囲の砂はすぐに飛散する。

 この状態で――立ち止まる――という選択肢は危険だ。


 相手が常に俺の上を取ろうとしていたので、瞬時に上昇し『白闇ノクス』を探す。

 体感時間にすると数秒の出来事だ。


 『白闇ノクス』は移動せずに、同じ場所にいた。

 ただことなるのは、取り込まれていた丸太がしろになっていた事だ。


(いや、違う……)


 どうやら、石化しているらしい。

 まるで瓦礫がれきのようにパラパラと自然にくずれる。


 『白闇ノクス』の体内に取り込まれていた丸太はちりとなり、風に乗って消えてしまった。

 いったいなにが起こったのか?


 丸太を射出してもいいのだが、かわされた場合、神殿が壊れてしまう。

 俺はサッカーボール程度の大きさの〈ウォーターボール〉を作り出す。


 同時に〈ワイドウォーク〉の効果でり飛ばした。

 移動力が付与されるため、弾丸だんがんシュートとなる。


 これならけられても、地上への被害は少ないだろう。

 また、水は石化できないハズだ。


 しかし、片翼がボロボロのクセに『白闇ノクス』は器用にかわす。同時に姿を小型化する。

 俺の〈ホーリーウォーク〉により、破損した部分を再生させた影響のようだ。


 穴の開いた胴体や翼の修復に、残っている身体からだの部位を使用したため、ちぢんだらしい。あまり小さくすると――


(小回りが利くようになっても厄介やっかいだな……)


 それこそ、神殿の中に入り込まれてしまう。

 少しずつ『相手をけずる』という作戦は、めた方が良さそうだ。


 丸太を使って、一気に仕留しとめてしまいたい所だが――


(一度、地面に降りるべきだろうか?)


 謎の石化攻撃があるため、不用意に近づくのは危険だ。

 取りえず、カイトシールドを装備し、斧槍ハルバートを手に『白闇ノクス』追い掛けていると、


魔眼まがんです」


 とエーテリアが教えてくれた。

 姿は見えないが、耳元で声が聞こえる。


 そんな能力まであるのか――と感心したのだが、該当がいとうする部位パーツは見当たらない。

 肝心の目に当たる部分は眼球がえぐれたようにくぼんで見える。


「どうやら、好きな場所から出現させることが可能なようです」


 更にエーテリアは情報をくれた。彼女はすべて見ていたようだ。


(なるほど……)


 助かった、ありがとう――と俺はお礼を言うとカイトシールドと斧槍ハルバート仕舞しまう。

 光を受けてしまうと石化される可能性が高い。


 また、光を受けたのは砂だったから『石化しなかった』とも考えられる。

 最初からサラサラの砂は、石化する事はないからだ。


 砂は砂のまま――という事なのだろう。


(ならば、こちらはその砂で戦うだけだ……)

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