第154話 決着の時(1)


 大男たちの方は大丈夫だろう。

 ある意味、巨人との戦いよりも、スライム相手の方がれている。


 また、獣型の巨人との戦いも決着がつきそうだった。

 松明たいまつを持って、周囲をうろちょろとする地走鳥ロックバードの部隊が余程よほど、気になるのだろう。


 獣型の巨人は一旦、都市へと攻め入るのをめたようだ。

 ダメージを受けた足をかばうように、ゆっくりとした動作で立ち上がる。


 すると地走鳥ロックバードに騎乗する兵士たちをつぶそうと、大きく片足を上げた。

 勿論もちろん、この好機チャンスを女剣士が見逃みのがすハズもない。


 また、青年狩人も――足が一番高く上がる瞬間に――タイミングを合わせ、巨人の頬をえてかすめる形で矢を放った。


 巨人は飛んで来た矢に気を取られ、視線を動かす。

 それは動作が一瞬まることを意味した。


 地走鳥ロックバードに騎乗した女剣士は再び巨人の死角から現れ、地面に着いた軸足じくあしの方を斬りつける。水の刃と共に鮮血が舞った。


 巨人は先程斬りつけた足を軸足にしていたので、更に傷口が広がる形になる。

 生命力は高そうなので、放って置けば再生するのかもしれないが――


(もう、その猶予ゆうよはないか……)


 足に力が入らなくなったのか――獣型の巨人は――そのまま、よろけるような形で後方へと倒れた。


 丁度、ななめに下るようにほりが造られている。

 そのため、巨人には地面が消えたように感じたのだろう。


 足を踏み外したようなモノだ。その巨体は「ドスンッ!」と大きな音と砂煙を巻き上げた後「ズザザッ!」と音を立て、頭が下になる形ですべり落ちた。


 堀が落とし穴の役目を果たしてくれたようだ。

 そうなると都市を守る弓兵の矢が届く位置に巨人が来たことになる。


 恐らくは、これも作戦通りなのだろう。まるで待ち構えていたかのように――間髪をれず――巨人目掛けて矢の雨が降る。


 ひとつひとつは大したことのない攻撃だ。

 黒い獣の毛におおわれていたのなら、攻撃は通らなかっただろう。


 しかし、今は火傷を負っている。加えて『一度に大量の矢が降り注ぐ』という出来事に恐怖を覚えてしまったらしい。


 これはたまらん!――といった様子で、両腕で顔をかばいながら、巨人は起き上がろうとする。だが、そこはほりの中だ。


 傾斜けいしゃがついているだけではなく、元は砂漠のため、大半は砂で出来ていた。

 反動を付けずに上半身を起こすのは難しい。


 また、上半身を起こした所で、怪我けがをした足で立ち上がるのは困難だったのだろう。


 結果的に起き上がることは出来ず『背中からゴロンと転がる』という状態を何度なんどか繰り返していた。


(これでほぼ、勝負がついたみたいだな……)


 降り注いだ大量の矢は、なにも巨人に当てるだけが目的ではない。

 素材は竹だ。燃えやすいという性質を持つ。


 頃合ころあいを見計らって、火矢が放たれるとほりから火の手が上がった。

 昨日もダークウルフ相手に矢が放たれ、相当数の矢が残っている。


 カムディが頑張って『矢を運んだ甲斐かいがある』というモノだ。

 小火ぼや程度だが、パチパチと火がぜる音に加えて、煙も上がる。


 獣型の巨人が――その巨体で――何度なんども転がれば、火は消え、ほりくずれただろう。

 しかし、巨人は必要以上に火を恐れていた。


 逃げることに必死のようだ。

 足はダメージを受けたままなので、力が入らないらしい。


 立ち上がるのをあきらめたようで、そのまま四つんいになると――はじ外聞がいぶんもなく――ハイハイをする形で脱出をこころみる。


(結局、四つ腕の巨人とる事は変わらないな……)


 逃げる巨人に対し、更に追撃をするようなことはせず、一旦攻撃がんだ。

 矢が無くなったワケではないのだろう。


 先程、伝令が行ったので作戦と見た方がいい。

 逃げ出す巨人だったが、その行く手をさえぎるように松明たいまつが並べられていた。


 巨人は火の手のない方へ逃げようと方向転換するが、それこそが狙いのようだ。

 ほりの出口――つまりは坂の上まで――巨人が移動するのを待っていたらしい。


 笛の合図で、城壁に立っていた兵士たちが一斉に火矢を放った。

 それは巨人を狙ったというよりも『高い位置目掛けて矢を放った』という感じだ。


 遅れる形で青年狩人が風の矢を放つ。

 矢のやじり魔物モンスターつので出来た特別製で、他の矢と比べても格段に大きい。


 その矢は風をまとい、うずを発生さていた。

 風の渦は上空にある火矢をドンドン取り込んで行き、やがて炎の渦へと変わる。


 炎の渦となった矢は、地面をって逃げていた巨人の背中に直撃した。

 螺旋らせんえがく炎――威力いりょくは今までの火矢とは、まったくことなっていた。


 炎はまたたく間に燃え広がり、巨人の全身をおおう。

 とはいっても、燃え続けるワケではない。


 炎はすぐに消えたが、獣の毛におおわれた部分だけは燃え上がっていた。

 咆哮ほうこうのような悲鳴を上げる巨人。


 獣型の巨人にとって、熱さよりも炎に対する恐怖の方が大きかったのだろう。

 ひざを突く形でるように、勢いよく立ち上がった。


 まるで、そうなる事が分かっていたかのように女剣士は地走鳥ロックバードり、単身でトドメを刺す。


 巨人ののどを水の刃が斬り裂いた。場所は傾斜けいしゃだ。

 事切れた巨人の身体からだは転がるように、火の中へと落ちる。


 勝利の雄叫おたけびが城壁から響いた。

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