第153話 尻を狙え!(4)


 便意べんいに苦しむ四つ腕の巨人。

 今のヤツはひたいから脂汗あぶらあせを流し、れ流すことしか出来ない。


 ここまでは計算通りである。決着はもうすぐだ。


(我ながら、恐ろしい作戦を考えてしまった……)


 勿論もちろん、後悔はないが――実行するにしても――恐れに立ち向かうのとは別の勇気が必要となる。それを躊躇ちゅうちょなく実行できる大男は大したモノだ。


 ゲームや特撮で、敵の幹部の中には憎悪ヘイトを集めるような人材キャラが存在するが、幹部の上司サイドに立った今なら分かる。


 使い勝手がいい。

 子供の頃はどうして「こんなヤツが出世したのか?」と疑問ではあったが――


(なるほど、納得である……)


 天高く尻を突き出すような姿勢を取り、肛門をなるべく高い位置へと移動させ、腹部をおさえながら必死に脱糞をこころみる巨人。


 最早もはや、しゃがみ込む事すら困難なようだ。

 しかし――そんな巨人に対し――容赦ようしゃするような大男たちではない。


 同情して欲しいのなら金を寄越よこせ! 汚物は消毒である。

 取って置いた竹のたばわらに火をけ、しばっていた金属のくさりを振り回す。


 振り回したことにより、大量の空気が送り込まれ、激しく燃え上がった。

 今度はそれを巨人目掛けてたたきつける。


 スライムに身体からだを溶かされつつ、便意とのたたかいにくじけそうになっている巨人には『逃げる』という選択肢しか、なかったようだ。


 無様にいつくばり、プープーと放屁ほうひれ流しながら移動する。

 まるで巨大な芋虫いもむしのようだ。だが、さよとはいかない。


 大男がなにやらわめいているようなので、近くにいるガハムの台詞セリフぬすみ見る。

 仲間にしたキャラとその周囲の台詞セリフをメッセージウィンドウで確認できるらしい。


「よしっ、オレ様がトドメをす!」


 と意気込む大男。そでまくげ、気合を入れているようだ。

 トドメって――とあきれるガハム。


 確かに他の人間族リーンに比べて、大男の体格はいい。

 だが、それでもただの人間族リーンである。


 巨人を倒すような攻撃手段は持っていないとんだのだろう。

 肩をすくめたガハムは、


「精霊と契約できなかった、お前には無理だろ……」


 と言って「フー」と鼻から溜息ためいきく。

 すでにお互いを認め合った2人だ。


 これはバカにしているのではなく、大男を心配してのモノだろう。


「なら、オレが精霊だ!」


 なぞの理論を展開する大男。「フンッ!」と気合を入れる。

 フロントダブルバイセップスからのフロントラットスプレッド。


 そして、サイドチェストからの「ニカッ!」とした満面まんめんみ。

 ズキューンッ!――ガハムの心をなにかが打ち抜いた。


「そうだな、オレたちには筋肉があった」


 友情を越えたなにかで2人は分かり合う。

 大男の筋肉が、言葉の壁を越えた瞬間だった。


 今の2人に言葉は要らないようだ。

 ガハムはバックダブルバイセップスを返す。


「おおっ! これなら勝てる!」「やったぜ! 今夜はご馳走ちそうだ!」

「オレの筋肉も喜んでやがるぜ!」


 大男の部下と蜥蜴人リザードマンたちは、すでに勝ったかのように盛り上がった。

 俺には理解不能だが、これが筋肉のせる技なのだろう。


「「「筋肉マッスルっ! 筋肉マッスルっ! 筋肉マッスルっ!」」」


 熱い筋肉マッスルコール。だが、熱いのは筋肉だけではない。

 大男は大声で、空になった水瓶みずがめを持ってくるように指示を出す。


 ガハムも負けじと、蜥蜴人リザードマンたちへ同じ指示を出した。

 また、巨人のった後にはスライム粘土ねんどが出来ていた。


 大男ははだかになると、その粘土へと飛び込む。

 まるで何処どこかの部族のように全身を泥だらけにした。


「そういう事か……」


 とガハム。彼もよろいを脱ぎ捨て、粘土の中へ飛び込んだ。

 大男は起き上がると――部下が持って来た水瓶に――燃えそうな物を放り込むように言う。


 人間族リーン1人が入れる程の大きさの水瓶だ。

 当然、大きくて重い。それでも迷うことなく、大男は火をける。


 そして、燃えさかる水瓶を持つと、逃げる巨人を追うように走り出した。

 ガハムもそれに続く。


「うおおぉーっ!」「だああぁーっ!」


 2人は器用に走りながら回転する。次第に回転する速度を限界まで上げた。

 水瓶から燃え上がる炎を身体に浴びながらも、2人はまらない。


「うりゃあぁーっ!」「どりゃあぁーっ!」


 燃え盛る水瓶は綺麗な放物線を描き、巨人の後頭部へと激突する。

 くだけ散ると同時に、巨人の顔を焼いた。


 それがほぼトドメになったようだ。

 最後の気力を振りしぼり、逃げ出そうとしていた巨人の心を折る。


 すさまじい咆哮ほうこうを上げた巨人だが、火を消すために転がり回る力もなかったらしい。

 最初は両手で顔の炎を払っていたが、すぐに動きをめた。


 同時に巨人の屁も止まる。


「やった……やったぞーっ!」「オレたちの勝ちだぁ!」

「ひゃっほーっ!」


 一斉に喜び、こぶしを上げて飛び上がる部下へ、


「まだだぁ!」


 と大男。その鬼気迫る表情と怒号に部下たちはおろか、蜥蜴人リザードマンたちも動きをめる。

 いったい、 なにが起こるというのか? 考え込む部下たち。


 だが、その答えはすぐに分かった。死んだハズの巨人の尻からウネウネとした黒いモノが――ブビビビィッ!――と飛び出してきた。


 何人なんにんかはける事が出来ず、被害にあったようだ。

 大男は急いで砂を掛けてやるように指示する。


 そう、スライムである。

 ダークウルフを吸収した所為せいだろう。


 漆黒のダークスライムとなっていた。

 どうやら、戦いはまだ終わっていないらしい。


 大男たちの戦いはこれからだ!

 彼らの今後の活躍に、ご期待ください。

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