第149話 巨人襲来(4)


 俺が竹林の方を見ると、巨大な黒いうずが発生していた。

 竹林に隠れているため、その全貌ぜんぼうは確認できないが、縦に長い楕円形だえんけいのようだ。


 恐らく『白闇ノクス』が作り出した転移用の魔法門ゲートだろう。

 逃げた魔物モンスターたちの痕跡こんせきが消えた原因と見ていい。


 それがゆっくりと広がってゆく。黒いうずの向こうから巨人の顔が見えたが――魔法門ゲート身体からだ全体が通り抜けるには――まだせまいらしい。


 あの辺りはまでは、女神エーテリアの領域下なのだろう。

 『白闇ノクス』の能力が制限されている――と考える事が出来る。


 そのため、魔法門ゲートを展開するのに時間が掛かっているようだ。


(各地で神殿をねらっていたのは、そういう事か……)


 『白闇ノクス』が力を行使するには、この世界の神々の存在が邪魔なようだ。魔物モンスターや人心を掌握しょうあくし、少しずつ――だが確実に――世界を侵食しんしょくしていったのだろう。


 竹林から誰も出て来なくなった頃、魔法門ゲートからようやく、2体の巨人が姿を現わす。

 大男たちは最初の逃走に成功したようだ。


 彼らには――異変があった際は――すぐさま逃げ出すように伝えてある。

 俺の指示通り、異変に気が付いた大男たちは逸早いちはやく逃げ出したらしい。


 そういう作戦なのだが、見事な逃げ足である。

 彼らに巨人や『白闇ノクス』の相手は無理だ。


 悪いが、敵をおびき出すためのになってもらった。

 『白闇ノクス』が姿を見せたのなら、それに越したことはない。


 後は俺が対峙たいじするだけなのだが――


(どうにも、出てくる様子はなさそうだな……)


 まだ巨人が残っているので、戦いは巨人にまかせ、自分は何処どこかに身をひそめているのだろう。


 人間族リーンたちには倒すことが出来ない――と思っているハズだ。

 そうなると巨人を倒すには『俺が出て行くしかない』と『白闇ノクス』は考える。


 姿を現すのはその時だ。

 神殿をねらうのは、俺が都市から離れた状況タイミング以外にない。


 逆に考えるのなら『白闇ノクス』自身が『俺とは相性が悪い』と自覚している事になる。

 油断している相手をおびき出すのは簡単だが『警戒されている』となると話は別だ。


(俺が出て行けば、魔物モンスターに勝つことは出来るが……)


 それでは『白闇ノクス』に神殿をうばわれてしまう。

 どうやら巨人との戦いは人間族リーンたちに任せる他ない。


 俺が『白闇ノクス』に集中する事が勝利条件のようだ。

 作戦は与えているので――


(今は大男たちを信じるしかないか……)


 その大男は逃げる際に、竹林へ火を放ったようだ。

 火の手が上がり、見る見るうちに煙が立ちのぼる。


 前以まえもって竹林へ、燃えやすい物を運んでおいた。

 乾燥している事もあり、燃え広がる速度スピードは思ったよりも早いようだ。


 それにいきおいもある。俺の位置から見ると――燃え盛る炎を背景バック髑髏どくろ装備の大男が走っているので――こっちの方が魔物モンスターっぽい。


 巨人も出現したようだが、立ち込める煙で姿の視認が困難だった。

 燃やした資材については、城壁まで敵が来た際に使う予定だったモノばかりだ。


 城壁の上から火をけた竹のたばわらを投げ、敵を迎撃げいげきする予定だったのだが、昨日は使用する機会がなかった。


 そのため「ここで再利用」というワケである。

 風向きによっては、都市へ煙が向ってくる可能性もあった。


 だが、今は大男たちの部隊が巨人から逃げるために時間をかせぐ必要がある。

 いざとなれば、エーテリアに出してもらった雲から雨を降らせて――


鎮火ちんかさせよう……)


 巨人たちも眼前に火の手が上がり、戸惑とまどっているようだ。

 昨日は悠々ゆうゆうと歩いていたが、今回はしばらくの間、立ちまっていたように見える。


 やはり、巨人も炎が怖いようだ。


(いや、当然か……)


 生物にとっての本能みたいなモノだろう。

 それでも、巨人は迂回うかいをせずに炎の中へと突っ込んだようだ。


 『白闇ノクス』から命令を受けているとはいえ――


(よくやるな……)


 まあ、俺もそうなる事を予想して火を点けさせたので、ひどいヤツである。

 両腕で顔をかばう姿勢をとり、2体の巨人が炎の中から現れた。


(なるほど、そういう事か……)


 2体の内、片方は腕が4本もある。

 昨日あたえたダメージが大きかったのだろう。


 2体の巨人を1つの巨人へと作り変えたらしい。

 3体いたハズの巨人が2体になったのは、それが理由だ。


 少しガタイが良くなった気もするが、腕の数以外は、あまり変わっていない気がする。つぶした目を修復するのに、魔力を使ったのだろう。


 一方で、片方の巨人は地面を転がり回っている。

 こちらは身体が中途半端に黒い毛でおおわれていた。


 ダークウルフを食べる事で傷をいやしたようだ。

 だが、十分ではなかったらしく、中途半端な獣型の巨人の姿になっている。


 見た所、手足は人型なので、毛皮を被った巨人という印象しかない。

 尻尾が生え、頭部から背中に掛けて、真っ黒な毛でおおわれている。


 早速、その毛に引火したらしい。

 背中と尻尾の火を消すのに大忙おおいそがしである。


 四つ腕の巨人が「やれやれ」といった態度で、地面を転がる獣型の巨人を一瞥いちべつすると、今度は都市目掛けて突っ込んできた。


 どうやら、もう1体の巨人と歩調を合わせる気も、大男たちも眼中にないらしい。

 これは――


(こちらに分があるかもしれないな……)

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