第147話 巨人襲来(2)


 予想通りの結果で助かる――いや、予想以上に「敵の数を減らす事が出来た」と言ってもいい。本来ならダークウルフによる夜襲やしゅうがあったのだろう。


 だが、ヤツらはパンを食べていた。パンに混ぜてあったタマネギやアボカド、ブドウを食べたため、貧血などの中毒症状を引き起こしているようだ。


 余程、美味おいしかったのだろうか? 腹が減っていただけかもしれないが、案山子かかしに使用していたパンは、すべてたいらげていた。


(それが今回のような結果をまねくとも知らずに……)


 例えば、タマネギにふくまれている成分に『有機チオ硫酸化合物』がある。

 これは人体にとっては血栓症系の病気に対し、予防効果をもたらす。


 だが、犬にとっては中毒症状が出てしまう場合がある。個体差があるため、タマネギを丸々1個食べたとしても大丈夫な個体もいるようだ。


 逆に小さな欠片かけらを食べて重症化した犬もいる。他にも『食欲不振』『嘔吐おうと』『下痢げり』『呼吸困難』といった様々さまざまな症状が発症するらしい。


 発症するまでの時間は数時間から数日と言われている。

 様々な条件によって、大きく異なるようだ。


 よく言われる――目が染みる原因となっている――成分は『硫化アリル』で、こちらは血栓が出来るのを防ぎ、血液をサラサラにしてくれる事で注目されている。


 『有機チオ硫酸化合物』とは異なる成分だが、犬の身体からだにいいモノではない。

 タマネギを使った料理をする際は、犬が近寄らないようにするのがいいだろう。


 また『長ネギ』『ニラ』『ニンニク』『ワケギ』『ラッキョウ』にも『有機チオ硫酸化合物』が含まれているので注意が必要だ。


 次にアボカドだが、こちらは『ペルシン』という成分がふくまれている。


 犬以外にも馬や牛、山羊やぎに猫、マウスやハムスター、兎に鳥など、様々な動物にとって有害なようだ。


 また『森のバター』と呼ばれるアボカドはカロリーも高い。

 そのため、基本的にペットへは与えない方がいいだろう。


 ブドウについてはいまだ原因となる物質が特定はされていないらしい。農薬、カビ毒、ブドウ由来の未知の成分など、色々な可能性が考えられているようだ。


 近年では――ペットの特異体質によるモノではないか?――という説もある。

 その他『カフェイン』や『テオブロミン』も犬には危険だ。


 『コーヒー』や『チョコレート』を与えてはいけない――という話は有名だろう。

 しかし、気を付けるべきは、中毒を起こすような成分だけではない。


 昨日、ばらいた香辛料爆弾。

 胡椒こしょうなどの香辛料は、犬の胃腸にとって刺激が強すぎる。


 そのままげば、クシャミがまらなくなるのは勿論もちろんだが、食べると――胸焼けや食欲不振、消化不良や下痢、腹痛や嘔吐おうとなど――様々な症状が現れるだろう。


 人間でも香辛料をると、下痢げりや腹痛を起こす体質の人もいる。

 基本的に人間の食べ物は、犬にとっては危険なようだ。


 今、俺たちの眼前で倒れているダークウルフのれは『いずれかの症状を引き起こしている』と考えられる。


勿論もちろん、芝居という可能性もあるが……)


 全員でやる意味がない。昨日はえて深追いはせず、逃がしたのは、この状況になる事が分かっていたからだ。


 ただ、想定していた以上の効果だったので、り過ぎてしまった感はいなめない。

 また昨日に比べると、数もだいぶ減っている。


 恐らく、元気な個体は巨人サイクロプスを回復させるためのえさにされたのだろう。

 結果として、ダークウルフのれの壊滅へとつながった。


 パンで作った案山子かかしによる罠は成功といって良さそうだ。


(とは言っても……)


 主力である巨人サイクロプスはまだ残っている。

 喜んでばかりもいられない。


 昨日『白闇ノクス』があっさりと引き上げたのも、巨人サイクロプスが残っていたからだろう。

 逃したの巨人サイクロプスの数は3体。


 次に備えるべきはソイツらだ。

 以前からの作戦通り、地中部隊を出撃させる。


 実は『竜殺花』クリムゾンカルネージの種をいくつか収穫し、増やしていた。

 『竜殺花』クリムゾンカルネージの根を使い、地面に空洞トンネルを作って都市の周辺に張りめぐらせる。


 蜥蜴人リザードマンたちを苦しめていた植物だが、スライムに引き続き「利用させてもらおう」というワケだ。


 俺の戦術があるとすれば、それはビジネスだ。成功例を模倣まねし、更にアレンジを加え、差別化を図ることでと市場を切り開く。


(まあ、基本的に負けず嫌いなのだろう……)


 やられたらやり返す性分だ。作戦名は『サンドワーム』。

 蜥蜴人リザードマンたちも俺のり方は気に入ったらしい。


 暗い場所でも問題なく行動できる――ということで地中部隊は蜥蜴人リザードマンたちが担当し、おとりとなる地上部隊は大男たちが担当する。


 俺が渡した髑髏どくろの鎧を装備して、まるで蛮族ばんぞくの王のような姿になった大男が仲間を連れて出撃する。


 類は友を呼ぶ――という言葉は本当らしく、大男の仲間たちも柄が悪い。

 まるで山賊のようで、これから略奪を開始するかのようだ。


 ガハムは大男に向かい「カッコイイじゃないか!」と興奮する。


「だろう……」


 フフフンッ!――と得意気に胸を張る大男。

 どうやら、蜥蜴人リザードマンたちにも髑髏どくろ装備は好評なようだ。


(と思ったのが……)


 俺が視線を向けると、グガルとダタンは同時に視線をらした。

 コメントはひかえる――という意思表示なのだろう。


 どうやら蜥蜴人リザードマンの中でも、好みが別れる格好らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る