第157話 決着の時(4)


 俺は上空の『白闇ノクス』へ向けて、5本の丸太を射出した。

 恐らく、この攻撃は体内を透過するハズだ。


 雨が効かない――という条件を前提に、相手の能力を分析し直す。

 勿論もちろん、実験する余裕はないので、行き当たりばったりだ。


 恐らく、攻撃の意志が乗った物質は『白闇ノクスの体内へ取り込まれる』と考えていい。

 そうでなければ、地面を歩いたり、走ったり、空を飛んだりする事は出来ないハズだ。


 武器での攻撃を無効化できるのに対し、地面や水の影響は受けてしまう。

 違いはなにか? 仮説として――


(人の持つ意志が関係しているのではないだろうか?)


 絶望へあらがう人の意思の強さが『白闇ノクス』の身体からだへ影響を与える。

 そんな解釈かいしゃくへといたった。


 俺は『白闇ノクス』目掛け発射した5本の丸太と一緒に突撃する。

 当然、回避行動に出る『白闇ノクス』。


 5本の丸太の内、1本にりを入れ、軌道を変更した。

 物を楽に運べる技能スキル〈キャリーウォーク〉があるので、重さは軽減される。


 一度、丸太の前へ移動し、足で180度回転させる。

 そしてり出す。


 サッカーボールをあつかうようなモノなので、意外と簡単だった。

 逃げた『白闇ノクス』を追跡するように高速で直進する。


 また、放って置くと、残り4本の丸太は何処どこかに飛んで行ってしまう。

 都市の連中はほとんどが避難ひなんしているので、人はいないハズだ。


 被害は出ないと思うが、まだ丸太には活躍してもらわなければならない。

 急ぎ追い付くと〈アイテムボックス〉へ収納した。


 基本、高速で動いているモノを収納することは難しいのだが、同じ速度スピードで動いていたのなら、まっているのと変らないだろう。


 俺の方が早ければ、動きも遅く感じられる。

 少し強引な理屈りくつだったが――


(問題なさそうだ……)


 収納後、俺はすぐに方向転換する。

 再び視界に『白闇ノクス』をとらえると再突撃した。


 4本の丸太を再度、射出する。一方で――先に打ち出した1本に対処できなかったのか――丸太は『白闇ノクス』へと直撃していた。


 背中から腹部に掛け、ゆっくりと体内へ取り込まれている途中だった。

 これで『白闇ノクス』は移動に制限が掛かるハズだ。


なにか奥の手を隠していると思ったのだが……)


 違ったか? いや、まだ油断は出来ない。

 俺は丸太に仕込んであった〈ホーリーウォーク〉を発動する。


 幾本いくほんもの光の柱が丸太から出現し、『白闇ノクス』の体内をつらぬく。

 続いて4本の丸太の内1本をり出した。


 ねらいは翼だ。そのため、先程のように『高速でり飛ばせばいい』というワケではない。


 まずは丸太のはしることで、回転を掛ける。

 すでに1本は命中しているので『白闇ノクス』は移動できないハズだ。


 急ぐ必要はない。

 クルクルと回転しながら、を描くような軌道で丸太は片翼へと命中する。


 動く翼に当てるのは難しいと思っていたが、上手うまくいったようだ。


拍子ひょうしけする程、簡単だが……)


 正直、かわされる事を想定して、丸太を5本も用意したのだが、必要なかったようだ。急いで残り3本の丸太を〈アイテムボックス〉へ収納する。


 同時に、翼へ命中した丸太に仕込んでいた〈ホーリーウォーク〉を発動した。

 先程の身体からだ同様、翼を光の柱がつらぬく。


 理屈でいうのなら――片翼をつぶしたので――飛行能力が失われたハズだ。

 しかし、先程も羽搏はばたいてはいたが、空中で静止していた。


 俺の知っている停空飛翔ホバリングとは異なる現象だ。鳥で例えるなら、もっとも有名な停空飛翔ホバリングをするのは、アメリカ大陸の『ハチドリ』だろう。


 8の字をえがくように高速で翼を動かし、まるだけではなく、後退も可能だ。

 ちなみに名前の由来だが、毎秒約55回も羽搏はばたく。


 高速で翼を動かすため『ブンブン』とハチと同様の羽音を立てる。

 その事から、ハチドリ(蜂鳥)と名付けられたそうだ。


 こうした飛び方は、枝先から虫をらえたり、花からみつを吸ったりするのに用いられる。小型の鳥ならではの飛翔方法だ。


 大型でいうのなら『チョウゲンボウ』や『ノスリ』も停空飛翔ホバリングを行う。

 だが、この場合、風を利用した飛翔方法となる。


 風上に向かって羽搏はばたくことで、姿勢をたもつのだ。

 その事から『ウィンドホバリング』と呼ばれる。


 『ハンギング』ともいい、翼と尾羽おばねの角度を風の中で調節しながら、均衡バランスを保って空中に浮かぶ。


 俺の持つ常識が正しいのだとすれば、『白闇ノクス』は別の原理で飛行しているのだろう。デザートイーグルとも戦ったが、奴らは基本、空中を旋回せんかいしていた。


 『白闇ノクス』は風の力を利用するというよりも、魔法のような能力で『飛行している』といった感じだ。身体からだも空を飛ぶのには向いていない。


 まあ、そんな事を言ったら――


天馬ペガサスなど、存在しない事になるが……)


 恐らくは『翼があるから空を飛べる』といった【概念武装】だろう。

 相手は元神様だ。それくらいのことは簡単なのかもしれない。


 有名な話なら、ギリシア神話にイカロスの話がある。

 蜜蝋みつろうで鳥の羽根を固め、翼を作って『空を飛んだ』というアレだ。


 現実で考えるのなら飛べるハズはないのだが、あの世界観では可能なのだろう。

 俺は追撃を仕掛けようと上昇し、再び残りの丸太を射出しようとした。


 相手は〈ホーリーウォーク〉で弱っている。

 たたみ掛けるには絶好の機会チャンスだと思ったのだが――


(嫌な予感がする……)

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