第148話 巨人襲来(3)


 意気いき揚々ようようと正面から出陣する大男の部隊。まずは倒れているダークウルフのもとまで行き、確実に息の根を仕留しとめるのが狙いだ。


 共食ともぐいを始め、魔結晶を強化され、上位個体へと進化されると面倒である。

 確実に倒せる時に対処した方がいいだろう。


 勿論もちろん、弱っているダークウルフがおとり巨人サイクロプスが別方向から出現する可能性もある。

 そのため、機動力のある地走鳥ロックバードに乗った女剣士たちの部隊には、反対の北門の方で待機をしてもらっている。


 昨日は逃げ出した敵が忽然こつぜんと姿を消した。

 蜥蜴人リザードマンたちが地走鳥ロックバードで追跡していたらしいのだが、途中で痕跡こんせきを見失ったらしい。


 恐らくは瞬時に移動できる転移魔法のようなモノがあるのだろう。

 結果、敵が正面から来るとは限らない可能性が出てきた。


 想定外の襲撃しゅうげきそなえ、兵力は分散する必要がある。

 本来は俺が先頭に立って戦うべきなのだろう。


 だが、そうなると街の警備がおろそかになる。

 【終末の予言】の通り、都市に魔物モンスターの軍勢による襲撃しゅうげきがあった。


 それ以降は曖昧あいまいな記述のようだ。

 なんらかの制限があるのだろう。


 【終末の予言】にある強制力を利用するため、魔物モンスターの大軍を準備して行動に移した『白闇ノクス』。


 その強制力に抗える――異世界人である――俺の存在を確認した今、【終末の予言】にしたが利点メリットは少ない。


 本来の目的に移るハズだ。

 【神器】を生み出す事が出来る神殿。


 『白闇ノクス』の狙いが『この都市の神殿を手に入れること』にあるのなら、俺はそちらに備えなくてはならない。


(『白闇ノクス』の能力に対抗できるのは現状、俺だけだ……)


 結果、今回の俺の相手は『白闇ノクス』になる。何処どこから出現するのか分からないので、都市全体を見渡せる中央にある神殿の屋根で待機だ。


(高い場所は暑いので、早く出て来て欲しい所なのだが……)


 俺が『神殿にいる』という事は、女神であるエーテリアも『神殿にいる』という事になる。そうなると神殿本来の機能が回復するらしい。


 勿論もちろん、エーテリアのために造られた神殿ではないため『すべての機能が万全』というワケではない。


 それでも、神殿でいのる者がいるのであれば、多少の奇跡きせきを起こすくらいは出来るそうだ。取りえず、暑いので雲を出してもらった。


流石さすがは『天空の女神』……)


 天候を操るくらい造作ぞうさもないようだ。

 今は神殿を中心に都市全体へと、雲が広がりつつある。


 また、神殿がエーテリアの領域となったため『都市を含む周辺は一種の結界の中にある』と考えていいそうだ。


 弱い魔物モンスターは近づけず、『白闇ノクス』が転移魔法を使用するのなら、それも不可能になる。


(だったら、もう少し早く教えて欲しい所なのだが……)


 俺が人々の心を一つにまとめ上げた今だからこそ、可能となった『神の御業みわざ』のようだ。


 エーテリアの眷属である俺が人々から信頼を得たため――信仰という形で――彼女の力へと変換されたのだろう。


 特に意識せず、人々に手を貸して来たが、無駄ではなかったらしい。

 感慨かんがいぶかいモノもあるが――


(喜ぶのは、この局面を乗り越えてからだ……)


 いくつかトラップを仕込んでいるので、大男たちの部隊は慎重しんちょうに進んでいるようだ。

 進軍の速度は遅いが、街から離れると、それだけ危険が増す。


 相手の出方も分からないので、慎重なくらいが丁度いいのかもしれない。

 やがて、香草ハーブくされた草原へと辿たどり着く。


 そこでダークウルフのれの一部と衝突しょうとつしたが、相手は弱っている。

 立ち上がり動けたとしても、腰をヘコヘコとさせていた。


 その足取りもフラフラとしており、今にも倒れそうだ。

 弱っている魔物モンスター相手に負ける彼らではない。


 強いヤツには尻尾を振るが、弱いヤツには容赦ようしゃないのが彼らである。


「ヒャッハー! ウルフは殲滅せんめつだぁ!」


 数日前までは覇気はきすらなかった寄せ集めの連中が、今は生き生きとはしゃいでいた。

 人間、変われば変わるモノだ。


 大男が指揮をる中――昨日の戦いで荒れた大地へと――倒したダークウルフの死骸しがいを放る。


 やっつけたダークウルフに対し「ビチャッ!」と用意していたスライムを投げつけた。


 ダークウルフの死骸しがいわせる事で、スライムが大きく成長する。

 また、周囲に砂をく事でスライムの移動を封じる事が可能だ。


 砂や水は地中を進む蜥蜴人リザードマン部隊からの補給を受けていた。

 地上は俺が『豊穣の杖』を使用し、植物を成長させたため、土になっている。


 だが、地中はまだ、砂のままだ。

 木の根で作った空洞トンネルを進むとはいえ、砂が入り込み邪魔をする。


 その砂を大男が率いる地上部隊へと渡しているに過ぎない。

 スライム作業に関しては、大男たちの方が手慣てなれている。


 平地なので障害物がない。

 そのため、スライムの壁を作りながら進む作戦だ。


 スライムが成長しすぎた場合、砂を掛けることで、適度な大きさに調整する事も可能である。そうやって、慎重に前進していく大男たちの部隊。


 だが――竹林を越え――姿が見えなくなった辺りで笛の音がなり響いた。

 駆け足で一斉に男たちが戻ってくる。

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