第158話 決着の時(5)


 俺は〈アイテムボックス〉から丸太を取り出すのをめる。

 代わりに大量の砂を出現させた。


 ちょっとしたコツがあるのだが『〈アイテムボックス〉の効果範囲を広げた』と思って欲しい。


 まあ、大きな物も収納できるし、手の届く範囲なら収納していた道具アイテムを取り出すことが出来る。


 要はイメージなのだろう。

 俺は自分を囲む形で〈アイテムボックス〉を展開した。


 結果、砂の球体が出来上がる。一時的な全方位の防御壁だ。

 欠点は視界がゼロになることである。


(この感覚、上司が急に仕事を振って来る圧力プレッシャーに似ている……)


 上司が急に振ってくる仕事など、目的地が分からないバスに乗せられるようなモノだ。経験上、不安しかない。


 こちらのスケジュールや稼働状況を無視した状況タイミングで仕事を振ってくるうえ、急いでる意味があるのか、不明なモノが多い。


 また、目的も分からずに、全力を出すことを要求されるので、たちが悪い。

 普通は当日の午前中までに依頼するなど、部下の都合に配慮はいりょするモノだろう。


 仕事なのだから『って当然』のように指示してくるから謎だ。

 こちらとしては、朝の時点で一日の仕事のスケジュールを立てている。


 そのため、印象としては余計な仕事を増やされた感覚しかない。

 露骨ろこつな嫌がらせに、ストレスがまる一方だ。


 仕事が分からず、質問してくる後輩とは事情が違う。

 えて、集中力を削ぐように声を掛けてくるのは遠慮して欲しい。


 休憩きゅうけいしている時に話し掛けてくるのなら、まだ理解できるのだが、仕事の終わった帰りぎわなど、明らかな嫌がらせである。


 まずは普段から、真っ当なコミュニケーションをはかる努力して欲しいモノだ。

 基本的に『飲みニケーション』しかしてこないので、感覚が合わない。


 仲良くなってから『仕事帰りに』というのなら理解できるのだが、れしい。

 さらに困るのは、飲みに付き合わないと必要な情報や知識を得られない事だ。


(そういうのは就業時間中に済ませて欲しいのだが……)


 また、やたらとプライベートを詮索せんさくしてくる上司も勘弁である。正直に話したからといって、家庭の事情を考慮し、業務の調整や配慮をしてくれるワケでもない。


 場合によっては、個人情報をしゃべり回るような悪質な上司もいるので注意が必要だ。上司との会話のネタは、ネットのニュース記事で十分である。


 普通に考えるのなら、こういった事が続くと、部下との信頼関係が崩壊し、モチベーションの低下につながる原因になると思うだが――


(ワザとやっているのだろうか?)


 とうたがいたくなる上司ばかりだ。

 部下の働く意欲を下げ、生産性を低下させるのが目的なのだろうか?


 まあ、ありない話ではない。管理職の椅子イスは限られているし、自尊心プライドが傷つけられる事や威厳いげんが保てない事に不安を覚える上司も多い。


 早く仕事を覚えてくれれば、会社全体に利益をもたらしてくれる――とは考えられないようだ。


 上司ならさらなる成長の機会を提供するモノだが、そうはならないらしい。必ずしも、そういう仕事を求めているワケでないが、上司の態度にはガッカリだ。


 結果、社員の組織へ対する帰属意識は薄れる。

 人間関係悪化は離職りしょくの原因としても上位に入るだろう。


 かつての日本では『滅私めっし奉公ほうこう』が美徳びとくとされていた。

 プライベートを犠牲にして、会社へくす。


 そんな働き方が持てはやされてきた。

 いまだに、そのノリなのだろうか?


 『残業する=根性がある』という考え方が根底にある上司は多い。

 だが、社員としては成長したいモノだ。


 仕事とは通常、各人のポジションによって、やるべきことが分担されている。

 例えば『管理職の仕事』と『一般社員の仕事』は違う。


 また『正社員の仕事』と『派遣社員の仕事』もそうだ。

 ポジションによって、仕事のレイヤーは分かれている。


 ただ、だからといって、同じ仕事を続けていても成長は出来ない。

 いつまでっても、上のレイヤーへ進むことが出来ないのは問題である。


 そのため、相手や組織の成長のためにも、ひとつ上のレイヤーの仕事を振るべきなのだが――


(残念ながら、そんな上司は見たい事ない……)


 これがブラック企業というモノだろうか?

 そもそも、いい大学を出ていないと『出世は出来ない』のが日本の会社だ。


 世はまさに学歴社会である。

 まあ、ブラック企業の場合、下手ヘタに出世しない方が利口かもしれない。


(『名ばかり管理職』も問題になっていたな……)


 組織としては、相手に経験値を積ませることが重要になってくると思うのだが、急な仕事については『意図』や『テーマ』が不明なモノがほとんどである。


 目の前の仕事をただこなせばいい。

 多分、そんな古い考え方なのだろう。


 人に仕事を上手く振れる人は、この辺りの意味を理解している。

 相手のレイヤー向上に『貢献こうけんする』という姿勢を持ち合わせているモノだ。


「いいからやれ」「仕事とはそういうモノだ」「オレの若い頃は……」


 などとは言わず、きちんと説明して欲しいモノである。

 配慮のない仕事の振り方は勘弁だ。つまり――


(コイツは悪い上司だ!)

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