第150話 尻を狙え!(1)


 四つ腕の巨人がいきおいをつけ、徐々じょじょに加速をしようとする。

 しかし、腕が4本もあるため、バランスが悪いのだろう。


 大きく足を前へ出した途端とたん――ズルリ――と足をすべらせる。

 まるでコントのように、盛大に後ろへとコケた。


 いや、腕が重たい事だけが理由ではない。

 足をすべらせたのは、地上に点在するスライムたちによるモノだ。


 意思がないように見える魔法生物だが、生きるための知恵は持ち合わせている。

 人や動物を転ばせ、その肉をかしてらう。


 捕食者としての知恵だ。巨人としては、腕がり子の役割を果たすことで、加速をする想定だったのだろう。


 だが、運悪くスライムをんでしまった。

 まるで『バナナの皮』をんだかのような、見事なコケッぷりだ。


 まあ、大男たちが、そこら中にビッグスライムを作っていた。

 あの巨体では――


まずに歩く方がむずかしいだろう……)


 結果、地面に転がった四つ腕の巨人はスライムまみれになる。

 一部のスライムたちは巨人が倒れた衝撃で上空を舞う。


 そして、ビチャビチャと音を立て、倒れた巨人へとそそいだ。

 ネバネバの粘液ねんえきは見ているだけで気持ちが悪い。


 だが、ここからが大男たちの反撃開始となる。

 待っていました!――とばかりに地面から蜥蜴人リザードマンたちがいきおいよく飛び出すと巨人の顔面目掛け、槍を投擲とうてきした。


 更にはお約束の香辛料爆弾を炸裂さくれつさせる。

 巨人が起き上がる前の今が好機チャンスだ。


 頭が低い位置にある内に目をつぶす作戦である。

 これはたまらん!――といった様子で、慌てて顔面を両手でおおかくす巨人。


ずかしいの、イヤイヤ……」


 そんなアテレコをすると面白そうだが、大男たちからすると命懸いのちがけの戦いである。

 黙って見守ることにしよう。


 地面に倒れた巨人には腕が4本もある。

 そのため自由に使える腕が――まだ2本も――残っていた。


 当然、地面に手を突き、起き上がろうとする。

 この辺は腕が多い者ならではの特権だろう。


 顔面を防御ガードしたまま、器用に上半身を起こす。

 高い位置へと顔が移動したうえに、手で防御ガードされたのでは攻撃が通らない。


 本来なら一旦、距離を取るか、隠れる場面シーンなのだが、蜥蜴人リザードマンたちは武器を構えたまま動かない。まるですきうかがっているかのようだ。


 一方で大男たちは巨人の足の方へと集まっていた。

 別ににおいをぎに行ったワケではない。


 巨人の動きを封じる事が目的だ。地中にある空洞トンネルでスライムを製造する要員、それを地上へと運ぶ要員――そして、投げつける要員とに別れている。


 まずは足を狙って、スライムを投げつける作戦だ。

 小さいスライムは融合することで大きくなる。


 大きくなったスライムはジワジワと巨人の足をかしていく。

 しかし同時に、スライムが大きくなると大男たちも危険だ。


 ほりを造る作業の経験から――スライムが融合した数で――どの程度の大きさに成長するのか、だいたい把握はあくしているらしい。


 仲間に被害が出ないように大男たちは連携を取りつつ、調整しているようだ。

 また、周囲の状況に対する警戒けいかいおこたらない。


 大男がめるように手をげると、部下たちは一斉に逃げ出す。

 隙をうかがっていた蜥蜴人リザードマンたちと一緒に地下空洞トンネルの中へと隠れた。


 どうやら、別の脅威が迫っていたらしい。

 四つ腕の巨人は後回しのようだ。


 その四つ腕の巨人は手がすべるためか、上手うまく起き上がれずにいた。

 スライムがべっとりと手にまとわり付いている。


 原因がソレだと気が付いた巨人もまた、頭を使う。

 フットケアが目的だったら良かったのだが、足はすでにツルツルピカピカだ。


 このままでは溶かされてしまうだろう。

 余裕のあった先程とは違い、必死のようだ。


 ようやく、自分が狩られる側だと認識したらしい。

 右手についてスライムを左手で取る。


 右手のスライムが左手に移っただけのようにも思えるが、スライムの取れた右手で地面を――ガシッ!――とつかむといきおいよく起き上がった。


 しかし、スライムに足を取られている。

 そのため、今度は前のめりに倒れ込んだ。


 スライムがそうなるように動いたのだろう。

 腕とひざき、地面との衝突しょうとつ回避かいひする。


 四つんい――いや、腕が4本あるから――この場合は『六つんい』だろうか?

 四つ腕の巨人は「こんなハズでは……」と戸惑とまどっているらしい。


 冷静な判断が出来ずに、動きが固まっているようだ。

 更に追いちを掛けるように、獣型の巨人が横を通り過ぎ笑った。


 さっきの『仕返し』なのだろう。自慢の毛皮は所々が焼けてチリチリで――もしくは火傷の後の肌が見えていて――お世辞せじにもカッコイイとは言えない状況だ。


 おおたいに滑稽こっけいな姿をしているのだが「お前にだけは言われたくない!」と思っているのだろう。


 四つ腕の巨人の顔に沸々ふつふつと怒りがいたようだ。

 真っ赤になっていくのが分かる。


 しかし、お互いにマウントを取り合っている場合ではなかった。

 獣型の巨人の顔に矢が直撃する。


 しかも香辛料爆弾のオマケ付きだ。四つ腕の巨人に気を取られていたようで、次の瞬間にはクシャミがまらなくなる。


 また、四つ腕の巨人の顔にも槍が突き刺さった。

 蜥蜴人リザードマンたちの攻撃である。

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